アリステール

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???~少年期

日進月歩

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熱を出してから母には文字や簡単な算術、世の中のことを教えてもらっていた

文字に関しては日本語のような、漢字とひらがなを交えた見慣れた文体だった
とはいえ知っている文字と一致せず、この世界特有のものが多く習熟には難儀した
もっとも生まれたころからこの世界の言葉が聞き取れ理解出来ていた分は楽を出来たといえる
・・・そもそもなんで聞き取れたのか理解出来たのかというのは、あの世界の影響なのかこの世界だからなのかは考えてもわからなかった

算術については初めは数字、次に加法、減法だけだった
数字はアラビア数字に近く0もある
繰り上がりの計算は6歳からだった
この辺も少し、ちぐはぐな印象を受けたが、こういうものだと納得しておく

勉強していて驚いたことに、この世界の暦法は前世とほぼ変わりない
1年は365日で52週と一日、一月は大体30日
曜日は独特で、日曜にあたる日を陽の一、その後陽の二、三と続き土曜の七から折り返して陽の一に戻る
月の数え方は1月から12月。よく知ってる形だ
うるう年にあたる日はないらしい
天体云々は詳しくないけど、きっとずれがない天体なんだろう
西暦にあたる言葉は王暦、自分が生まれた年月日を言うと、王暦530年、3月23日となる

時間に関しては日時計や砂時計が多く、それを機械式にしたものもあるが高価のため村にはないらしい
24時間で区切られてはいるが、村の生活でそこまで気にする人はおらず日の位置と影でおおよその時間を計っているんだとか
王の住む都には時間がずれない大時計がある、らしい。母も伝聞で聞いただけと話す
いつかそれを見に行くのもいいかもしれない

そのほかにも、
魔力だけで生まれた魔物と呼ばれる生物がいること
魔法を扱う獣がおり、魔獣と呼ばれていて、高い知性を持つこと

人族のほかに、獣人族、森人族、妖精族と呼ばれる種族がいること
それぞれの種族が国家を形成しており、行き来は盛んであること
僕たちが属する人族国家では王制・貴族制であり、この村もとある貴族が治めている土地であること

学校ではある程度の素養がある種族が集まり、それぞれの素養に応じて学ぶということ
学校へ通えるようになるにも試験を突破する必要があること
素養がない場合は親の仕事を継ぐか、冒険者として生計を立てることが多いこと
素養については7~8歳の10月に教会が選定という儀式で知ることが出来ること、などを教えてもらった

魔力が見える・魔法が使える人はかなり少数のため、諸々の都合も合わさって無償で学校に通えるらしい
7歳以上で、始まりは1月からだそうだから、来年には学校通いが始まることになる
諸々については教えてくれなかったけど、王制、貴族制という言葉から少し不安を感じた

冒険者には専用のギルドがあり、そこで仕事をこなすことで賃金を得る、らしい
日雇いか派遣みたいなものだろうか
軍以外で魔物や魔獣を相手取ることもある危険な仕事もあるんだとか
男心ながら興味を惹かれるものがあるが、母も詳しくは知らないらしいので、学校へ行くようになったら調べてみよう

選定では、おおよその身体能力や魔力、どんなことが得意かなどを調べる儀式をするらしい
絶対の指針ではないものの教会のお墨付きというのはある程度効力を持つらしく、国に所属していれば誰でも受けられるとか
この世界特有のいろんなイベントは初めてのことが多く、少し楽しみだ



あれから魔法についてはおよそ考えつくことは習熟出来たことと、ある程度運動が出来るようになったことから体力づくりも平行して進めている
両親の仕事を手伝いつつ、時間が出来たときには村の近くにある森へ行き、入り口の近くで森の中を走る、木登り、病気のときに使う薬草集めなどをしていた

