硝子のベール

磊蔵(らいぞう)

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第30話 あなたのいる世界

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結局二人はこの休日の間中、ずっと宿屋のベッドの中で過ごしながら、本能の赴くままに繰り返し愛し合い続けたのだったが……。

「カエサルさん、大丈夫っすか?」

(ちょっと攻めすぎちったかな……?)

何度目かの行為の後、荒い息を吐きながらぐったりとシーツに身体を投げ出しているカエサルの身体を心配しつつ優斗はそっとその頬を撫でる。
カエサルは荒い呼吸を繰り返しながらも、その手の感触に心地よさを感じたのか目を細めて小さく笑みを浮かべていた。

「……ああ、大丈夫だよ」

少し掠れ気味の声でそう呟くと、彼はそのまま甘えるように優斗の手へと擦り寄ってくる。
そんな仕草が可愛くて、思わず頬が緩んでしまう優斗だが、さすがに何度も気をやり過ぎてしまったかもしれない、と心配になってしまう。

(カエサルさん……めっちゃイキまくってたもんな……)

そんな事を考えながら、カエサルの頬に張り付いている汗で濡れた髪をそっと指先で退けてやると、彼は「――ん」と小さく声を漏らし心地よさそうに目を閉じた。
そして、ゆっくりと瞼を上げ優斗の方へと視線を向けてきた後、気だるげな仕草で身を起し、そのまま身体を寄せてくる。

「ふ……本当に――君とは相性が良すぎるくらいだ……」

言いながら、甘えるように優斗の胸板に頬を擦り付けてきたカエサルの肩をそっと抱き寄せると、彼は満足そうな溜息を漏らした。

「へへ……そうっすか?」

そんなカエサルの様子に優斗は思わず照れ笑いを浮かべる。

「俺にとってもカエサルさんは最高っすよ――身体も中身も、その存在全部がね」

優斗の言葉にカエサルは一瞬目を見開くと、次の瞬間には心底嬉しそうに微笑んでみせた。
優斗はカエサルを見つめながら、改めて思う。

(俺……この人のこと本当に好きなんだなぁ……)

そう自覚すればする程、自分の中に溢れる彼への想いが抑えきれなくなりそうだった。

「カエサルさん……」

胸が潰れそうな程の切ない気持ちと共に優斗が思わず彼の名を呼びながらその身体を強く抱き寄せれば、カエサルもそれに応えるようにそっと優斗の胸に顔を埋め、身体を預ける――そして、そのまま二人とも言葉を発することなく、お互いの存在を噛み締めるように寄り添い合うのだった――。

*****

優斗は暫くの間、片腕でカエサルの肩を抱き、もう一方の手で自分の腹の上に置かれたその白く長い彼の指を弄ぶように絡めながら、その体温を静かに感じていた。
時折、カエサルの長い髪を優しく梳いたり、その髪にキスを落としたりして甘い時間を噛み締めながらこの満たされた時を堪能していたが、ふと思い出して優斗は口を開いた。

「そういえば、カエサルさん」

「ん?何だい?」

優斗の胸に寄りかかっていたカエサルが、その声に顔を上げる。

「まえに言ってた『異世界への転移方法の研究』って、結局どうなったんすか?」

そう、実はカエサルは以前から『この同性愛者に厳しい世界から抜け出し、誰に気兼ねする事なく自分が自分らしくいられる場所に行きたい』という想いのもと、独学で異世界転移の研究をしていたのだ。

「ああ……その事か」

優斗の問い掛けにカエサルは微苦笑を浮かべ、小さくため息をついた。

「実は……もうそれは諦めたんだ――研究を続けていってその理論が解ってくるうちに、これは限りなく不可能に近い事なんじゃないかと思うようになったんだ。だから、今はもう研究はしてないよ」

「えっ、そうなんすか?」

想定外のカエサルの言葉に優斗は思わず声を上げる。

(諦めちゃったのか……)

