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第三章 新しい住人たち
第37話 クレキシュ大渓谷
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ガルバのいう、クレキシュ大渓谷とは、なんだろう?
「クレキシュ大渓谷ってのはね、アプレンテスの中心にある、険しい山岳地帯だよ。水がなくなって久しいから、調査のしようがなかったんだ。どうもアプレンテスの魔物たちは、あそこから集まっているらしい」
なるほど。だとしたら、ボクが行くのが適任かも。
「ただコーキ、行くのは危険だよ。一面が灰色の砂漠だからね。ホントに水がないし、日光からの逃げ場もないよ」
よほど過酷なんだね。
「この村のことは、チェスナたちに任せよう。その間にワタシたちは、ダンジョン巡りだ」
「ダンジョンとな、パロン。クレキシュ大渓谷の?」
「そうだよ」
ボクたちは、賢人クコにダンジョン探索すると告げた。
「うむ。ワシも行こう。あの辺りは、太古の遺跡もあるそうじゃ。ワシの知識が、役に立つかもしれん」
「大昔、あそこには人が住んでいたの?」
「詳しいことは、ワシにもわからぬ。とにかく、共に行こう」
クコが、ボクの肩に乗る。
「とかいって、お酒が飲みたいだけじゃん」
「なにをいうか。ワシは酒のために生きておるのだ」
「賢人として、あるまじき発言だね」
「悟ったのじゃ。あらゆる生き物は、欲望に忠実に生きることで喜びを得るのだと」
まったく悪びれることなく、クコは断言した。
「ごまかしたってムダだよ。よくそんな生き方で、今まで賢人としてやってこれたよね?」
「清貧や極度につましい生き方など、限度があるというわけじゃ。極端な贅沢を咎める風潮もあるが、欲望を開放せずして何が生きがいか。注意すべきは単に、度が過ぎる浪費の方なのじゃ。『足るを知る』というのは、働きたくない者たちが作った、怠けるための方便じゃて」
クコの言葉は深いようで、めっちゃ浅い。
とはいえ、否定できない一面もある。ミニマリストって生き方もあるけど、節約が好きな人がやればいい。
「まあ、否定はしないけど」
パロンは、辺りを見回す。
「まだワタシにも、ここの生態系がわかっていないんだ。どんな薬草が育ち、どれだけ数が増やせるのかわかってから、本格的に栽培をしたいね」
今はメイズさんたちが率先して、作物を植えてくれている。
だが、ちゃんと育つかはわからない。
そのためにも、ダンジョンの素材は気になる。行商人たちの安全も、確保したいからね。
クレキシュを安全圏にして、王都への足がかりにしたいのもある。
「じゃあ、池の水も、渓谷まで引いていこうよ。岩だらけで、きっと干からびているよ」
「いいね。生態系に問題なければ、引っ張ってこよう」
出発は、明日になった。
「なんのお話?」
ガルバの奥さんであるドナさんが、話に入ってくる。
「……というわけなんだ」
さっきのクコと話していたことを、ガルバたちにも話す。
「せっかくみんな集まったのに、またお出かけなの?」
「まあまあ、母さん。冒険者ってそういうものだから」
「あらあ」
ボクが旅に出ると言ったら、ドナさんが残念がった。
「うむ。クレキシュ渓谷郡か。オレたちもついていこうか?」
「それなんだけど、ボクたちだけで行こうと思う」
ガルバたち人間に、砂漠越えは辛いだろう。王都の騎士たちでさえ、しんどいらしいし。
「二人には、チェスナを警護してもらいたいんだ。チェスナ一人でお店を回すのは、大変みたいだし。ドナさんも、自分の畑で作業があるからさ」
今のところ、村のみんなを守れるレベルの冒険者は、ガルバたちが適任だ。
例の行商人さんたちもいるが、チェスナを守れるかどうかは疑問である。
ガルバを置いていくのは、彼らのナンパ除けもあるし。
「正式な依頼なので、お金を用意したよ。これは前金です」
「アイテムも装備も、売り物だろうと好きに使ってくれていいからね」
ボクとパロンで、お金を出し合う。
「ありがとうよ、パロン。チェスナは任せてくれ」
翌日の早朝、ボクは渓谷へと向かうことに。
うれしいことに、チェスナがボクたちにお弁当を作ってくれていた。我が村で育った野菜を挟んだ、サンドイッチである。
「コーキさま、パロンさま、クコさま。お気をつけて」
「心配しないで、チェスナ。行ってくるね」
ボクは、お弁当を受け取った。
さて、渓谷に向かうわけだが。
「コーキさあ、めっちゃレベル上がってない?」
