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第18話 拉致
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結局それからも状況は変わらないまま、また数日が過ぎ――今日も今日とて微妙な距離の優斗とカエサルだったが、そんな二人の事情など知る由もないギルドマスターからクエストの依頼が命じられていた。
実は、先のクシュール家でのクエストを的確に解決出来た実績と、そのクシュール家から二人への高い評価を受けたギルドは、あれから頻繁にクエストを優斗とカエサルのパーティーに依頼を回して来るようになっていたのだ――。
そんな訳で、今日も依頼されたクエストを難なくこなし終えた二人は、ギルドへの帰路についていた。
今日は一日中カエサルと一緒にいられる事が出来て、優斗は少し浮かれた気分のまま、日の傾きかけた街の商店街をカエサルと一緒に歩いていた。
「今日も大活躍だったっすね!カエサルさん」
「ふふ、そうかな……でも、ユウトもなかなかやるじゃないか?」
そう言って微笑むカエサルに優斗は照れたように頭を掻いた。
そんな和やかな会話をしていれば、つい、また元の関係に戻れたような錯覚に陥ってしまう。
「そだ!クエストも完了したし、久しぶりに今夜飲みにでも行きません?」
以前の感覚で優斗がそう誘うと、カエサルは一瞬嬉しそうな顔を見せたものの、すぐにハッとしたように表情を曇らせ、静かに首を横に振った。
「……いや、すまないが今夜は遠慮しておく」
「あ……まぁ、そっすよね……」
やはりまだ彼は自分と距離を縮めるつもりはないのだろう――そう思い知らされながら優斗は苦笑いで答えるしかなかった。
そんな優斗の表情に少し罪悪感を覚えたのか、カエサルは取り繕うように続けた。
「……すまないね、また機会があったら誘ってくれ……」
そう言って眉尻を下げながら薄く微笑むその顔は、やはりとても美しく、優斗は見惚れてしまう。
(ああ……キス、したいな……)
などとぼんやりと考えつつ見つめる優斗の気持ちを知ってか知らずか、カエサルはふと思い出したように口を開いた。
「あ、そういえば買いたい物があったんだ――ユウト、少しここで待っててもらえないか?すぐに済むから」
「えっ?ああ……いいっすよ」
一瞬、カエサルが自分から離れるのを寂しいと感じてしまうが、すぐに思い直すと笑顔で答えた。
「ありがとう。では、行ってくるよ……」
そう言って微笑みを残し、街の雑踏の中に消えていくカエサルの後ろ姿を見送りつつ、『待て』と言われたらただ犬のように待つことしか出来ない自分に苦笑いを零す優斗だった。
****
****
人々が家路へと急ぐ逢魔時の街の中、一人の老婆が道の端で蹲っていた。
時折、何かを物色するように辺りをキョロキョロと見まわしている――そんな老婆は人込みの中に目的の人物を認めたのか、彼女は一瞬嬉しそうに顔を綻ばせた後、すぐに困ったような表情を作りその人物へ声を掛けた。
「もし……そこの冒険者さま……」
「――はい?なんでしょう?」
声を掛けられ振り向いたのは、一人の青年だった。
グリーンの長い髪を後ろで緩く一つに纏め、眼鏡の奥に髪色と同じ翡翠のような瞳を持ったスラリとした青年――カエサルだ。
なにやら困った様子の老婆に歩み寄ると、カエサルは優しく声を掛けた。
「どうされましたか?ご気分でも?」
その老いた老婆の目線に合わせて腰を屈めながら顔を覗き込むと、彼女は懇願するように口を開いた。
「実は……足をくじいてしまって家まで帰れなくて……助けてはもらえないでしょうか?」
「ああ、それは大変だ……良かったら肩を貸しましょうか?」
(まずは待たせているユウトと合流して、それから一緒にこの人を家まで送ってあげればいいか……)
そんな事を考えながらカエサルは、老婆の助けを求めるような視線と言葉に頷くと、そっと手を差し伸べた。
「かたじけないねぇ」と申し訳なさそうに言いながらカエサルの手を取り立ち上がった老婆だったが、その拍子にバランスを崩したのかヨロリとよろけた。
「――おっと、大丈夫ですか?」
言いながら急いで腕を差し出し、倒れそうになる老婆の身体を抱きとめたカエサルだったが、その時腕に小さな痛みを覚えた。
次の瞬間、カエサルの顔色は一変する。
なんと、カエサルの腕に小さな注射器が突き立てられていたのだ。
「――なっ!?」
慌てて注射器を引き抜きつつ老婆から距離を取るカエサルだが、その時には既に遅く、急速に目の前が暗くなっていくのを感じた。
(しまった……!)
