アリステール

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少年期~

授業

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朝早く起きて、先生からもらった授業の要綱を読み込んでいく
時間から察するに8時始業で、午後からの授業は実践が中心となっている
魔法実践技術だけは他の科に比べて2,3日に一回となっているが、セドリック先生もあれで忙しいのかもしれない。実践初日も2日後となっていた
ひとまずは数字の小さい基礎科目を中心に授業を受けてまわって、時間が出来たところで詠唱式の練習と図書館で本を読み込もう

少し村の畑仕事を手伝う。まだ寒さが残っており厚手の防寒具が必要になるが、それを越した野菜は甘味が強く食べ応えがある
そんな後の楽しみを糧に作物を詰め込んだ木箱を貯蔵庫へ運んでいった

収穫したばかりの野菜をふんだんに使った朝食を終え、制服に着替えて学校へ向かう
街の門ではもらったばかりの学生証が役に立ち、すでに開いている雑貨屋の場所も教えてもらえた
雑貨屋では文房具や日用雑貨含め安価に売られており、きれいな紙とひもを巻き付けた鉛筆を買うことが出来た
鉛筆は手に余る大きさだが、インク壺や羽ペンを想像していた分使い勝手はそう悪くない
いつか見慣れた鉛筆も作られる日が来るかもしれない
自分で作るなんて高度なことは無理だ。周りが木で出来てることぐらいしか知らない

昨日と同じぐらいの時間には学校に着いた。学校の職員も朝早いらしく、ちらほらと姿が見えていた
近くを通った職員に声をかけ、訓練施設は今の時間でも使っていいか伺うと、寝泊まりしなければ特に時間的な制限はないと答えてくれた
いたんだろうな、そういう人も
お礼を告げて訓練施設へ向かう。受けようと決めた文学の授業まで少し時間もあるため、昨日本で読んだ詠唱式をいくつか試してみたい


1時間にも満たないものだったが、詠唱式の特性ととある傾向が見えてきた
以前に回復魔法を教わって使ったときと同様に、文言を唱えているときも魔力を消費する点は変わらない
詠唱式のトリガー自体がもっと単純なもので、そのとき消費した魔力をもとに魔力が変換され詠唱式の最後の文言が事象を起こすというものだった

詠唱式の文言自体も事象を具体的に想像しやすいようになっている
水なら塊、火なら球、土なら土塊、風なら刃といったものだが、突き詰めていけば最後の文言だけでも魔法は発動した
インベントリやマジックハンド、空間転移や飛翔も同様に、事象に関する文言をいくつか唱えたところで無詠唱でなくても発動させられた
無詠唱というのは恐らく何度も魔法を使ったことで自身の魔力の変換効率が上がったことで、感情・思考が研ぎ澄まされて出来ると推測する
自身の魔力を媒介にしていないことから一定の想像力と、空間の魔力に作用させられる魔力の変質操作が必要になると思われる
魔力に対するイメージが貧困であったことが、逆に良い結果となっていたと思われる

加えて、多分他の人より多いであろう保有魔力量も合わさっているかもしれない
空気中の魔力を吸収出来るということも考慮すれば、およそ規格外とされるオリジナルも扱うことが出来ると思われる

前回は時間がなくて初歩的な詠唱式しか調べられなかったが、補助性の魔法も含めて知識は蓄えるようにしていこう
一般的な魔法を知ることもそうだが、魔法でどんなことが出来るかを知ることもオリジナルの幅を広げることも出来るはずだ


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「ではセドリック先生が第三講堂へ入った時にはすでに今のような状態であったと?」
「そうですね。先にいたのはアリスとアリシアの二人だけでした」
「誰も第三講堂の清掃は依頼していないとなると、やはりどちらかが関係しているかもしれませんね」
「まぁ褒められこそすれ悪いことではないのですからそう邪険に取り扱うことはないと思いますけどね」
「それはそうなのですが、もし分かればその、依頼という形にして頼めないかと・・・」
「あっはは、そりゃ確かに。今度実践授業のときにでも聞いときますよ」
「ありがとうございます。お手間かけますが・・・」

(登校した時間と部屋の規模、第三講堂の清潔さを見れば魔法を使ったとみるべきで、選定の結果からしてもアリスの可能性が濃厚だ。
しかしそのあとの様子を見てもなんら変わりないうえにオリジナルで魔法を使ってさえ見せた。
一体君の底はどの辺になるんだろうかね)
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文字や算術の授業は母さんに習った内容をほぼなぞるぐらいだった。文学に関しては絵本の読み解きぐらいであまり身が入らなかった
まぁ年齢を考慮すれば妥当なんだろうけど、どの授業も数字が進めば高度になると昨日聞いたが、進んだ数字の先がどれも3だったような・・・?
いや、初回の授業だけで決めつけるのは早計か・・・早計だといいな

「やぁアリスくん。となりいいかい?」

学食で弁当を広げているとセドリック先生が学食のトレイをもってやってきた
口調が昨日と違う気がする

「こんにちはセドリック先生。空いてますので、ご自由に」
「こりゃどうも。今日も一人か、友達は作らないのか?」
「・・・大きなお世話です。やりたいことも多いので気楽に動けますよ?」
「そうだろうがな、張り合いを持つことも大事だぞ。ところでその野菜うまそうだな、ちょっともらっていいか?」
「少しだけですよ。僕の昼食なんで」
「んじゃ一口・・・んぉ、うま!なにこれ!」
「今日の朝収穫したばかりですから」
「まじかー。今度アリスんとこの村に遊びにいくわ」
「そこまでですか?」
「ばっかとれたての野菜ってだけで価値が違うわ」
「はぁ」

妙に野菜に対するこだわりが強いらしい
何度かおかずの攻防戦を乗り切りながら昼食を終える。無駄に疲れた

「そうだアリス。野菜に埋もれたけど用事があって来たんだった」
「忘れないでくださいよ」
「それだけうまかったんだ、俺は悪くない。で、昨日の第三講堂ってどうやったんだ?」

ぶっこんでくるなぁ

「先生の言うオリジナルの魔法ですよ。大分埃っぽかったんでつい。いけませんでした?」
「とんでもない。職員の間で話題が持ち切りだよ。学院長も喜んでたぜ」
「なら、なんでまた?」
「いろいろな状況から魔法を使ったんだろうってのはわかったけど、俺には無理だ。むしろそっちで余計につっつかれたわ。
で、もし出来るんなら他の部屋も依頼って形でやってくれないかって話が出てな」
「依頼?」
「ん?まだ冒険者ギルドに登録していないのか?」
「えぇ、出来るとは聞きましたけど、昨日は図書館に詰めてたので」
「そういうことか。冒険者ギルドっても街や近辺の村の便利屋って感じでな、双方の同意があればどんな依頼でも出せるし受けられるんだ。
で、学院は清掃の依頼を出してアリスが受ける。アリスはその報酬と冒険者ギルドでの実績が貰える。やってみるか?」
「・・・報酬はどれぐらい?」
「これから話も進めなきゃいけないが銀貨相当は出せるんじゃないかね?」
「・・・魅力的ですが、一度両親に話を通してからでもいいですか?」
「あいよ。それならギルドの登録が出来たら声をかけてくれ。依頼発注するから」
「わかりました」

個人的にはそう時間もとらないし、清掃して喜ばれて、報酬までもらえるとなれば受けない手はない
清掃ってことならある程度定期的に行えるだろうし、魔法の練習にもなる
悪いことに手を貸すわけでもなし・・・けど、一応母さんには魔法を見せて相談しておこう。まだ学院に身を置く立場だし
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