アリステール

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少年期~

騒動

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目が覚めて、朝の寒さに身を縮こませる
昨年に比べると今年の冬は少し寒さに容赦がない。壁にかけていた防寒具を肩から掛ける

母の針仕事を手伝っていたつもりだった防寒具は、自分が手伝ったおかげで村全員にいきわたらせることが出来たと聞いた
毛皮の縫い合わせは結構な技量がいることだと聞き、以前叔母と話していたのはこのことだったのだろうと悟った
人口はさほど多くはないが、こうも冷え込むとその甲斐はあったと思いたい

朝食の後は時間が出来たため、森に作った秘密基地へ空間転移で飛び朝風呂を楽しむ
畑も収穫時期を終えて休耕中のため朝早くからの仕事はないものの、染みついた早起きの習慣はなかなか抜けない
街へ行くにも早すぎる時間だが、こうして過ごす時間も悪くない。いつか村の家に作ろうと思っていたが、学院やらで忙しく暇を見つけることがなかった
自分の魔力と魔法で補っている以上、今から作っても維持は出来ない。両親には悪いが、いくつかの問題が解決出来たら贈ろうとは思っている

十分に温まったあとに街へ向かうことにした
約束した時間までかなり余裕はあるが冒険者ギルドは開いている時間だろうし、先に病院の件を話しておこうと考えたからだ
両親にそれを伝え、今日は病院のことで帰るのが遅くなるかもしれないことも言っておく

街につながる門に着いたとき、腰に剣を携えた集団話し込んでいると門番さんを見つけた
その人たちが捌けないと手続きも出来ない。後ろに並んで聞き耳を立てていると、普段街の周りでは見かけないゴブリンを見かけたらしい
街から離れたところでとまでは聞こえたが、そのまま門を通過してしまった
門番さんは話を聞いてから苦い顔をしているが、普段通り街へ入ることは出来た

索敵の魔法を展開してみるが周囲に反応はない
街から離れたところがどこかは分からないが、街へ向かう道中に反応はなかったことから別方面なのだろう
ちょうどギルドへ向かうことだし、何か聞けるかもしれない

ギルドに着いたときにはすでに蜂の巣をつついたかのような喧噪に包まれていた。この時間にしては冒険者の数も多い
ゴブリン云々がそんなに重大な話だったのだろうか。一応聞くだけは聞いておこう
しばらくギルドの中で待っていると、カウンターの奥から声が響いてくる

「朝早くから集まってもらってすまないな。今朝方、ある冒険者たちによりゴブリンの集落の情報が入った。
規模はかなり大きく、王級の出現も考慮する必要がある。そのためこの件を緊急依頼として扱う。集まった奴はギルドカードを出してくれ」

騒がしかったのはそんな理由だったのか、しかし集落とはまた
魔獣は知性が高ければ共存するものがいると聞いたが、魔物にも当てはまる?そして王級はそれに分類される?
学院の図書館では種々の魔物や魔獣を取りまとめた本もあったが、そのような記述は無かった
しかし今の状況を見るに、冒険者たちの間ではそう取り扱っているように思える。どうも噛み合わない

そんなことを考えていると、以前対応してくれた執事風の男性が声をかけてくる

「おや、おはようございますアリスくん。君も呼ばれて?」
「あ、おはようございます。いえ、たまたま用事があって来ただけです」
「そうでしたか。それではこれで」

さらっと流れてまた別の人に声をかけてはギルドカードを回収して周っている。受付側にも人が密集しているため、あらかじめ回収しているようだ
あ、また名前聞きそびれた

時刻は8時ごろ、ようやく騒動も収まってきた。受付で対応していた人たちもかなり疲弊して見える
その中にシェリルさんを見つけ、声をかける

「おはようございます、忙しいところにすみませんシェリルさん」
「・・・あら、アリスくん。おはよう。朝から珍しいのね」
「はい、今日から病院のほうでお世話になる予定なので、清掃の依頼の請負が少し遅れるかもしれません。時期が決まったらまた来ますけど、まずはそれだけ伝えたくて」
「あら、そうなのね。わかったわ、もし依頼が来たらそう答えておくから。・・・ところでアリスくん、さっきの緊急依頼の話、聞いてた?」
「はい。ちょうどギルドに来たときだったので」
「参加してみる気はない?」
「え?でも集まってもらったって聞こえましたし、それなりに精鋭の人たちを呼んだんじゃないんですか?」

討伐の依頼を受けた経験は今までない。ゴブリンとやらも名前と簡易的な特徴は知っているだけに過ぎないが、御しやすい相手だと聞いた覚えがある
集まった正確な人数はわからないが、喧噪から察するにそれなりに頭数は揃っているだろう
たしかに魔法を使えば討伐は可能だと言えるが、今更人員が必要ってこともないと思うのだが

などと言い訳を並べてみるが、要は病院で回復魔法を学びたいだけでもある。任せても大丈夫でしょ、と

「参加者で一番高いのが五級なんだけど、王級ともなると不安があるの。集落にいる数も分からないから脅威も未知数だしね」
「過去三級の魔物を討伐した実績があるから。ですか?」
「ええ。洗浄の魔法だったかしら?あれを見て魔法の腕を疑う人はいないわ。
それに今の時期を考えると、越冬のために周囲の村を襲う危険もある。出来ればこの討伐で片付けたいのよね」

その気持ちも分かる。分かるのだが・・・うぅん。先に病院に行って、ユーフェミア先生とリリアンさんに話をしてみようか。今の時間にいるかはわからないけれど
約束をしたため反故にはしにくいが、事情を伝えればわかってもらえるかもしれない
厄介な時期に厄介な騒動が起きたものだ

「もし参加してくれたら、第七級の昇級試験の代わりにも出来るかもしれない。どう?」

魅力的な話も飛び出してくる。が、

「すみません、すぐに返答が出来ません。一度病院に行って事情を話してみます。それでよければ」
「アリスくん、その必要はないよ」

返答する間に、聞き覚えのある声が割り込んでくる

「あれ?ユーフェミア先生?」
「おはようアリスくん。後方支援で私も呼ばれててね。ということで実地研修だ」
「え?でも病院は?」
「早く行って早く帰るんだよ。リリーは残してあるからなんとかなる」

なんとかなるものなのか。いや、そういうことなら言う通りに早く行って早く帰ればいい、のか?
突然のことに半ば混乱している頭を宥めながら答えを出そうと悶々とする。そして一つのことに行き着いた

先生が言うなら良いんだろう

考えることを放棄したわけではないが、参加を鈍らせる要因が現場に出てくれるのなら場所が違うだけだ
そう結論付けた

「わかりました。じゃあシェリルさん、参加の手続きをお願いします」
「ありがとうアリスくん。ユーフェミアさんも説得してくれてありがとうございます」
「大層なことはしてないよ。どうせ終われば参加した冒険者を診てただろうさ」

早いか遅いかの違いでしかない、と続けていく
その後は確認された場所や行き方、先発隊がどこに集まっているかなど冒険者側の話や、
ゴブリンの王級は第四級に位置づけられることや多少知能があるため力押しだけでは退治するのは難しいなどの魔物側の話を教えてもらった
手続きが済みカードを返却され、出発しようとする時にまたもユーフェミア先生が割り込むように声をかけてくる

「さてアリスくん、今回は一切自重なしだ。出来ることすべてで終わらせてみせてくれ」
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