アリステール

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少年期~

治療

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「あ、先生。やーっと戻ってきた。早く終わらせて帰ってくるって言ってたのにもうお昼過ぎちゃいましたよ」
「すまないね、ちょっと冒険者たちともめて遅れてしまった。急患はなかったかい?」
「はい、それはありませんでした。隣のおじいちゃんが腰が痛いって来たぐらいです」

病院へ入るとリリアンさんが出迎えてくれた。大きな支障は来さなかったようで何よりだ
あまりよく見ていなかったのもあるが、この病院、というか個人病院というかクリニックというか。働いているのはこの二人だけなんだろうか
思い切って質問を投げかける

「あぁ、二人だけだ。領主館のほうに大きな病院があってね、立地的に反対方面の人らが難儀すると思ってここに構えたんだよ」
「お産を控えたお母さん方もよくこちらに来てくれますよ。先生が女性だし話しやすい性格ですしね」

その後見せてもらった設備はお産に関連するものも多かったが、応急的に縫合が出来る道具は取り揃えてあった
それらを扱うときにどうするか聞いてみると、消毒薬で念入りに器具も手も洗浄したあとに使っていると話す
滅菌用の器具や滅菌手袋などはないようだ。若干衛生面に不安を感じるが、致し方ないことだろう
オートクレーブやガス滅菌などの言葉は知っているが、どのような設計や仕組みをしていて作るのに必要な材料は何か、どんな基準で滅菌するかなどまでは答えられない

幸い使う頻度は高くないらしいので、問題が起こらないことを祈るばかりだ
洗浄の魔法が使えればどうかと思ったが、魔力で生み出した水が清潔かなどは考えたことがなかった
もし機会があれば調べてみるのも良さそうだ。形状や性状を変化させることが出来るのだし、しっかりと想像すれば案外なんとかなるかもしれない

「さて、ひとまずは病院を開けようか。隣のじいさんも診ておかないといけないしね」

昨日説明を受けた通り、今日は見学がメインとなる。了承が取れれば回復・解毒魔法を施すことも出来るが少数だと予想している
回復魔法に関して概要は理解できたが魔力の加減はまだ経験が足りない。解毒魔法に関しては使えたことがない
出来れば了承してもらえる患者さんが来てくれるといいが、それは高望みだ



と、思っていたのだが

「おや、アリスくんじゃないか。え、君が回復魔法をかけてくれるの?いいよいいよ、前に清掃の依頼でお世話になったよしみだ」
「あらアリスくんじゃないの。え?解毒の魔法も使える?じゃあお願いしようかしら。前はうちの厨房をきれいにしてくれてありがとうね」

など、病院を閉める時間になるまでに10人ほどの患者を相手に種々の魔法を使う機会を得られた

「みんな結構な常連でね。小さなことでも放っておくとひどくなるってわかってるからこまめに病院に来てくれるの」

とはリリアンさんの言葉だ。こちらとしては嬉しい悲鳴だが、それだけではない気がする

森人族だから見た目の変化は緩やかとは言っていたが、ユフィ先生もリリアンさんも若々しくて美人だ
ユフィ先生は冷たい印象を見た目から覚えるが、話しやすいうえに表情もコロコロと変わり幼い印象もある。ギャップが強い美人
リリアンさんは体系もさることながら話し方もおっとりしており物腰も柔らかい。母性の塊のような美人
二人を目当てに訪れる人も多いのではと勘繰ってしまうのは訪れた人の男性の割合が多かったからだが、あながち間違いでもない気がする

それでも自分を見て任せてくれたのは素直にありがたい。おかげである程度の法則性を見出すことも出来た
最初は人体実験のようで気がひけたが、いつ必要になってもおかしくない魔法だと言い聞かせ魔力量を調整した回復・解毒魔法を使わせてもらった
明日大けがをした誰かが運ばれる可能性がないこともない。副作用がないとは言っていたが、あまりに過剰に魔力を使いすぎるのは良い結果だけを残すとも限らない
自分の魔力量が規格外だからこそ、ある程度の余裕を持たせておく必要がある。10倍で良いところを20倍で使って変な症状が出てしまってはいけない

