4 / 5
第4話:融合した体
しおりを挟むスバルは薄暗い森の中を歩き続けていた。足元はぬかるんでおり、疲労がじわじわと身体を蝕む。ここに来るまで、どれほどの時間が経ったのかもよくわからない。ただひたすら歩いてきたが、次第に木々の隙間から小さな建物が見え始め、ホッとしたように息をつく。
「ようやく、町か……」
ずっと森の中で迷っていたような感覚があり、ようやく人のいる場所にたどり着けたことに感謝せずにはいられなかった。視界に広がるのは、小さな町。石畳が敷かれ、いくつかの木造の建物が並んでいる。町全体はどこか荒れ果てた印象を受けるが、それでもスバルにとっては天国のように見えた。
スバルは、疲れた身体を引きずるようにして町の中心部に向かう。すると、ひときわ賑わっている酒場らしき建物が目に入った。外からは楽しそうな笑い声が漏れており、温かい雰囲気をかもしだしている。あまりの疲労で忘れていたが、スバルは自分のお腹がすっかり減っていることに気付いた。出来れば何かを口に入れたい。
「…そういえば、言葉って通じるのか?」
どの異世界でも、他の世界とは似ても似つかない言語をそれぞれ使用している。だから転生者には、転生先の世界の言語能力を最初に与えられる。
「ひょっとしたらデバイスで解決できるかも…」
再び世界管理デバイスを起動するために、意識を集中して目の前を見つめる。すると、先ほどと同様に青白いスクリーンが視界の中に現れた。このスクリーンは周りの通行人には見えていないようだった。
――俺の体の一部なんだから、当然といえば当然か。
画面の中では、左側に無数のタブが、右側に作業ウィンドウがあり、直感的に使えそうだった。[設定]のタブを開き、右側に表示された沢山の項目を下にスクロールしていくと[自動翻訳]のオンオフ切り替えを見つけた。試しにオンにしてみる。
「よし、行ってみよう」
酒場の扉を押し開けると、中は思っていた以上に活気があった。客たちはテーブルを囲んで食事をし、酒を酌み交わしている。スバルはふとカウンターを見ると、忙しそうに働く女性が目に入った。オレンジ髪の彼女は、フリルのついた可愛らしいエプロンを身に着け、次々と注文をこなしていた。
彼女がスバルに気付き、笑顔を向ける。
「いらっしゃいませ!」
彼女の明るい笑顔と忙しさの中にも余裕を感じさせる仕草に、スバルは一瞬、ここが異世界であることを忘れ、心が癒されるのを感じた。自動翻訳も機能しているようだし、一安心だ。
「どうぞ、こちらの席にお座りください。ご注文は?」
「あ……うん。実は、食事をお願いしたいんだけど……お金がなくて……」
スバルは申し訳なさそうに言葉を濁す。事故でこの世界にやってきたのだから、当然お金は持っていない。そもそもこの世界の通貨がどんなものなのか、通貨制度があるのかすら知らない。
しかし、彼女は驚くほど優しく微笑んで答えた。
「じゃあ、今日は私のおごりにしてあげる。そんなに疲れた顔してたら、こっちも見過ごせないよ」
スバルは驚き、そして感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
「本当に? ありがとう、助かるよ……」
「困ったときはお互い様だよ!私はリサ・ジョイ・ウィンチェスター、気軽にリサって呼んで」
リサはスバルに温かいシチューとパンを差し出す。スバルは夢中でそれを平らげ、しばしの間、食事の幸福感に浸る。疲労とストレスで押し潰されそうな体には、シンプルな料理が何よりも美味しく感じられた。
「どう? 少しは元気が出た?」
食事が終わると、リサがスバルの前に再び現れた。
「うん、すごく美味しかったよ。ありがとう、リサ」
「それは良かった。かなり疲れてるみたいだけど、冒険者?お金を持ってないって、ハードな旅をしてるのね」
「まぁ…そんなところかな。今日の恩は忘れないよ。お金は必ず払いに戻る」
「マジメだなぁ、気にしなくていいのに!」
リサが忙しそうにまたカウンターに戻るのを見送りながら、スバルはふと、自分がまだこの世界について十分に理解していないことを思い出した。再びデバイスを起動する。どこかに管理対象の世界に関する情報が書いてあるはずだ。
――タブが多すぎる!!色々できるんだろうけど、これは使いこなすのが大変そうだ…
デバイスの中を探検すること数分、[世界情報]というタブを発見した。そこには管理対象の世界のマップや座標、気候、さらには滞在中の国の政治システムまで記載されてある。ふと、スバルの目に二つの情報が飛び込んできた。
――【対象】ユニバース19663 【分類】コードレッド
「え…この世界ってまさか…」
スバルは寒気を感じた。
2
あなたにおすすめの小説
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした
渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞!
2024/02/21(水)1巻発売!
2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!)
2024/12/16(月)3巻発売!
2025/04/14(月)4巻発売!
2025/09/12(金)5巻発売!同日コミカライズ開始!
2026/03/16(月)コミカライズ1巻発売!
応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!!
刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました!
旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』
=====
車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。
そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。
女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。
それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。
※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
