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第一章 転生した身体は、木でできていた
第5話 初戦闘?
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「一人で大丈夫かい、コーキ? キミはヒーラーだから、戦闘には向かないよ?」
「彼のために、できることはあると思うんだ」
あのキングボアは、気が変になっているだけだ。突破口はあると思う。
そのヒントは、パロンがくれたから。
「武器は必要?」
「いらない。自分の力だけで、何とかするよ」
武器なんて、相手の身体より頑丈なのはなさそうだ。パロンも錬金術師だから、戦闘が得意でもなさそうだし。
さらに、キングボアが吠える。そりゃあ怒ってるよね。
「ボクが相手だ。かかってこいキングボア!」
イノシシの身体が、さらに膨れ上がった。これが、戦闘モードか。
上等だ。困難な旅路の初日に、もってこいじゃないか。
「よしこい!」
突進してきたイノシシに対し、ボクはがっぷり四つで迎え撃つ。
ドゥンッ! と、重い衝撃がぶつかってきた。
巨体で突撃されても、壊れたりはしなかった。この身体、かなり頑丈だぞ。
「でえい!」
一旦脇に転がして、相手の体勢を崩す。
しかし、相手はすぐに立ち上がった。また突進してくる。シンプルな攻撃方法だが、効果的だ。
それでいい。こっちには、秘策がある。
「ムチャだよ、コーキ!」
でも、やるしかない。それが、腕試しってもんでしょ?
さらにキングボアが、ボクに突撃してきた。
「ぐううう!」
お腹にきつい一撃をもらいつつ、イノシシを抑え込む。
「ブモ!?」
キングボアの動きが鈍った。
ボクが、大量のツタで縛り付けたのだ。ボクの方は足の裏に根を張って、踏ん張る。
しかも、そのツタに大量のブドウを実らせてみた。
「ブモブモ!?」
ブドウの芳醇な香りにつられて、イノシシが夢中になってブドウを食らう。
「ンブモォ……」
イノシシが、横へぶっ倒れる。グウグウとイビキをかきながら、眠ってしまった。
「なにをしたんだい?」
「お酒を飲ませたんだ。ボクの身体から、お酒が作れるってわかったから」
体内で酵母を活性化させて、イノシシがかじっているブドウに混ぜてみた。
「ワインを生成した、ってこと?」
「ボクの世界には、口内細菌でお酒を作る【口噛み酒】ってのがあってね」
米や芋を唾液で発行させるお酒があると、聞いたことがある。
その口噛み酒を、ボクはイノシシに自分で作らせたんだ。ボクの場合、魔力で高速熟成させたんだけど。
「まあ、こんな大技、一回限りみたい」
ボクはヒザを折り曲げる。
「こんな大きなイノシシだ。眠らせるためのお酒は、かなりの量だよ」
それを大量に、素早く作った。体力がもう続かない。
「キングボアも、キミをあきらめるってさ」
「よかった」
地面で寝っ転がった。
ボク自身が背中越しに、土の養分を大量に吸収し始める。
「ツタも再生を始めたね」
イノシシに引きちぎられたツタが、伸び始めた。
「待って。いいことを考えた。ボクの身体って、切り取ったりできる?」
「やろうと思えば、可能だけど?」
地面と繋がってさえいれば、ボクの肉体は切られても再生するという。
腕から枝を、さらに伸ばす。
「ブドウの木だけ、彼に分けてあげよう」
「いいの?」
「気に入ってもらえたみたいだからね」
キングボアがお腹をすかせて、他の動物に危害を加えたら大変だ。
だったら、ストレスはないほうがいい。
自分の顔を食べさせるヒーローだっているんだ。ボクはそれと同じことをするまで。
ボキっと、自分から生えてきた枝をへし折る。痛いかなと思ったけど、ボクには痛覚がないみたい。
「これでいいかな」
適当な木に、折った枝をつなげる。接ぎ木というやつだ。本来はおいしい果実の品種と病気に強い品種をつなぎ合わせる作業なんだけど。
「これで、この木にブドウが実るはずだ」
他の木にも、同様の処置を施す。
桃や栗、柑橘系も作る。
枝から根を生やすことも考えたけど、時間がかかりそうだったから接ぎ木にした。
「これでよし。あとは実が落ちるのを待ってもらえれば」
「キングボアも、納得したみたいだね」
まだ眠っているキングボアに、あいさつをして別れを告げる。
パロンが、不思議そうな顔をしてボクを見た。
「どうしたの?」
「キミってすごいね。手加減をして相手を倒しただけじゃない。敵にも救済を施すなんて」
「いやいや。ボクは人にケガをさせたくないだけだよ」
「でもさ、ますます警戒が必要になってきたね。キミは優しいから、悪い人に利用されないようにしないと」
パロンだけじゃなく、賢人クコもボクの肩の上でうなずく。
「うむ。酒を造れるなら、ワシなら一生飼い殺すぞな」
物騒な言い方だなあ。
「じゃあ改めて、街へ行こう。じゃあクコ、留守の間は頼むよ」
「任せておけ。じゃが、気をつけるがよい。どうも最近、森が騒がしい」
「そっか。ご忠告どうも。行こう、コーキ」
ボクたちは、森の中へと入っていく。
ここは『シドの森』といって、動植物の他に、魔物たちも棲んでいるという。
「コーキ。危ないから、気をつけてね」
「わかった。パロン」
パロンのほうが小さいけど、黙ってついていくことにした。
「ところでここに、人間は入ってきたりしないの?」
「たまに、薬草取りの冒険者がいたりするよ」
「そっかぁ。あんな感じでかな?」
ボクは、カゴを持ってうずくまっている少女を発見する。
「彼のために、できることはあると思うんだ」
あのキングボアは、気が変になっているだけだ。突破口はあると思う。
そのヒントは、パロンがくれたから。
「武器は必要?」
「いらない。自分の力だけで、何とかするよ」
武器なんて、相手の身体より頑丈なのはなさそうだ。パロンも錬金術師だから、戦闘が得意でもなさそうだし。
さらに、キングボアが吠える。そりゃあ怒ってるよね。
「ボクが相手だ。かかってこいキングボア!」
イノシシの身体が、さらに膨れ上がった。これが、戦闘モードか。
上等だ。困難な旅路の初日に、もってこいじゃないか。
「よしこい!」
突進してきたイノシシに対し、ボクはがっぷり四つで迎え撃つ。
ドゥンッ! と、重い衝撃がぶつかってきた。
巨体で突撃されても、壊れたりはしなかった。この身体、かなり頑丈だぞ。
「でえい!」
一旦脇に転がして、相手の体勢を崩す。
しかし、相手はすぐに立ち上がった。また突進してくる。シンプルな攻撃方法だが、効果的だ。
それでいい。こっちには、秘策がある。
「ムチャだよ、コーキ!」
でも、やるしかない。それが、腕試しってもんでしょ?