はじめたうちはうまくいかないことで飽きも来ていたが、体力と魔力に関係があることを知ってからは積極的に体力づくりに励んでいる

魔法に関しては畑仕事や針仕事に応用できそうだが、子供のうちから楽を覚えても身にならないと母から強く言われたため、あまり使わないようにしていた
その通りだとも、せっかく健康で動かせる体でもあるのだからもったいないとも思ったのでその通りにしていた

ある日、森の中につくった秘密基地で魔法を練習していたとき、出来ることが増えていることに気が付いた
魔法に慣れたからだろうかとも思ったが、どうも体力や器用さに比例しているのではと思った
より早く、長く走れるようになったら、魔力の出力を上げて規模を大きくさせられた
より緻密に、丁寧に針仕事が出来るようになったら、細かく制御して範囲を絞ったり指定することができるようになった

このことに気付いてからは勉強にもより一層身が入るようになったし、体力づくりも辛いなかで楽しみを覚えて続けられた

魔法については一進一退だが、成果もある

当初は風だけで物が切れないかを試していて出来なかったが、水や砂を混ぜることで容易に切れることを発見した

転移以外の移動手段が欲しいと風で空を飛べないか試して、姿勢の維持が難しすぎたため断念した
単純に空を飛びたいと考えて魔法を発動させると、不思議と簡単に空が飛べた
空を飛ぶというよりは宙に浮かぶだったが、イメージだけで自由に体を動かすことも出来た
速さを出すときには風を吹かせれば問題もない
亜空間倉庫や空間転移の類だったらしい。学校へ行くようになれば、こうした不思議な魔法について調べてみよう

薬草を集めるために、ものがなんなのかを鑑定する魔法は試してみたが、この世界のものに詳しくないためかうまくいかなかった
見た目が似ている毒草もあったため使えないと分かったときは意気消沈したが、その分植生に詳しくなれた

また森の中に入ることで野生の動物の気配を探れないかと索敵の魔法を試したところ、こっちはうまくいった
空気中の魔力が感情の揺らぎで反応することに気づけたことの応用で、自分を起点に魔力を薄くのばして揺らぎを感じやすくすることが出来た
もっとも、感情の揺らぎがなければ察知出来ないし植物や虫には反応しないことから、ある程度の知能がある相手に限定される欠点もあった
加えて感情の揺らぎを抑えたり無くしたりした場合にも恐らく無意味だろう

魔力や魔法だけでなんでも解決することは出来ない
相互関係はあるので、専門の勉強も合わせてすればきっと魔力の応用範囲も広がってくれると期待したい

結局は魔法のためとなってしまうが、娯楽もなく、ゲームや物語のなかでしかなかった魔法の存在は代えがたい趣味となっていた

そうして気づけばおよそ5年経ち、7歳を迎える

4月の中頃


朝から畑仕事を手伝い、母の針仕事もなく暇を飽かして森の中の秘密基地を改造していた
土を魔法で形成して、魔力による固定もしたほぼ石造りにした小さな小屋

他の人が寄り付かないような大きめの池の小島に作り、さらに光の迷彩をほどこして外部から視認しづらくしている逸品だ
自身の魔力で作り上げたからか、補充をしなくても一か月はもつ転移のマーカーとしても使える
どうせ行き来して使うのも自分だけだから、と池も最初見つけた時より深く大きくしておいた

今日は重力の関連で出来ることがあるか試してみようか


範囲を指定して影響を限定させればどの方向にも重力は発動する、と
向きを反対にすれば斥力としても使えそう
また練習して、すぐに発動できるようにしないと実用は難しいかな


太陽が傾いて山向こうに隠れようとしていた時分。そろそろ帰らないといけないなと顔を上げたところで、
奥の森から真っ黒なソレがあらわれた


目は瞳孔まで血のように真っ赤で、口からはよだれのようなものを大量に流しており、
体は黒い靄に覆われて揺らめいていた


村の猟師がとってくる動物とはなにかが違う

ほんの一瞬か、何分も経っていたか

初めて向けられる純粋な悪意に身を竦めていた体は、
大きな池をものともせず襲い掛かってくる牙を無防備に受け止めようとしていた
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