もしもその研究が成功していたら、この決戦後、二人でこんな肩身の狭い思いなどしなくていい世界へ行けたかもしれなかったのに……そう思うと、本当に残念だがこればかりはカエサルのせいではないので仕方が無いと納得するしかなかった。

「でもさ、そもそもその異世界転移の方法ってのはどんな感じなんすかね?」

ふと疑問に思った事をそのまま口にしてみる優斗に、カエサルは顎に手を当てて考え込む仕草をしてみせた。

「そうだな……君には少々難しい話になるかもだが――」

そう言ってから、カエサルはその説明をし始めたのだが……やはり”脳筋”の優斗にはなかなか理解しづらい内容だった。
取り敢えず、カエサルの話を自分なりに頑張って解釈してみる――『膨大な魔力量』だとか『死者の世界』やら『ポータル』等と、いろいろと小難しい話が出てきたが……。
つまりは結局のところ『異世界転移』など現実的には不可能であり、優斗や和哉がこちらの世界へ転移できたのは、それはまた別の要因なのだろう、との事だった。

「うーん……そっかぁ、残念だな……」

優斗が思わずそう呟くと、カエサルは小さく苦笑い浮かべた。

「すまないね、期待に応えられなくて……」

申し訳なさそうに謝る彼に優斗は慌てて手を振る。

「いやいや!別に責めてるわけじゃないっすからね!?ただその……もしそれが実現出来たら、カエサルさんと二人で一緒に行けるのになぁって思っただけっすよ!」

確かに少々残念ではあったが、長い間この研究に希望を見出していたカエサルの心中を察すれば、その失望感も大きいだろうと容易に想像できるものでもある。
優斗はそんなカエサルへニッと笑いかけ、明るい口調で自分の本音を口にする。

「まあでも、俺としたらどんな世界でもカエサルさんがいる世界であれば文句ないっすよ――その異世界転移ってのが出来なくても、俺はあんたと居られればそれで満足っす」

――そう、例えどんな困難があろうとも、カエサルさえいればそれだけでいいと優斗は本気で思っているのだ。
その優斗の言葉に、カエサルは一瞬目を見開きその翡翠を揺らしたかと思うと、すぐに嬉しそうに目を細め、口元に微笑みを浮かべた。

「ありがとう……私も同じ気持ちだよ――君がいればどんな世界でも生きていけるよ」

そう言って微笑むカエサルの表情は本当に幸せそうで優斗も自然と笑みが零れる。

「へへ……なんか照れますね……」

「ふふ……お互い様だな……」

そんなやり取りを交わしつつ二人はどちらからともなく顔を寄せると、そのままゆっくりと唇を重ね合った。
カエサルは優斗の首に腕を回して、より深い口付けを求めてくるが、優斗もそれに応えるようにして彼の頭を抱き寄せると、さらに深く舌を絡めていった。
ひとしきりお互いの唇を堪能した後、そっと顔を離すと、カエサルはとろんとした表情で、ふふ……と小さく笑みを零す。

「君とのキスはいつも甘い味がするな」

そんな可愛らしいことを言いながら再び抱きついてきた彼の身体を抱き返しつつ優斗も笑みを浮かべた。

「そりゃあだって、俺の愛情がたっぷり入ってるからっすよ」

「うん……そうだね……君の想いは本当に……温かい……」

優斗の胸に頭を預けながら幸せそうに呟いたカエサルは、体力の限界がきたのかそのままウトウトと眠りについてしまった。

(ふふ……可愛いな)

カエサルの寝顔を見つめながら優斗は小さく笑みを零す。
普段の凛々しい姿とは打って変わって、どこか幼さを感じさせる表情にギャップを感じて、優斗はつい笑みが零れてしまうのだ。

「おやすみ、カエサルさん」

そう言ってそっと彼の額に口付けると、愛しい恋人を腕に抱いたまま、自分も眠りにつくのだった。
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