アリステール

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少年期~

選定に向けて

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魔物と遭遇した日からすでに6か月が経とうとしていた

あれから飢えた黒獣という魔物は出現していない
森へ行ったときに別の魔物を見つけたこともあったが、猟師が対応できる範囲だったらしく問題になることはなかった
森への警戒体制は解けていないものの、それも時間の問題だろう

畑仕事や体力づくり、魔法の練習に加えて本を読むことも習慣となっていた
村や畑の管理に関する本がほとんどだったが、中でも貨幣の価値についてやこの国の歴史・法律・宗教に関する本もあり、
これからの一助になることだろう

貨幣の価値に関しては、およそ大国4つ(妖精族・獣人族・森人族・人族)で多少変動はあるがおおよそ同じ単位で流通しているらしい
それぞれの国で貨幣は違うため交換のレートは気になるが、他国の貨幣でも持ち込めるというのはありがたい
いつか他の国を見てまわるのもおもしろそうだ

この国では大別して銅貨・銀貨・金貨で分けられている
銅貨1枚でおよそブレッドタイプのパン一つ程度の価値があるらしい
銅貨10枚で大銅貨1枚
大銅貨10枚で銀貨1枚
銀貨10枚で大銀貨1枚
大銀貨100枚で金貨1枚
もっと上の単位もあるそうだが本には書かれておらず、村長に聞いてもおよそ国単位で支払われるミスリル貨というものがあると聞いた
金貨10枚でミスリル貨1枚にあたるみたいだ

パン一つを100円と考えると、ミスリル貨って1億ぐらいだろうか
その単位まで稼げるとは考えられないが、魔物の買い取りが金貨1枚だったときを思い出す
それでも滅多に相手するとは考えられないし、よく聞けばミスリル自体も希少鉱石で市場には出回らないそうだ

歴史に関しては、この国はいくつかの王族が領土ごとに分かれて一つの国を統治しているらしい。王から王に分かれて下に貴族、その貴族の一つがこの村を治めていると
深く掘り下げた専門書というものでもなかったので詳しくは書かれていなかった
そもそも機密情報も多いだろうし、一介の村にあるとは思えない
ちなみに魔物に関して領主からの返事はまだない。まぁどこに住んでるのかも知らないし、知らせが届いているかも分からないのだが

法律も歴史の本とほぼ同じく知られる情報は少なかった
税金や刑罰は治めている貴族・王族が主体として取り締まっているらしい。奴隷もあるんだとか
嫌な予感は拭えないが、そういう世界なんだろう。出来れば関わり合いは少なくして生きていこう

宗教の本は少し興味深い
この国ではイーディアルノ神という一神教が国教として広まっているらしく、それにまつわる聖書のようなものがあった
前世でいうキリスト教みたいなものだろうか
最初のうたい文句が「信仰と徳を積めば救済をもたらす」とあって敬遠していたが、神話のように過去の偉業が飾り立ててある中で魔法に関しても書いてあった
およそ強大な魔物を倒したとか恵みの雨を降らしたとか壮大なものだったが、創作と考えるには緻密に書かれていた
必要になるかは分からないけれど、いつか再現してみるというのも夢がある

選定というのもこの宗教が関わっているため、少なくともこの国ではある程度の地位もあるのだろう
村では厚く信仰しているようではなかったが、人が集まるような街や王都ではまた違うかもしれない
街の教会で選定を受ける日も近づいてきた。予期せぬイベントもあったが、この世界での大きなイベントに胸を躍らせる
儀式と聞いたがどんなことをするんだろうか
どんなことがわかるんだろうか


これまで通りの仕事の手伝いや日々を過ごしつつ、やがてその日を迎える


「今日は選定の日だけど、本当に一人で行くの?」
「街までの道はもう分かってるし、モーガンさんの荷馬車に乗せてもらうから大丈夫だって」

特別な日だからなのか、いつもより少し豪華な朝食を食べながら母さんが尋ねる
儀式には親が付きそうこともあるそうだが、なんとなく恥ずかしかったので一人で行くと決めていた
帰りは転移で村に帰ることも出来るし、街を少し見て回りたいとも思っている

魔物の対応に関して村長へ物言いをしていたモーガンさんだが、村長の付き人のような役職らしい
今回は街の領主館へ作物を納めに行くついでに街へ着いていくことにしていた
あれからも本の扱いでぶつかることもあったが、基本的に村のことを第一に考えているためであって悪い人ではない。憎まれ役をしているといってもいい
むしろああして物怖じせず諫めることが出来るというのも大事な役割なんだろう
その辺のことがわかるにつれて付き合い方も分かったし、今では良好な関係ともいえる

「・・・まぁ、お兄ちゃんに比べてしっかりとしているから大丈夫だと思うけど、それでも気を付けてね」
「うん。道中も気を付けるし、誰かのためや身を守るときには考えて魔法を使う」
「ちゃんと覚えてるわね。出入りと教会に出す証明書だけ忘れないように準備しておくのよ」
「インベントリに入れてあるからばっちり」

今日まで兄に会うことはなく話で聞くことしかなかったが、ずいぶんと力がありやんちゃだったらしい
亜空間倉庫はインベントリと言い換えることした。あれから決めた系統ごとに物を分けられるようになったし、何が入ってるのか判別できるようにもなった
なにより名前が長いし
村の名前と両親の名前が記された証明書は街の出入りと選定のために用意された、今日一日だけのものだ

約束していた時間の少し前に村の入り口へ向かう
すでにモーガンさんと何人かがおり、積み荷を載せているようだった

「おや、アリスくん。もう来たんですか」
「おはようございますモーガンさん。今日はよろしくお願いします」
「おはようございます。あと少しで荷も積み終えますので、先に乗っていて構いませんよ」
「あ、でしたら手伝います。この木箱ですよね?」
「ええ、そうです。助かります、今回の積み荷はなかなか重いものが多くて」

抱えると、確かに足腰に来る重さだ
結局2,3個しか手伝うことは出来なかったけど、今日の村の手伝いがないことを思えば軽いぐらいだった

村を出てから街に着くまでも何もなく過ぎる
道中は索敵魔法を欠かさず展開していたが、端にたまにひっかかるものはあったがこちらへ向かってはこなかった
モーガンさんの村長の愚痴を適度に聞き流しつつ、早朝のためか門の前の少ない列に並ぶ
列も早々にはけ、証明書を出して門を通過する。ついでに門番さんに教会の場所を尋ねると、冒険者ギルドのあった通りをさらに奥に進むとあると教えてくれた
お礼を告げてその場を去る

モーガンさんにも連れてきてくれたお礼を言い、分かれて教会へ向かうことにした
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