アリステール

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少年期~

先生

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とりあえずこのままにしとくのは良くなかろう、下は地面だし
インベントリからシーツを取り出し、替えの服を枕代わりにして横たえる
アリシアのときは体調が悪い程度にしか見えなかったが、急激に保有魔力がなくなるとこうなるのだろうか

それならついでにと訓練施設の壁や設備類に洗浄と、気温調整の魔法を使う
こういう用途なら惜しむつもりはない
目が覚めるまではマジックハンドがどう変わったか検証しておこう


試したところ、諸々の魔法の出力面が向上しているようだ。主に攻撃力が増したり強度が増したりと変化している
マジックハンドは強度と操作性が増し、以前使ったときより離れた場所へ発動させても強度は失われなかったうえ、3本まで発動させることが出来ていた
洗浄の魔法を扱うときの範囲指定や、続けてたくさんの魔力を扱ったことに関連している?
考察を重ねるが、はっきりと思い出せる因果関係はそれぐらいのものだ。現状で困ることはないが、出来ることが広がるのは嬉しい
30分も経ったころ、先生が身じろぎし始める。そろそろ目が覚めるだろうか


「・・・んぁ、ここは?」
「あ、先生。起きました?」
「・・・・・・あぁ、そうだった。すまんね、思ってたより魔力が持ってかれて、もたなかった」
「いえ、すみません。僕のほうこそそこまで考えが至らずに」
「試すといったのは私だよ。しかし並みの人にマジックハンドを使うのは難しそうだ」

学院に来るまで自分しか魔法を使う人がいなかったこともあるが、どうも魔力や魔法に関して鈍くなってしまっている

「で、だ。少しでもマジックハンドが発動していた以上、詠唱式には間違いがないと思うが不完全でもある」
「・・・というと?」
「水の攻撃魔法の詠唱式を思い出せ。事象に関する構成文になってるだろ?単語一つで出来たのはアリスだからだよ」

そういうことか。ある程度省略の仕方やオリジナルを知っているからこそ発動出来てもおかしくはないと
もとより詠唱式を教わる前でも似た結果を出せたんだから、自分で作ったオリジナルを詠唱式でも再現出来て当然だ

「その年で詠唱式の短縮が出来るというのも驚きだが、オリジナルを詠唱式に落とし込むことのほうがよっぽどだ。
アリス、魔法の実践技術は実習だけの参加で良い。今更どうこう教えられることもない」
「えっ」
「・・・不満そうだな」
「それは、いろいろ勉強したくてここに来たので」
「まだ3日だがいろいろとその成りは見てきたよ。これから騒ぎを起こさなきゃそれでいい。
授業に出るなという話でもないんだから、好きに学べ」
「・・・わかりました」

確かに、なんだかんだと関わることは多かったが、それでいいんだろうか?
いや、もともとは魔法の使い方や心持ちを指導するようなことも言っていたし、それこそこれから先トラブルを方々で起こすとかじゃなければってことだろうか

「それでいい。ここがキレイになってたり寒くないのも、このシーツもお前がしたんだろ?」
「はい。地面に倒れちゃいましたし、冷え込んで体調を崩してもいけないなと」
「そうやって人を思って力を使えるんだからいいさ。さて・・・もう6時か。ギルドの報告もだがお前さんも帰らないとな」

時計見てなかった!何かに夢中になるとすぐ時間が経ってしまう

報酬は後日ということになった。遅い時間だしそれはしょうがない
依頼書の写しに記名してもらい、それぞれの家路につく。街の中に家があるらしく、ギルドへ向かう途中で別れた

ギルドでは案内も受付も別の人が対応してくれたが、特段何もなく処理してもらえた
よくよく見れば周りに自分と変わらない年代の子や、15歳ぐらいだろうと思われる青年もおり、学院の制服を着ている人もいた
学院もギルドもあるからこそ誠実に対応してもらえるんだろう。すでにギルドカードもあるんだし無碍な扱いも出来ないか
報酬に関しても後日依頼した学院から支払われることも伝え、ギルドを後にする
そろそろ急がないと家に帰る時間が遅れてしまう。気持ち早足で門を出てから、走って村まで向かう

