アリステール

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???~少年期

2年目

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母や父に見守られつつ、生を受けて2年ぐらい経っただろうか
誕生日を祝ってもらっての推測だが、大きくまちがってないと思う

口はまだうまく回らないけど、立って動けるようになった
活動範囲が少し広がったが、いまだ母の介助なしには家を出られないし体力ももたない

父の名はグレッグ。畑を管理しているらしく、朝早く夜遅い
管理職的な立場なのだろうか
自分が起きていられる時間と合わないから、たまに早く帰ってきたときぐらいしか会えていない
寡黙らしく、あまりかまってはくれないが、抱き上げてくれる腕は力強く心地いい

母の名はルシル。そんな父を外でも家でも支えている
乳離れが出来たぐらいからときたま父と一緒に家を出ているし、食事のときには作物の出来を相談しているところもある
人手がいる仕事がないときには針仕事をしていたりと、まさに内助の功を体現したかのようだ

そしてまだ会ったことはないが、兄が一人いるらしい。名はラリーとか
8歳も上で、村からほど近い街の学校に、親戚の家から通っているんだとか

いわゆる農家の次男坊というやつだな
・・・長男の英才教育とかじゃなければいいけれど

とかくこの世界の常識に、まだまだ疎い

勉強しようにもこの家には本がない
誕生日を知ることが出来るのだから暦を記したものがるのではと探してみたが見つからない
絵本のような簡単な物語の本もない。仕事用なのか分厚い出納帳のようなものは見かけたがそれきりだ

文字は少しずつ母が教えてくれる
アルファベットを組み合わせたような、英語に近い文法だった
そういえば、話し言葉は、それはもう生まれた時から聞いて理解していたのは何故なんだろうか
とはいえ、聞いて書いてなら逆にわかりやすいから不便はないし、と頭の片隅に追いやった



「今日は病院に行くわよ~。健康診断もしないとね」

言い聞かせるような母の言葉に、何度目かの違和感を覚える

どうにもこの世界は文明がちぐはぐだ

料理は竈で行うのに、火を使わない灯りがある
蛇口をひねれば水が出るのにお風呂はない
あまり多くはないけど馬の引かない馬車のようなものがある
電気的なものは見当たらないけど掃除機のようなものもある

健康診断なんて言葉はあるのに、熱が出た時には草を煎じて塗るなど民間療法とも思える対処をしている

一部分だけ発達しているようなちぐはぐさが、知識がある分違和感を強めていた




昼頃。母に背負われ村を出て1時間ぐらい経った頃、壁に囲まれた街に着いた
出入り口の門ではクレジットカードらしきものを門番に手渡して通行ができた

運転免許書みたいな、何かしらの身分証明書だろうか

街についてしばらくして石造りの病院に着く。木造の我が家と比べるとずいぶん立派だ
軒先にぶらさがっている文字の書いてある看板があり、恐らく病院とか産院とか書いてあるのだろう
扉をくぐれば、外と比べるとひんやりとしており、空気も埃っぽくない

「あ、ルシルさん。おはようございます。あれから体の調子は問題ありませんか?」
「おはようございます、リリーさん。おかげで元気にしてます。今日はお願いしますね」
「はい。それじゃ待合室へどうぞ~」

やがて自分より大きな子、小さな子がひしめく場所に通される
それぞれの母親に甘えている子もいればガキ大将のようにとりしきる子もおりなかなかに騒がしい

(同年代だけじゃないみたい。何年かに一度、小さい子をまとめて健康状態を見てる?)

取り留めもないことを考えつつ、母の膝を尻に周りを眺めていた
やがて人数がそろったのかリリーさんがやってくる

「それでは健康診断を始めますね~。呼ばれた子からお母さんと一緒にこちらの部屋へお越しくださ~い。
他の子たちはお母さんやお友達と遊びながら待っててくださいね~」

母は友人と思われる人と話し込んでいた
畑の様子はどうだ、父と仲が良い、兄は学校で腕白なようだ、などなど

興味をひかれる話題もなく聞き流していると、ふと視界の隅にピンク色に光る球のようなものを見つけた

目をうつすと部屋の中を縦横無尽に、子供たちの周りを楽しげに飛び回っていた
しかし子供たちがそれに気づく様子はない

やがてこちらの近くまでやってくる
自由に動くそれを追いかけていると、塊になってこちらに飛びかかってきた
驚くあまり体をこわばらせる
まるで何事もなかったかのように体を通過していく
後ろにまわった光の塊は笑うかのように揺れて、やがて壁を通り抜けて消えた

(・・・なんだったんだろ)

通り過ぎたところを触っても何もなく、よくわからない

「アリスちゃーん、こちらへどうぞ~」

家族からはアリーとだけ呼ばれていたので自分の名前だと思っていなかったが、母が自分を持ち上げ扉に向かうことから本名と愛称を知った

・・・女の子っぽい名前だけど、付いてるよな、僕
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