アリステール

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少年期~

勤労

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「ちょっと説教くさくなっちゃったね。私も王都で学院に通ってたから、つい」

そういえば魔力が見えると言ってたな、していた話から流してしまったけど

「いえ、大事なことだと思いますので。他に注意することはありますか?」
「うーん、細かい規則を言っていけばキリはないんだけど、それはまとめた冊子をあげるわ。
あ、アリスくんの場合実績はあるんだけど、規則としてみんな十級から開始になるからね。
あとは、さっき話した基本的な流れで仕事は受注できるし、よければ何か探してみる?」
「あ、それでしたら一緒に来てる先生が依頼を持ってきてるので、それの手続きをお願いしたいです」
「わかった。まずは話を聞くから、少し待っててね」

等級については気長に上げていけば良い。突発的なトラブルみたいなものだし、もったいないとは思うが依頼でもなかったのだから
セドリック先生も大分待たせてしまったようだが、初回の登録だからと流してもらいたい
後ろで待っていた先生に声をかけ交代すると、シェリルさんと先生で依頼に関する話を進めていく

「学院の清掃ですね。過去に何度か依頼もありましたし大丈夫ですよ」
「あぁ、アリスにやってもらう話がすでに出来ていてな。指名依頼という形で処理してほしい」
「なるほど、それでご一緒に。かしこまりました、手続きいたします。アリスくん、カードを貸してくれる?」

シェリルさんにカードを手渡すと、先ほどとは別の板を操作していた。あれも魔道具なんだろう
磁気を読み取るみたいに板にカードを滑らせると、手続きとやらも終わったらしい

「はい、ありがとう。これで手続きは完了です。報酬の受け渡しはどうされますか?」
「依頼完了に合わせてこちらで支払うつもりだ。出来によっては増額もあるのでな」
「かしこまりました。では依頼が終了次第ギルドへも報告をお願いします。終了時の記名も忘れないようにお願いしますね」

依頼書の簡易的な写しをもらう。これに記名してもらってギルドへ提出すればいいってことか
お礼を告げてギルドを出る。陽は傾き始めていたがまだまだ高い。日中ともあり寒さは大分和らいでおり過ごしやすい気候だ

「さてアリス、飢えた黒獣だったか。話してくれるな?」

冷えた視線はそんな感傷を吹き飛ばした



「はぁー。規格外だと感じてはいたが、それよりも斜め上をかっ飛ばしていったな」
「それでも、村やみんなを守るために魔法を使えたと思ってます」
「あぁ、そこに非を唱えるつもりはない。・・・それで、マジックハンドだったか。オリジナルか?」
「その時はオリジナルでした。でも前に訓練施設で試していたときは詠唱式でも発動しましたよ?」
「・・・・・・聞きたいことが増えたが、まぁいい。講堂の清掃ついでに、そっちも見せてくれるか?」
「わかりました」

学校に着き、まずは講堂の清掃から、となった。期限はないに等しいが仕事とあらば出来るだけ済ませておきたい
第三講堂とよく似た構造の第四講堂でまずは洗浄の魔法を展開していく
第三講堂でしたときと同じように、10分ほどで目立つ汚れはなくなっていた

洗浄と気温調整は詠唱式でも簡略化できなかったオリジナルだった。細かい調整が必要な分、詠唱式で再現するのも難しい

「・・・・・・なるほどね。こりゃ無理だわ。そんで使った規模のせいか魔力が濃く残ってる。アリシアが早く治ったのもそのおかげかな」

思わぬ副作用もあったようだが、半ば予想は出来ていたので驚きは少ない
むしろ同じような人に対しても良い効能ではないかと思うが、どこまで活用できるものか
悪い方向で考えると、あまり大きな声で宣伝するのは避けたい気持ちだ

魔力量は十分残っているし疲労感などもない。むしろ残った魔力を吸収して半分ぐらいは取り戻せている
後半は告げずにまだ大丈夫だと言うと呆れた顔をされたが、続けて少し広めの第二講堂、それよりも広い第一講堂と順に洗浄の魔法をかけていく
濡れては困るものは事前に退避させてあったが、魔力での範囲指定に少し手間取る
自分から離れる距離が長くなるにつれて魔力が操作しづらくなってしまっていたが、発想を変えて講堂の中心から範囲指定を伸ばすことで解決した
使う人の多さの違いか頑固な汚れもあったが、おおむね10分前後で作業は終わらせられた

成果を見て先生も満足げだったが、体調は悪くないかしきりに心配してくれた
あれだけ魔力を使ったのは初めてだったが、自分でも不思議なほど変化がない。なるほど規格外。でもありがとう規格外

「もう魔力に関してお前を心配することは止める」
「えー」


訓練施設へ場所を移し、まずはオリジナルのマジックハンドを発動させて見せる
前に魔物へ使ったときと比べて発光は抑えられているがより凝縮しているように感じる
それに伴ってか細かい制御も出来るようになっていた。今ならあやとりも出来る気がする
先生が傍にいなければいろいろ試してみたくもあるが、抑えておく

「ふぅん、なかなか便利そうだ。空中から腕が生えてくるだけでも驚きだが、それだけに色んな応用がききそうだ」
「そうですね。直接叩くにしても捕まえるにしても、死角から不意をつくことも出来ますよ」
「はー。アリス、使うなとはいわんが、やりすぎるなよ。それで、詠唱式はどうだ?」
「はい。『手をつくれ』です」
「・・・もう一度」
「? 『手をつくれ』です」
「まぁ、やってみよう。『手をつくれ』」

突き出された先生の手からブレるようにして薄い手が見える
自分試したときは詠唱式でも今回のように発動していたが、同じようにはいかないのだろうか
と考えたと同時に薄い手は消え、先生が倒れこむ

「え?せ、先生!?」
「・・・規格外だって忘れてたよ」

そう言い残してから、気を失ったように脱力させ横たわる先生だけが残る
・・・どうしよう
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