アリステール

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少年期~

病院

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リリアンさんには2歳の健診のころにお世話になったのを覚えていることを話すと喜んでくれた
あの時とは髪形が変わっており病院の前で会った時にはすぐにわからなかったが、名前を聞いてからは顔の造形などが一致し始めた
相変わらず腕や足は細いのに胸の一部は盛り上がっている。背が高いから見上げると圧迫感を感じる
もう6年、もう少しで7年になるというのにほとんど変わっていないことに驚きを覚えるが、アリスという名前でどの村で誰の子供かを瞬時に思い出したのも驚きだ

入り口で話しているのもなんだからと病院の奥の応接室のようなところへ案内された
病院の中は相変わらず空気が埃っぽくなく、あたたかな空気が流れていた。外の寒さとは違う過ごしやすい環境だと思える
目立つところにそれらしきものは見当たらなかったが、何かしらの魔道具などで調整しているのだろうか

回復魔法に関して学びたいと思い病院を訪れたことを話すとリリアンさんは驚いていた。魔力が見えることは知らなかったらしい
先生を呼んでくると言って出て行ってしまったが、診療時間とかは大丈夫なんだろうか
心配はしても今出来ることはない。そして女性にはあまり逆らわないほうがいい。前世の記憶と母と叔母に絡まれた記憶からそう判断してじっと待つ

あれから30分はたっただろうか。リリアンさんが女医さんを連れて戻ってきた
スラっとしたモデル体型で背は少し低めだが、顔立ちは覚えているままだ
あれ、女医さんもあまり見た目変わっていないような・・・?

「お久しぶりです。お忙しい中すみません」
「や。アリスくんだったね、ちょっと昔のカルテを引っ張り出してたんだ。
私はユーフェミア。今の時間は忙しくないから大丈夫。お産を控えてるお母さんもいないしね。
それで?回復魔法について学びたいとリリーには聞いているけど?」

僕の周りの年上女性は妙に押しが強い気がする
そう思ったとたん二人からの視線が強くなった気がした。すみません、何も考えてません

「はい。2歳のころ、先生に回復魔法を教えていただいたことは覚えてます。
あれから魔力や魔法に関して勉強をして、学院でも学んできましたが半ば卒業に近い形になりました。
ただ回復魔法に関してはあまり学ぶ機会がなかったので、何かしらの形でここで学ばせていただけたらと思ってやってきました」

よし、待ち時間にどう伝えようかと考えていたことはちゃんと話せた

「ふぅん、なるほど・・・あれ?えぇと君ってまだ8歳だよね?」
「え?はい。今度の3月で9歳になります」
「・・・ずいぶんしっかりしてるね。お母さんも丁寧だったけど、ちゃんと教えられているようでなによりだ。
んーとはいえ、どうしたものかな・・・」

年に関しては諦めた。清掃で出入りした人たちにも散々言われてきたけれど、改めて子供が話すように振る舞うのも面倒くさい
ユーフェミアさんは渋そうな顔をしている。やはり何かしら不都合があるのだろうか

「学院生ってなら冒険者ギルドには入ったかい?何かしらの討伐経験は?」
「ギルドには入ってます。討伐は、第三級の魔物を学院に入る前に一体だけあります」
「さ、さんきゅう?・・・いや、この際真偽はおいとこう。血や肉、臓物。果ては死体。これらを見て気分が悪くなることはないかい?」
「以前の討伐ではありませんでした。解体は冒険者ギルドに任せたので見てはいませんが、多分大丈夫だと思います」
「ふぅん。一応産院も兼ねてるけど、ここでは色んなケガ・病気を扱ってるからね。見学してもらう分には構わないよ。
あと出来るとすれば軽微なケガ・病気の治療のために回復・解毒魔法を使ってもらうぐらいかな。
それにしても本来は8歳の子供がやることではないから、許可をもらえた患者さんに限る。あぁ、時間が空けば簡単な座学もしよう。
君の場合、医者を目指しているわけではなかろう?」

そこまで見抜かれてたとは
居心地の悪さは感じるが、多少なり経験を積めるのであれば願ってもない

「ありがとうございます。人より魔力が多いみたいなので、回復魔法の幅を広げられたらと思ってます」
「なるほどね。まぁその辺はおいおい分かることだ。明日の9時前にまた来るといい」
「よろしくお願いします」

話はまとめられただろうか。正直に話したが、受け入れてもらえるようで何よりだ

「あぁそうだ。あれから体調不良はなかったかい?お母さんに話したことも知ってるようだしね」
「ええ、魔物の討伐にも関連しますがその時に聞きました。体調には特に変わったことはないです」
「それはよかった。何しろ2年なんて聞いたこともなかったからね。
そうだ、良ければ何か使える魔法を見せてくれないか?学院で教わったことでもいいし、自分で考えたものでもいい。明日以降の参考にもなるしね」

色々と事情を知っているだけに話も早い
そうだ、病院であれば洗浄の魔法もちょうどいいかもしれない

「わかりました。水で汚れを落とす魔法なんですが、何か汚れてしまったものとかってありますか?」
「あ、それなら私の白衣がいいな。午前中のときに血で汚しちゃって」

横で聞いていたリリアンさんが声を上げる

「リリー・・・いや、ちょうどいいか。私の白衣もお願いできるか?」
「先生ばっかりアリスくんと話しててずるいです!」
「そういうことじゃなくてな・・・」
「あはは。お二人の分でも大丈夫ですよ」

二人分の白衣を受け取って洗浄の魔法をかける。今度開発した魔法も言いやすいように名前を付けていこうかな
時間が経ってしまったせいかなかなか落とせなかったが、範囲指定から洗浄の重ね掛けでキレイに出来た
暖かい水は逆効果というし、石鹸や漂白剤の類はまだ見つけられていない。成分や作り方を知っているわけでもないのでどうしようもないが

「はい、目立つシミはなくなったと思います。一度確認してくださいね」

水気を抜き軽く温風をかけてから二人に手渡す。確認している間に部屋の窓から汚れた水は捨てておいた

「へぇ、これはなかなか。顔色が変わってないところを見るとやっぱり魔力量が多いみたいだね」
「血の汚れって何度も洗わないといけないぐらいなのに、一回でこんなきれいになるもんなんですねぇ」
「あ、洗浄の魔法を重ねて使いました。やっぱり頑固な汚れだったみたいで」
「・・・重ねて使った?傍目からはそうは見えなかったけど」
「全体は1回できれいになりました。血の部分だけに洗浄の魔法をかけたんです、水の動き方とかを変えて」
「・・・私が何か教える必要があるとは思えないんだけどなぁ」
「先生も手技重視ですもんね。まぁ明日一日様子を見てからでもいいんじゃないですか?」
「まーそれもそうか。助かったよアリスくん。専門のとこに頼むと高くつくんでね」

その日はそのまま解散した。家に戻ってからは病院のことを含めて話し、軌道に乗り次第街で暮らしていく算段をつけていくことになった
今日明日と慌てて準備することでもないし、しばらくは学院に顔は出さなくても問題もない
ギルドの指名依頼だけ明日以降の動き方で調節する必要はあるが、それも病院のことが決まってからでも遅くはない

少し忙しくなる予感を感じつつ、眠りについていくのであった
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