そう思ったのを最後に、意識を失ったカエサルの身体は老婆の腕の中に崩れ落ちていた。
老婆は、ぐったりとしているカエサルの腕を自身の肩に回して抱えると、その老体には似つかわしくない腕力でカエサルを引き摺るように歩き始め、雑踏の中に消えて行ったのだった。
実は、先のクシュール家でのクエストを的確に解決出来た実績と、そのクシュール家から二人への高い評価を受けたギルドは、あれから頻繁にクエストを優斗とカエサルのパーティーに依頼を回して来るようになっていたのだ――。
そんな訳で、今日も依頼されたクエストを難なくこなし終えた二人は、ギルドへの帰路についていた。
今日は一日中カエサルと一緒にいられる事が出来て、優斗は少し浮かれた気分のまま、日の傾きかけた街の商店街をカエサルと一緒に歩いていた。
「今日も大活躍だったっすね!カエサルさん」
「ふふ、そうかな……でも、ユウトもなかなかやるじゃないか?」
そう言って微笑むカエサルに優斗は照れたように頭を掻いた。
そんな和やかな会話をしていれば、つい、また元の関係に戻れたような錯覚に陥ってしまう。
「そだ!クエストも完了したし、久しぶりに今夜飲みにでも行きません?」
以前の感覚で優斗がそう誘うと、カエサルは一瞬嬉しそうな顔を見せたものの、すぐにハッとしたように表情を曇らせ、静かに首を横に振った。
「……いや、すまないが今夜は遠慮しておく」
「あ……まぁ、そっすよね……」
やはりまだ彼は自分と距離を縮めるつもりはないのだろう――そう思い知らされながら優斗は苦笑いで答えるしかなかった。
そんな優斗の表情に少し罪悪感を覚えたのか、カエサルは取り繕うように続けた。
「……すまないね、また機会があったら誘ってくれ……」
そう言って眉尻を下げながら薄く微笑むその顔は、やはりとても美しく、優斗は見惚れてしまう。
(ああ……キス、したいな……)
などとぼんやりと考えつつ見つめる優斗の気持ちを知ってか知らずか、カエサルはふと思い出したように口を開いた。
「あ、そういえば買いたい物があったんだ――ユウト、少しここで待っててもらえないか?すぐに済むから」
「えっ?ああ……いいっすよ」
一瞬、カエサルが自分から離れるのを寂しいと感じてしまうが、すぐに思い直すと笑顔で答えた。
「ありがとう。では、行ってくるよ……」
そう言って微笑みを残し、街の雑踏の中に消えていくカエサルの後ろ姿を見送りつつ、『待て』と言われたらただ犬のように待つことしか出来ない自分に苦笑いを零す優斗だった。
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人々が家路へと急ぐ逢魔時の街の中、一人の老婆が道の端で蹲っていた。
時折、何かを物色するように辺りをキョロキョロと見まわしている――そんな老婆は人込みの中に目的の人物を認めたのか、彼女は一瞬嬉しそうに顔を綻ばせた後、すぐに困ったような表情を作りその人物へ声を掛けた。
「もし……そこの冒険者さま……」
「――はい?なんでしょう?」
声を掛けられ振り向いたのは、一人の青年だった。
グリーンの長い髪を後ろで緩く一つに纏め、眼鏡の奥に髪色と同じ翡翠のような瞳を持ったスラリとした青年――カエサルだ。
なにやら困った様子の老婆に歩み寄ると、カエサルは優しく声を掛けた。
「どうされましたか?ご気分でも?」
その老いた老婆の目線に合わせて腰を屈めながら顔を覗き込むと、彼女は懇願するように口を開いた。
「実は……足をくじいてしまって家まで帰れなくて……助けてはもらえないでしょうか?」
「ああ、それは大変だ……良かったら肩を貸しましょうか?」
(まずは待たせているユウトと合流して、それから一緒にこの人を家まで送ってあげればいいか……)
そんな事を考えながらカエサルは、老婆の助けを求めるような視線と言葉に頷くと、そっと手を差し伸べた。
「かたじけないねぇ」と申し訳なさそうに言いながらカエサルの手を取り立ち上がった老婆だったが、その拍子にバランスを崩したのかヨロリとよろけた。
「――おっと、大丈夫ですか?」
言いながら急いで腕を差し出し、倒れそうになる老婆の身体を抱きとめたカエサルだったが、その時腕に小さな痛みを覚えた。
次の瞬間、カエサルの顔色は一変する。
なんと、カエサルの腕に小さな注射器が突き立てられていたのだ。
「――なっ!?」
慌てて注射器を引き抜きつつ老婆から距離を取るカエサルだが、その時には既に遅く、急速に目の前が暗くなっていくのを感じた。
(しまった……!)
そう思ったのを最後に、意識を失ったカエサルの身体は老婆の腕の中に崩れ落ちていた。
老婆は、ぐったりとしているカエサルの腕を自身の肩に回して抱えると、その老体には似つかわしくない腕力でカエサルを引き摺るように歩き始め、雑踏の中に消えて行ったのだった。
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