家庭菜園物語

コンビニ

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2 新生活

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 クールビューティーさんが教えてくれた概要は、こうだ。

 大福を助けようと、金髪少女・サイゼのパパ(上位神)に相談したが、「サイゼの管理不行き届きが原因だから自業自得だろ」と一蹴され、さらに「神様が直接手を出すのは禁止」とまで言われたらしい。

 そこで異世界人の俺を召喚したわけだが、ここでも問題が発生した。

 大福は【神獣】という特殊な存在らしく、現地人では当然治療不能。
 さらに弱り方が酷く、癒すことに成功しても能力が100年使えなくなる、という重いペナルティが課されることになるのだ。

 要するに、俺にとっては能力を没収されるようなもの。

 本来なら、こうした重大事項がある場合は契約書と口頭説明が推奨されている。が、サイゼはそれをわざと飛ばしたらしい。

 ちなみに、リスクがない場合の転生なら、ネットで「はい」「いいえ」を選ぶだけの手軽さで異世界行きできるらしい。
 いや、現代的だな異世界。DX(デジタルトランスフォーメーション)進んでる。

「にゃーん」
「それはできかねます。推奨されているだけで、契約書には明記されておりますから」

 姉さんが「意図的に嵌めたなら契約無効では?」と突っ込んでくれたが、クールビューティーさん曰く、明記がある以上はどうにもならないらしい……ちくしょう。

「にゃーん」
「残念ながらおっしゃる通りではあります。サイゼ様はともかく、あなたほどの力があれば、私と刺し違えることも可能でしょうから、お控えいただきたいですね」

 姉さんが食ってかかる。

 クールビューティーさんが事前に止めていれば俺の召喚は防げたのではないかと。
「サイゼの教育のために人ひとりの人生を利用した」
「それをなんとも思わないのか。殺すぞ」と、低く凄む。

 姉さん、怖いって! でも、俺のために怒ってくれてありがとう。

「うぅぅ……モフモフにも悠にも、悪かったと思っておるのじゃ。だから、少しばかり謝罪の意味を込めて特典を用意するのじゃ……」
「にゃーん」

 姉さんが、俺の代わりに交渉を進めてくれる。さすが姉さん!

「お前もいい年なのに、モフモフにばかり頼って恥ずかしくないのかのう」
「にゃーん」

 ——やばい、また俺に矛先が戻ってきた。話を逸らさないと!

「そ、それで、どんな特典をいただけるんですか?」
「私が心を読めるの、忘れておるのではないか、この者……」
「サイゼ様に代わって、私からご案内いたします」

 クールビューティーさんが、特典の内容を淡々と説明する。

・現在いる“神の庭”を自由に使用してよい
・この世界で実現可能な範囲で、生活用品などの買い物が可能

「小屋も使っていいってことですか?」
「もちろんなのじゃ!」

 よかった。あの部屋が使えるなら、とりあえず生活はなんとかなる。
 でも……能力関連の補填は?

「の、能力関連は無理なのじゃ! すでに“回復能力”という特典を与えておるからのう! あとはマニュアルを置いていくので、それを読んでおくように!」

 ふむ。要は「外は危ないから、この森でスローライフ推奨」という話らしい。

「にゃーん」
「ぐぬぬ、それは無料というわけにはいかんのじゃ……」

 姉さんが光熱費や買い物の費用は無料なのかと確認してくれた。
 俺はすぐマニュアルを開いて確認する。記載にはこうあった。

「神の庭で育てた農作物・料理・工芸品などは【適正価格】で買取。また、ショッピングは【適正価格】での販売となる」

 適正価格? って、誰が決めるんだよ……。

「質問なんですが、この“適正価格”って、神様が決めるんですか?」
「当然なのじゃ!」

 こいつ、開き直りやがった!

「あんたの言い値で俺を働かせる気か! 名前がサイゼって、企業努力してくれよな!」
「今、私の名前をバカにしたな!」
「にゃーん!」

 興奮する俺達に対して。姉さんの尻尾ビンタが直撃! 大福は楽しそうに俺たちの周りをぐるぐる駆け回っている。
 痛いだけで楽しくなんてないんだよ?

「にゃーん」
「申し訳ありません。まさか性懲りもなく、転売ヤーのような行為に出るとは……」
「うぅぅ……だって、仕入れは私が行かねばならんから大変なんだもん……!」

 どうやら、買い物注文が入るたびに、神様自身が仕入れに行かなきゃいけないらしい。
 確かに、定価での販売となると労力がかかるなら割に合わないか。

「お主、話がわかるのう!」
「にゃーん」

 姉さんは「甘い」と言っていたけど、労働には正当な対価が必要だ。

「では、ドーンと50%増しで!」
「アホか!」
「あああぁぁぁ! 神に向かってアホとか言ったら神罰が下るぞ!」
「にゃーん!」

 再度の姉さんの猫パンチによって、神様の頭が土にめり込んだ。

「にゃーん」
「かしこまりました……」

 姉さんとクールビューティーさんの話し合いの末、以下のように決まった:

・販売価格は5%増し
・買取価格は専門家の神々が査定し、手数料として5%を頂戴する

「よいか、悠よ! できるだけ高い商品を買って、高い商品を作って売るんじゃぞ!」
「はいはい」

 神様は今も大福に顔を舐められて、びしょびしょになっている。けど、本人は楽しそうだ。
 たぶん、基本的には善神なんだと思う。
 最初からこうして条件のすり合わせをしてくれていれば、普通に大福を助けに来たのに。

 完全なサバイバルは無理だけど、これくらいの緩いスローライフなら——悪くない。
 ぺろっと舐められながら、神様がこっちをチラッと見る。そうか、心が読めるんだった。

「……悪かったのう」

 俺には心を読む力はないけど、それが最初の土下座とは違う、心からの謝罪だと感じた。

「はい。また、大福に会いに来てやってください」

 神様とクールビューティーさんは、大福をモフってから、姉さんに熱い視線を送る。

 話し合いの結果、初期資金確保のために“猫吸い3分・1万円”で、合計2万円を得ることに成功した。
 姉さんはものすごく不満そうだったけど、最初の数日間を乗り切るには仕方ない。

「にゃーん」
「……え、俺からも今度からお金取るんですか!?」


 ——こうして、我が家に新しいルールが加わったのだった。
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