硝子のベール

磊蔵(らいぞう)

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第9話 ベルノルト

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「こちらがベルノルト様のお部屋になります」

そう言って扉を開けるエミルに続いて、カエサルと優斗も室内に入る。
ベルノルトの部屋は、子供部屋とは思えないほどに広く、いかにも高そうな豪華な家具が置かれた部屋だった。

広い部屋の正面には大きな両開きの窓があり、明るく室内を照らしていた。
手前の壁際には勉学用だろうか、机が置かれており、その上に積まれた本は5歳児にしては少々難しいレベルの物が多いような気がした。
右手奥にはバスルームに通じていると思われる扉も見える。
そして、左手の壁に頭側を付けるような形で部屋の中央に置かれた豪奢ごうしゃな天蓋付きベッドがあり――その上にはこんもりとしたシーツの膨らみがあった。

「こちらがベルノルト様でございます」

その膨らみに目を向けながら、エミルが二人に声を掛けた。
その言葉に促されるように、優斗はゆっくりとベッドに近づいて行き、そしてベッドの横に膝をつくと、恐る恐るシーツ越しにベルノルトへと声をかけた。

「えっと……ベルノルト様?お顔を見せてくれませんか?」

その問いに返事はない――だが、僅かに布の擦れる音がしたので中に誰かがいることは間違いないようだ。

「あの……ベルノルト様?大丈夫っすか?」

「……」

やはり返答は無い。
無理やり布団を剥ぐわけにもいかず、戸惑う優斗はそのままその膨らみを見つめるしかなかった。

(えぇえぇぇ……無視かよ……まいったな~)

暫しの沈黙の中どうしたものかと優斗が思案していたその時だった、突然シーツが捲れ上がり、中から小さな男の子――ベルノルトが飛び出してきたのだ!

「ばあ!!」

「うわっ!!」

その勢いに驚き、思わず優斗は尻もちをついてしまった。
そんな優斗に向かってベルノルトはケラケラと笑いながら言った。

「アハハ、どう!?びっくりした!??」

ベッドの上で四つん這いのまま屈託のない笑顔でこちらを見下ろしてくるベルノルトに優斗は目を丸くした。

(すっげえ可愛い……!)

くりくりとした大きな碧い目に長いまつ毛、フワフワとした金髪に透き通るような白い肌、薄桃色の頬っぺたはまるで人形のようでとても可愛らしい容姿をしている――その上、舌足らずな喋り方もまた幼さを感じさせて愛らしかった。

毎晩の怪異に悩まされている少年とはとても思えない程に無邪気に笑う姿に、優斗は思わず見惚れてしまい、言葉も出ないまま呆然と座り込んでいた。

「ほら、ベルノルト様?こちらのお兄さんはあなたが驚かせたので怒ってしまわれたようですよ?」

たしなめるように言うエミルの言葉にハッとしたように顔を上げたベルノルトは慌ててベッドから降りると、尻もちをついたままの優斗の傍まで歩み寄り、申し訳なさそうに謝った。

「えっと……ごめんな、さい……」

シュンとしてしまったベルノルトの様子に罪悪感を覚えた優斗は、急いで立ち上がると笑顔で笑いかけながら首を横に振った。

「あ、いえ!全然大丈夫っすよ!」

その言葉に安心したのか、ベルノルトの表情が少しだけ明るくなったのを見て優斗はホッと胸を撫で下ろした。

「あらあら……うふふ」

そんな二人の様子を見ていたエミルは小さく微笑むと、優しくベルノルトの頭を撫でた。

「ベルノルト様、本日より数日間あなた様の護衛をお願いしました、ソルダンギルドの冒険者のお二人ですよ」

エミルが紹介すると、ベルノルトはカエサルと優斗、二人の顔を交互に見た後、ペコリと頭を下げた。

「ぼくをまもってくれるの?えっと……ありがとう!」

屈託のない笑顔を向けるベルノルトに優斗は思わず笑みを零した。

(やべえ……なんかすっげえ癒される……!)

そんな優斗の横でカエサルは相変わらず落ち着いた様子で佇んでいる――だが、その様子はわずかに戸惑っているようにも見えた。

「えぇと……では、改めて自己紹介させてもらいますね?私はカエサル、隣にいる彼はユウト君です」

カエサルがどこかぎこちない微笑みを見せながらも挨拶すると、ベルノルトは嬉しそうに人懐っこい笑顔を浮かべた後、改めて姿勢を正す。

「ぼくのなまえはベルノルト・クシュールです!カエサルさん、ユウトさん、よろしくおねがいします!」

まるで幼稚園児がお遊戯の発表会でするような、元気いっぱいの挨拶に優斗はほっこりとした気分になった。

「はい、よろしくっす!」

優斗が笑いながら手を伸ばすとベルノルトは一瞬目を瞠った後、嬉しそうな笑顔を咲かせて握手を交わしてくれた。

(なんつーか……まだ5歳なのにしっかりしてるよな……)

そんな感想を抱きながら優斗が微笑んでいると、優斗との握手を終えたベルノルトが今度はカエサルに向き直り、その小さな手を差し出す。

「カエサルさんも!」

満面の笑みで握手を求められたカエサルは一瞬ギョッとした表情を浮かべながらも、すぐに取り繕うような笑顔を浮かべて彼の手を取った。

「え、ええ、よろしくお願いします……」

その返事にベルノルトはパアッと顔を明るくすると、嬉しそうにカエサルの足元に抱き付いた。

「うれしいな!こんなにかっこいいぼうけんしゃさん二人にごえいしてもらえるんだぁ!」

屈託のない笑顔でそう言いながらじゃれ付いて来るベルノルトにカエサルは引きつったような笑みを見せながら必死に対応していた。

「は、はは……ありがとうございます……(棒読み)」

(はっ!――もしかして、カエサルさん子供苦手なのか!?)

どう見ても彼らしからぬ動揺を見せているカエサルの様子に優斗はハッと気づいた。
一方、そんなカエサルに気付く事無くベルノルトは更にカエサルに甘える。

「えへへー♪ねえねえ、カエサルさん、三人であそぼうよ~」

「え、えぇ?……あ、あのですね……そもそも私たちは護衛をしに来たのであって……」

「えー……いっしょにあそぼうよ~……だめ?」

無邪気なベルノルトに詰め寄られ、焦りまくっているカエサルを見かねて優斗が横から声を挟む。

「あ~……あ、そうだ!ベルノルト様、みんなで『かくれんぼ』しましょう!?」

その提案にベルノルトはやっとしがみ付いていたカエサルの足から手を離すと、目を輝かせながら優斗に向き直った。

「『かくれんぼ』?……うん!やりたい!」

優斗なりに考えた末、自分たちと遊びたいというベルノルトの要望を叶えつつ、かつ、カエサルが直接子供と接触しなくて済む案として出したのが『かくれんぼ』だったのだ。
結果としてベルノルトがとても嬉しそうに賛同してくれたので、カエサルはホッとした様子を見せていた。
ベルノルトは喜々としてエミルにも参加するよう声を掛けた。

「エミル!エミルもいっしょに『かくれんぼ』だよ!」

「はいはい、次のバイオリンのお稽古の時間までですよ?」

そう言って苦笑するエミルだったが、その表情はどこか嬉しそうだった。
結局、四人でかくれんぼをして遊ぶ事となったのだが……。
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