家に着いた頃にはすでに陽は落ちきっており、遅い時間になったことを母さんに厳しく責められた
ギルドの登録や初仕事の諸々を説明して納得してもらえたが、夕食のおかずが一品少なかった。心配をかけたことは事実なのでおとなしく受け入れる
学業に目途がつくまではギルドで仕事を探すのは止めておこうと決めた


思い返せば学院に通い始めてから濃い体験ばかりだ。大きなことは落ち着いたと考えてもいいかもしれない
授業にしても1個上のも受けてみようか。実践技術も他の人を見てみたいししばらくは受けたい
時間が出来るようなら図書館でいろんな本を読んでもいいし、村で両親の仕事を手伝うことも出来る

思えばずいぶん選択肢が多い。1回目の人生はさほど覚えていないけど、せっかくの2回目なんだから好きなように生きてみたい
そう考えるのは、贅沢ではないはずだ


翌日にも母さんにあまり遅くなるようなことはするなと注意される
それでもしっかり食事を作ってくれることに感謝しつつ、時間の管理をしっかりしようと改めて思う
収穫はひと段落ついたようで、今日は父さんもゆっくりするらしい。あれから魔物に関することは聞かなくなったし、見回りも落ち着き始めるそうだ

学校に着いてからは、また訓練施設で魔法の練習をする。日課のようになっているが、三日坊主にしないようには気を付けたい
今日は午後から実践技術もある。実践技術は在籍している学生が参加するようなので、年が違う人も集まるだろうから少し期待している

基礎項目の授業が1つ終わったとき、セドリック先生に呼び出される
依頼の報酬について話があると言われ、次の授業が文学1だったので付いていくことにした

なんのことはなく部屋一つにつき銀貨1枚が支払われることになり、その受け渡しをされた。計4枚。なかなかの稼ぎと言える
今後も依頼されることもあるが、ギルドへ通す前に学院で話をしてから、教員と一緒にギルドへ行き依頼手続きをしてもらえることとなった
指名依頼でもあるし、ギルドに記録が残っているとはいえ一人では手が届かないこともあるかもしれないと心配して、とのことだ
もちろん嫌ということもないし話もスムーズになるため断ることはない。ありがたく受けさせていただくと答える
時間が遅くなるのは困るというのは理解してもらえた。昨日のは色々と想定外のことも多かったから仕方がないのだが

話も早く終わったのでそのまま授業にも参加した。が、前回に引き続いて読み書きの延長だった
そのまま昼食となるが、なんとなく不完全燃焼の気分だ

「よ、アリス。また昼食交換しようぜ」
「・・・はぁ」

先生は味を占めたのか弁当のおかずを狙っているようだし。友達を作れという割にここまで絡むのはアリなんだろうか
とはいえ年上の意見を聞けるチャンスでもある
攻防戦を繰り広げ満たされたお腹をさすり話題を出してみる

「先生。授業の内容なんですけど、ちょっと、物足りないと言いますかなんというか」

下手くそか

「ん?あぁ、まぁアリスからしてみりゃそうだろうさ。こっちも話しててほんとに7歳児かいっつも疑うぐらいだしな」
「えぇ、まぁ、それはこの際置いといて、基礎項目の2や3の授業ってどんな様子なのかなぁと」
「んー、今の延長上ぐらいだな。そう難しい内容はないぞ?」
「え?そうなんですか?」
「大体は早けりゃ10歳で基礎項目は全部修めるやつが多いな。そのあとは自分で仕事見つけて働くやつのほうが多いよ」
「それでも学院に在籍していてもいいんですか?」
「あほう。実践技術があるだろうが」
「ということは、15歳まで残る人たちはそのために?」
「そうだな。・・・あー、アリスの実習どうするかも考えにゃならん。先に戻る。この後は出席するか?」
「はい。初めてですし、よろしくお願いします」
「気負われるとやりにくいがな・・・じゃあまた後でな」

詠唱式や魔力、魔法の扱いに関しては先達の胸を借りるように学んでおきたい
色んな思惑もあるが、いらないトラブルを招くかもしれないことは早めに対処しておくに限る。昨日のような失敗を繰り返さないためにも
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