さらにキングボアが、ボクに突撃してきた。
「ぐううう!」
お腹にきつい一撃をもらいつつ、イノシシを抑え込む。
「ブモ!?」
キングボアの動きが鈍った。
ボクが、大量のツタで縛り付けたのだ。ボクの方は足の裏に根を張って、踏ん張る。
しかも、そのツタに大量のブドウを実らせてみた。
「ブモブモ!?」
ブドウの芳醇な香りにつられて、イノシシが夢中になってブドウを食らう。
「ンブモォ……」
イノシシが、横へぶっ倒れる。グウグウとイビキをかきながら、眠ってしまった。
「なにをしたんだい?」
「お酒を飲ませたんだ。ボクの身体から、お酒が作れるってわかったから」
体内で酵母を活性化させて、イノシシがかじっているブドウに混ぜてみた。
「ワインを生成した、ってこと?」
「ボクの世界には、口内細菌でお酒を作る【口噛み酒】ってのがあってね」
米や芋を唾液で発行させるお酒があると、聞いたことがある。
その口噛み酒を、ボクはイノシシに自分で作らせたんだ。ボクの場合、魔力で高速熟成させたんだけど。
「まあ、こんな大技、一回限りみたい」
ボクはヒザを折り曲げる。
「こんな大きなイノシシだ。眠らせるためのお酒は、かなりの量だよ」
それを大量に、素早く作った。体力がもう続かない。
「キングボアも、キミをあきらめるってさ」
「よかった」
地面で寝っ転がった。
ボク自身が背中越しに、土の養分を大量に吸収し始める。
「ツタも再生を始めたね」
イノシシに引きちぎられたツタが、伸び始めた。
「待って。いいことを考えた。ボクの身体って、切り取ったりできる?」
「やろうと思えば、可能だけど?」
地面と繋がってさえいれば、ボクの肉体は切られても再生するという。
腕から枝を、さらに伸ばす。
「ブドウの木だけ、彼に分けてあげよう」
「いいの?」
「気に入ってもらえたみたいだからね」
キングボアがお腹をすかせて、他の動物に危害を加えたら大変だ。
だったら、ストレスはないほうがいい。
自分の顔を食べさせるヒーローだっているんだ。ボクはそれと同じことをするまで。
ボキっと、自分から生えてきた枝をへし折る。痛いかなと思ったけど、ボクには痛覚がないみたい。
「これでいいかな」
適当な木に、折った枝をつなげる。接ぎ木というやつだ。本来はおいしい果実の品種と病気に強い品種をつなぎ合わせる作業なんだけど。
「これで、この木にブドウが実るはずだ」
他の木にも、同様の処置を施す。
桃や栗、柑橘系も作る。
枝から根を生やすことも考えたけど、時間がかかりそうだったから接ぎ木にした。
「これでよし。あとは実が落ちるのを待ってもらえれば」
「キングボアも、納得したみたいだね」
まだ眠っているキングボアに、あいさつをして別れを告げる。
パロンが、不思議そうな顔をしてボクを見た。
「どうしたの?」
「キミってすごいね。手加減をして相手を倒しただけじゃない。敵にも救済を施すなんて」
「いやいや。ボクは人にケガをさせたくないだけだよ」
「でもさ、ますます警戒が必要になってきたね。キミは優しいから、悪い人に利用されないようにしないと」
パロンだけじゃなく、賢人クコもボクの肩の上でうなずく。
「うむ。酒を造れるなら、ワシなら一生飼い殺すぞな」
物騒な言い方だなあ。
「じゃあ改めて、街へ行こう。じゃあクコ、留守の間は頼むよ」
「任せておけ。じゃが、気をつけるがよい。どうも最近、森が騒がしい」
「そっか。ご忠告どうも。行こう、コーキ」
ボクたちは、森の中へと入っていく。
ここは『シドの森』といって、動植物の他に、魔物たちも棲んでいるという。
「コーキ。危ないから、気をつけてね」
「わかった。パロン」
パロンのほうが小さいけど、黙ってついていくことにした。
「ところでここに、人間は入ってきたりしないの?」
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