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第9章 新世界狂想編 

揺れる帝国!? 皇帝は… そして、機神誕生の秘密

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「ぐぅ……!?」

カナエ達が聖女と帝国勇者を捕らえた頃……

聖女達に合わせて、王国に再びの侵攻を開始した帝国の皇帝が玉座で呻く。

「身体が…… 動かん!?(おかしい! 皇帝のわしが苦しんでるのに…… 家臣達が動かん!?)時が…… 止まっている?」

「ひさしぶりね……」

時が止まった空間に、ローブ姿の人物が現れて…… 皇帝に話し掛ける。

「!? 貴様は…… あの毒婦の娘!」

ローブの人物がフードを脱ぐ…… その顔を見て、皇帝が声を荒げる!

「やはり…… 緑人になりすまして、不正アクセスしていたのは…… 貴方だのね。兄さん…… と、呼んだ方がいいのかしら?」

「ふん! 汚らわしい。わしは認めん! 何が不正アクセスだ! 元はと言えば…… 全て、九重の資産! 全てをわしに返して、あの毒婦と消え失せるがいい!」

「消え失せるのは…… 貴様だ」

威厳の在る声と共に、初老の恰幅が良い男が現れる…… その姿に王者の様な風格をただ寄せる男。

その男の姿に…… 皇帝が恐れ戦く!

「そんな…… まさか、親父なのか?」

若き日の父の姿が重なる男の隣に…… 皇帝は、さらに信じられないものを見た。

「馬鹿な!【お袋】は…… 死んだはずだ!」

若き母の姿をした【妖精神】が、男に寄り添っていた。

「ひさしぶりね…… 馬鹿息子。貴方があの子に辛く当たっていたのは、知っていたわ」

「何故だ! お袋!? 親父を騙し、九重の財を狙う毒婦共を、何故に庇う!」

「旦那様が一代で築き上げた会社を…… 政治遊びで潰しかけてる貴方よりも、あの子達の方が良いに決まっているでしょうが」

飽きれ顔で妖精神が言うと…… 皇帝が押し黙る。

「そんなに政治が好きなら好きにするが良い、会社もくれてやる……」

「本当か!」

「しかし、社員はやらん! お前のくだらない悪事に社員達を巻き込ませる訳にはいかん!」

「ちょ、ちょっと、待ってくれ! 社員がいないと会社が……」

「あら? 貴方には、信頼できる部下がいるじゃないの? ねぇ~…… スパイさん」

皇帝の臣下の一人に、妖精神が目を向ける。

「ヒィ!?」

止まった時の中で、悲鳴を上げた臣下に注目が集まる。

「私達の夢の世界で…… ずいぶんと悪さしてくれたみたいね…… バレ無いとでも思った?」

「お前に賛同する者達は置いて行く…… 好きにするが良い」

「待って、親父」

「ああ…… お前が妹に嫌がらせをしてる間に、政治も動いたぞ」

「何を……」

「貴方が懇意にしていた、政治家の先生が注目されてますよ」

「誰だ!?」

「初めまして、お義兄さん…… 貴方の嫌いな妹の旦那ですよ」

「な……」

「ああ、貴方が嫌がらせをしている我が社ですが…… 設立に九重の資産は使われて下りませんので、貴方達の行為に対して被害届を提出しました」

「くっ! 若僧が!」

「それと…… 彼女に対しての誘拐未遂と当時の目撃者に対しての暴行で、実行犯のお孫さんとお仲間さんに逮捕状が出てますよ。勿論、主犯の貴方にも」

「!?」

「今さらログアウトしても無駄じゃ…… 捕まる前に離婚届に判を押せ。それがお前に出来る…… 最後の家族孝行だ」

「ふざけるな! あの馬鹿息子め…… 九重の財を捨てる気か!」

「黙れ! 馬鹿息子はお前だ!」

「貴方以外に、妹憎さに孫を巻き込む馬鹿が…… 何処にいるの」

怒る二人の迫力に、皇帝が黙るが…… その目には憎しみを宿して開発者の女性を睨んでいた。

「誰に唆されたか…… 新世界このせかいがお前に扱える訳があるまい」

「ふん、たかがゲームの世界……」

「そのゲーム世界の利権を狙ったのは、貴方でしょうが」

魔法などのファンタジー要素を除けば、極めて現実リアル新世界このせかいは…… 色々な企業の実験場として契約していて、かなりの額の契約金が動いていた。

「お前では、すぐにボロが出て…… 国に摂取されるだけだ」

「貴方に便宜をはかっていた政治家は…… ある国からお金を貰っていて、検察に追われているわよ」

「新世界では、私達は…… ただの管理者です。この世界を作るのは【緑人】と【蒼人】です。利益だけを求める者が支配したら、滅びるでしょうね」

「まあ、貴方達が…… もう、新世界このせかいに関わる事は無いでしょう。さよなら~」

この日…… 帝国の皇帝と臣下が一人…… 新世界で死んだ。

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 ~ カナエ ~

「何時から、私だと知ったの?」

親友こと、GMのお姉さんに問いただす。

「初めてのログインの時から…… 実は、先行販売のVRメットから、私の担当になる様に設定していたの」

「ちょ、職権乱用!?」

「違うよ。設定したのは【開発者】…… あの時、誘拐されそうになっていたお姉さん」

「え……?」

親友が【あの時】の事を話し始める……

「突き飛ばされた貴女は…… 無意識に反撃して、誘拐犯の足に噛み付いたの。その事に焦った誘拐犯の仲間に蹴られて…… 頭を強く打って動かなくなってしまった」

私が倒れた直後、騒ぎで人が集まり、誘拐は未遂になり…… 私は病院に運び込まれた。

「外傷は、たいした事無かったけど…… 意識が戻らないから、みんなで心配したのよ。【麗華】さんとお見舞いに何回も行ったし…… あまりに目覚めないから、ダメ元でロボットアニメ流したら…… 反応して、無意識ながら半目を開けて見て…… 終わるとまた眠っちゃうし」

道理で…… 寝ていた間に放送されたロボットアニメの主題歌が口ずさめた訳だ。

麗華さんは…… 誘拐されそうになった【新世界開発者】のお姉さん。

「ロボットアニメに反応する処を見た麗華さんが、新世界にロボットの要素を追加してくれたのよ」

「だからか…… テストプレイでロボット系を優先していたのか」

デンライ君が納得顔で頷く。

「アレ? 面識あるの?」

「同じテストプレイヤー仲間だよ。私はテストプレイ後に運営側になったけどね」

きっと…… 私の為にロボット系の下地を作って、私を見守る為、運営側に行ったのだ。

私は、親友に顔が見えない様に再び強く抱き付き……

「ありがとう」

泣きながら呟くと、親友が……

「当たり前でしょ」

泣きながら…… 抱き締めてくれた。

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