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第5話:スローライフを目指す!!
しおりを挟む――【対象】ユニバース19663 【分類】コードレッド
「え…この世界ってまさか…」
スバルはその文字列を見つめ、頭の中に転生局のころの記憶が蘇った。それは世界修正課で、異世界に生じているバグを修正していたときのことである。
◇ ◇ ◇
天界の下には数千、数万の異世界がぶら下がっている。天界の住人は、異世界の住人が捧げる供物を食べ、祈りという精神エネルギーを利用して生活している。
そのため転生局には「天界が異世界から永久に搾取し続ける体制」を整えるという重要な任務が与えられている。
異世界ではバグが生じる。神隠しに瞬間移動、空からカエルが降ってくる事件などは代表的なバグだ。
そのようなバグが異世界を滅ぼすことが無いように、世界修正課ではスタッフが日夜、バグの修正のためにパソコンに向かって手首の腱鞘炎と戦っている。
「おかしい…なんで直らない…」
スバルがパソコンに向かって頭を悩ませていると、課長のアベルが画面を覗き込んできた。
「どうした?プログラミングとやらが得意なスバル君には、うちの仕事は簡単すぎるかと思っていたんだが」
皮肉交じりのアベルの発言に、スバルはムキになって答える。
「天界のプログラミング言語なんて、そもそも習ったことないですよ!」
「それに、僕は正しいコードを入力しているのに、この世界ではうまく機能しないんです!」
画面を眺めていたアベルが、あることに気付く。
「あぁ…この世界のバグ修正はしなくていいよ。ほら、分類区分がコードレッドになってるでしょ。時間の無駄」
「え、何ですそれ。コードレッド?」
アベルが大きなため息をついてから、偉そうに説明を始めた。
「あのねぇ、我々が管理する異世界は基本的に、その世界の安定性を鑑みてコードブルー、コードグリーン、コードイエローの三種類に分類されるのよ」
「コードブルーは優良世界、管理の必要なし。コードグリーンは平凡な世界、適度に管理をする必要あり。コードイエローは不安定な世界、高いレベルで管理の必要あり。」
「これらに該当しないような、管理が無意味な世界に与えられる分類…それがコードレッド」
「…つまり、コードレッドに分類された世界は、ガタガタの世界ってことですか?」
「そういう認識でいい。バグの修正が追いつかなくて破綻してる世界や、戦争で再起不能になった世界、そもそも神の存在を信じていなくて利用価値がない世界とかが、コードレッドに分類される」
「へぇ…天界に見放された世界って、なんか寂しいですね…」
◇ ◇ ◇
――天界に見放された世界……
スバルは一瞬、めまいを感じた。
この世界が天界の管理対象外ということは、天界はこの世界の出来事について監視していないため、誰も助けに来ることはない――。
俺が天界に戻る日はやってこないのか。
「こんなところで、どうやって生き延びればいいんだ……?」
その時、不意に窓の外から雨音が聞こえてきた。さっきまで晴れていた空が急に曇り、冷たい雨が降り始めていた。
「雨か……」
スバルは酒場を出て、外に出ることにした。リサにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。だが、外に出ると予想以上に強い雨が降り注いでいることに気づく。濡れるのは嫌だったが、傘がない。
「……またデバイスに頼るか…」
彼は近くに生えている、ハスに似た植物の大きな葉っぱに目をつけ、それを引きちぎった。
デバイスを起動して[パラメータ調整]のタブを押すと、葉っぱに関する様々なパラメータが出てきた。どうやら触れている対象のパラメータをいじくれるようだ。強度のパラメータを調整し、傘のように加工する。
「傘だったらこれぐらいの強度かな…柔軟性も必要だし…」
世界パラメータ調整課で習った知識が役に立つ。すると、元々柔らかかった葉っぱがしっかりとした傘のようになり、雨を防ぐのに十分な強度を持った。
「よし……これでなんとかなる」
スバルは葉の傘を差しながら、雨の中を歩き始めた。雨音が心地よく響き、彼はふと冷静になって考える。
この世界は終わりゆく運命にあるのかもしれない。
でも、俺なら生き延びることができるかもしれない――そう、自分に組み込まれたこのデバイスがある限り。
「……ふざけんな……俺は何がなんでも生き延びてやる……」
「…この一年間、散々働かされたんだ……スローライフを送ってやる!!」
スバルは強く心に誓い、雨の中、前を見据えて歩き続けた。
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