基本的に回復魔法にせよ解毒魔法にせよ、軽い症状であるほど注ぐ魔力は少なくていい
それこそ詠唱式そのままでも問題ないぐらい。これがステージが進んだ場合、おそらく重傷・慢性化した場合はとたんに必要になる魔力は10倍以上に跳ね上がる
ユフィ先生もそれがネックとなり、手技重視に切り替えているのだろう
まだまだ検証は足りないが、こればかりは回数を重ねていくしかない。それに加えて人体の解剖や病気の知識、原因の理解も必要となるのだから治療の大変さは推して図るべしと言える


「それで、終わってみてどうだい?」

診療時間が終わり、以前と同じように応接室でユフィ先生とリリアンさんに向き合って反省会をしていた

「はい、思ってたより皆さんが僕に任せてくれたおかげで入り口に立てたような感じがします」
「アリスくん、あれだけ魔法使ったのに大丈夫?」
「はい、リリアンさん。まだまだいけますよ」
「すごいねぇ。セドリックにも普通じゃないって聞いたけど、そう話すことも分かったわ」

リリアンさんにもユフィ先生から聞いたことは話してあった。実年齢は明かしてくれはしなかったが

魔力量に関しては多少なり知見のある人相手にはすでに諦められているのでさほど気にせず、解毒魔法に関して思ったことを話していく
本で得た知識では病気や毒を取り除くとあったが、使ってみると曖昧な知識でも効果がある
腹痛を起こす原因を除く、傷を化膿させないようにきれいにする、感染を起こす菌を取り除く、などと言った具合でも魔法は発動した
そもそも原因となる物質が記憶にあるものと一致するかも定かではないのでとても助かる。食中毒を起こす原因菌にしても複数種にわたるうえ、感染を引き起こすものなら菌にとどまらずウィルスにも当てはまる
なぜそうなるかという機序が分からなければ発動しないという点においては回復魔法よりも複雑だが、分かってさえいれば応用の幅が広い
この病院にある応急用の器具でさえ解毒魔法を使えば安心して使えるのではなかろうか。というよりも、そうしている可能性もある

「・・・やっぱり私が教える必要があるとは思えないんだけど」
「ですねぇ。多分、王都で教えられる知識とそう変わらないんじゃないですか?」
「それよりも現場寄りだから、より高度とも思えるよ」

この辺りは過去の自分、前世の自分にグッジョブというべきか。下地があるからどんな作用をしているか漠然とした結果からも推測出来るというものだ

「それでも専門で学ぶ人よりはその場限りな知識でもありますし、完全ではないと思います。魔法っていう存在ありきでもありますから」
「それはそうだね。魔法なしでどう対処するかが分からないと、大多数が救われない」

魔法が使えて回復・解毒魔法に詳しい人が身近にいれば様々なコストを無視して医療の真似事は出来るが、そうでない人たちはどうするか
それを思えば魔法で得られる結果は参考になっても確たるものにはならない。なぜそうなったかを解明してこそでなければ、ユフィ先生の言う通りになってしまう
未知の病気が広まれば魔法で対処できない事象も増える。結局、地道な研究と日々の研鑽が必要なことは、ここでも変わることはなかった


陽もすっかり落ちて街にはところどころに設置された街灯があたりを照らすなか、ユフィ先生と一緒に冒険者ギルドへと向かう
病院の周りは家の中から微かに漏れる灯りが道を照らしていたが、大通りともなれば人通りもまだまだ多い
この時間に街にいることもなければ大通りを通っていくこともなかったため、新鮮みを覚える

「あまり周りを見過ぎてはぐれないようにね」

物珍し気に周りを見回すことが気になったのか、ユフィ先生はそう声をかけてくれた
素直に首肯して後をついていく。防具を付けたり帯剣している大人も多く見かけるのは、依頼終わりで宿に帰る途中だろうか


「やっと来てくれたー。二人が来なかったからずっと残ってたのよー」

ギルドにつくなり、入り口でシェリルさんからそう声をかけられた

「悪かったね。いろいろと面倒なことになったものだからこれまで病院で診療していたんだ」
「・・・そう言われたら無下にも出来ませんね。じゃあ、奥で話を聞きますね。大体の人はいないけど絡まれてもまた面倒ですから」

ユフィ先生が答え、今度はシェリルさんの後を追いかけてカウンターの奥へついていく
そこには個室のようなものがあり、中へと案内された
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