アリステール

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少年期~

昇級

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個室に入ってからはシェリルさんが口火を切っていく

「あらかた先に戻ってきた職員や冒険者からは聞いてますけど、現場にいたのがお二人でしたからね。
そのときの繰り返しになりますけど、詳細を詰めるためにももう一度説明をお願いします」

軽い実演やゴブリンたちは見せられるスペースはないが説明内容に変わりはない
ユフィ先生が補足してくれていた分も含めて、依頼を受けてからどう行動していたのかを話していく
シェリルさんも魔力が見えることで魔法の説明に事欠くことはなかったが、集落を攻撃した魔法を説明したときは眉間にしわを寄せていた
何かを言うわけでもなかったが、自分自身思うことがないわけでもない。しかし詳細を詰めるというのであれば説明しないわけにもいかず、最後に集団を転移させ街へ戻るところまで話し終える

「アリスくんの魔力や魔法には敵わないとは思ってたけど、今日ほど実感する日はなかったわ」
「シェリルくん、そういうもんだと思って聞き流しておくといい」

ユフィ先生までひどい言いようである。が、反論はしない。どうせ言い負かされる

「それに私が焚きつけたことでもあるからね。あまり責めないであげてくれ」
「いえ、そういうつもりは。私が気にしていたことも守ってくれているので。むしろ周りが気になるとこですね」
「今日来ていた奴らには言い含めておいたが、どこにでも面倒な輩とは湧くもんだ」
「ですよね。幸い清掃の依頼や評判のおかげで街中はまだいいんですが、これを聞いて外からくると厄介なんですよねぇ」

もともと、ゴブリンキングと集落を潰したことで冒険者たちにこちらの手札は伝わっている。噂が広まるのも時間の問題だろう
それに、今回のことがなくても街での評判もある。ユフィ先生が関わっていなくても、いつか同じことになっていた可能性は高い

外部の人たちはその噂を聞いて、大袈裟ととるか、取り込もうとするか、力を貸してほしいと思うか
一番最後の選択肢なら喜んで手を貸すが、それ以外の選択肢をとって我が身を渦中に放り出すようなことは避けたい

「こっちでも注意はしておくけど、アリスくんも自衛はしっかりとね。
そういえば、病院でお世話になるって聞いたけど、これからはどうするの?村から通うの?」
「いえ、街のどこか宿にお世話になろうかと。叔母もいて頼ってくれていいとは言ってくれましたけど、今の状況で頼るのはちょっと」

村を出る話をしてからは街の宿にお世話になろうとは考えていた。働き口もあるし収入もある

「ちょっと待った。アリス、まずは村に戻って両親と話をしてからだ。いくらお前がしっかりしていても、その場の成り行きで決めるのはやめておけ」

ユフィ先生から待ったがかかる。それはもっともだが、

「でも村に戻って迷惑をかけるのも本意ではありません」
「今日明日でいきなり状況が動くこともない。むしろ動いてからでも遅くはない。いざとなれば身を守ればいい」
「そうね。慌てることはないと思うわ。これからを思えばむしろ腰を据えて考えたほうがいいと、私も思う」

・・・それもそうか。先のことを考え過ぎていたかもしれない

「そう、ですね。そうですよね。はい、まず両親と相談して、これからどうするか決めます」
「それでいい。アリスと同じように、両親だって君を心配しているさ」
「はい、ありがとうございます」

自分本位に考え過ぎていたのかもしれない。迷惑をかけたくない気持ちが先走って、周りをないがしろにしてしまっていた
諫めてくれた二人の言う通り、迷惑をかけてしまうかもしれないと言う状況だからこそ、両親にもしっかりと伝えて、これからを相談すればいい

「アリスくんの前でする話でもなかったわね。ごめんね、余計に気を使わせちゃった」
「いえ、自分の問題ではあるので。むしろここで知れて良かったと思います」
「そう言ってくれるなら、いいんだけど。
さ、じゃあゴブリンやゴブリンキングはギルドの解体所で預かっておくわ。数も多いだろうし直接来てくれる?」
「わかりました」


収納に入れていたゴブリンは、半日とはいえ放置してしまったこともありひどい腐臭を放っていた
虫がわいていることはなかったが、このまま取り出すのは躊躇われる。失敗したなぁ

「今回はしょうがないわ。事情も事情だし、ひとまず預かっていてもらえる?明日解体所の職員に相談してから決めましょう。
ゴブリンキングも・・・飢えた黒獣と同じでこっちは変わりないのね」
「少し入れていた場所が違いまして。移し替えるのを忘れてしまいました・・・」
「え?そんなのがあるの?」
「あ、はい。亜空間倉庫・・・長いのでインベントリって呼んでるんですけど、そっちだと時間が止まってるんです。
ゴブリンキングは大物だったのでそっちに入れて、ゴブリンは数が多いので収納に入れてました」
「へぇ。ね、その魔法私にも使えるかな?」
「えーと、前に学院のセドリック先生が別の魔法を使おうとして魔力切れになったので、試してみないことには・・・」
「なるほどね・・・でも使えたら便利よね。今度時間があったら教えてくれない?」
「はい、僕は構いません」
「ならアリス、私も教えてほしいな。興味がある」
「わかりました」

亜空間倉庫はどうだろうかな、マジックハンドで断念したからその先は試していない。最悪また防御魔法で魔力の補給も出来る

「それじゃ次は・・・昇級の手続きね。こっちはもう話はついてるから大丈夫。ギルドカードだけ貸してくれる?」

シェリルさんにカードを手渡す。そのままカウンターの手続き用の魔道具を使って操作をして、さほど時間をかけずに戻ってくる

「はいどうぞ」
「ありがとうございます」

戻ってきたカードを見てみるとこれまで八級と書かれていた部分が七級に・・・五級?

「あの、シェリルさん?これ何かの間違いじゃないですか?」
「びっくりした?でも、等級なら書いてある通りよ。王級の魔物も多数の魔物も一人で退治出来て、魔法では横に並ぶ人がいないんだもの。
きちんとギルドの規定に沿っての等級だし、不正でもない。もともと昇級前の段階はふさわしいかを見極めるためでもあるからね」

七級の昇級という話だったはずだが一足飛びに次の昇級の話が出て来そうな級まで上がっていた。しかも正当な評価だと言う
評価してくれるのはありがたいが、身に余るというかふさわしくないというか、明確な基準がわからないから本当に大丈夫なのかと不安が先立つ

「確かに経験は少ないけれど、これからに期待できる年でもある。僻む人もいるかもしれないけど、ギルドの評価方法は厳しいことでも有名なんだから」

心配するようにシェリルさんは言葉を重ねてくれる。ギルドから派遣されて仕事をこなす必要があるのだから、人を見る目も厳しくするのは当然だと思う
であればこの評価は受け取るべきだし誇れることでもあるだろう

「・・・清掃の依頼の、報酬の決め方はこれまで通りでお願いします」

懸念するのはその点だ。等級が高い冒険者を指名するなら比例して報酬も高くなってしまう
これまで頼んでくれた人たちも急に値上がりしても頼みづらくなるだろうし、自分自身そこまでして稼ぎたいとは思っていない
今まで貰っていた額が正当な報酬だと、表明はしておく

「アリスくんがそう言うなら、ギルドとしても改めるつもりはないわ。強要することもしない。だから受け取ってね?」
「はい、ありがとうございます」
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