「うん。トーテムのレベルが、勝手に上がってるんだ」
トーテムは、ツリーイェンの街までにも立てている。そのダルマたちが戦ってくれているから、ボクのレベルもかなり増えた。
強くなりすぎたのか、成長は遅くなっている。それでも、プラス五くらいは上がっているかな。
― ■ *** ステータス表 *** ■ ―
名前 コーキ
レベル 二一
各ステータス
【体力】
六九
【魔力】
一〇八
【素早さ】
三九
残りステータスポイント
〇
― ■ ************** ■ ―
「スキル振りも、しておこう」
「うん。考えたんだけど、自分で馬車を作れたらいいなって」
「いいね!」
― ■ *** スキル表 ***** ■ ―
●戦闘用スキル
【ソーンバインド】
七
【召喚】
六
【ロックスロー】
四
【アタックトーテム】
一〇
●生産用スキル
【クラフト】
一〇
【探知】
六
残りスキルポイント
〇
― ■ ************** ■ ―
クラフトのレベルを一〇まで上げて、【木馬】の馬車を作成できるように。
ボクは枯れ木に触れて、【木馬】を作成した。ボクの魔力を注ぎ込み、樹木を活性化させてから、木馬へと変形させる。
「これで、馬も必要ないね」
「うまくいくといいけど」
木馬にまたがって、魔法を注ぎ込んだ。
目が光って、木馬がカクカクと動く。
「じゃあパロン、スピードを上げるよ!」
ボクは、馬車を走らせた。
(第三章 おしまい)
「クレキシュ大渓谷ってのはね、アプレンテスの中心にある、険しい山岳地帯だよ。水がなくなって久しいから、調査のしようがなかったんだ。どうもアプレンテスの魔物たちは、あそこから集まっているらしい」
なるほど。だとしたら、ボクが行くのが適任かも。
「ただコーキ、行くのは危険だよ。一面が灰色の砂漠だからね。ホントに水がないし、日光からの逃げ場もないよ」
よほど過酷なんだね。
「この村のことは、チェスナたちに任せよう。その間にワタシたちは、ダンジョン巡りだ」
「ダンジョンとな、パロン。クレキシュ大渓谷の?」
「そうだよ」
ボクたちは、賢人クコにダンジョン探索すると告げた。
「うむ。ワシも行こう。あの辺りは、太古の遺跡もあるそうじゃ。ワシの知識が、役に立つかもしれん」
「大昔、あそこには人が住んでいたの?」
「詳しいことは、ワシにもわからぬ。とにかく、共に行こう」
クコが、ボクの肩に乗る。
「とかいって、お酒が飲みたいだけじゃん」
「なにをいうか。ワシは酒のために生きておるのだ」
「賢人として、あるまじき発言だね」
「悟ったのじゃ。あらゆる生き物は、欲望に忠実に生きることで喜びを得るのだと」
まったく悪びれることなく、クコは断言した。
「ごまかしたってムダだよ。よくそんな生き方で、今まで賢人としてやってこれたよね?」
「清貧や極度につましい生き方など、限度があるというわけじゃ。極端な贅沢を咎める風潮もあるが、欲望を開放せずして何が生きがいか。注意すべきは単に、度が過ぎる浪費の方なのじゃ。『足るを知る』というのは、働きたくない者たちが作った、怠けるための方便じゃて」
クコの言葉は深いようで、めっちゃ浅い。
とはいえ、否定できない一面もある。ミニマリストって生き方もあるけど、節約が好きな人がやればいい。
「まあ、否定はしないけど」
パロンは、辺りを見回す。
「まだワタシにも、ここの生態系がわかっていないんだ。どんな薬草が育ち、どれだけ数が増やせるのかわかってから、本格的に栽培をしたいね」
今はメイズさんたちが率先して、作物を植えてくれている。
だが、ちゃんと育つかはわからない。
そのためにも、ダンジョンの素材は気になる。行商人たちの安全も、確保したいからね。
クレキシュを安全圏にして、王都への足がかりにしたいのもある。
「じゃあ、池の水も、渓谷まで引いていこうよ。岩だらけで、きっと干からびているよ」
「いいね。生態系に問題なければ、引っ張ってこよう」
出発は、明日になった。
「なんのお話?」
ガルバの奥さんであるドナさんが、話に入ってくる。
「……というわけなんだ」
さっきのクコと話していたことを、ガルバたちにも話す。
「せっかくみんな集まったのに、またお出かけなの?」
「まあまあ、母さん。冒険者ってそういうものだから」
「あらあ」
ボクが旅に出ると言ったら、ドナさんが残念がった。
「うむ。クレキシュ渓谷郡か。オレたちもついていこうか?」
「それなんだけど、ボクたちだけで行こうと思う」
ガルバたち人間に、砂漠越えは辛いだろう。王都の騎士たちでさえ、しんどいらしいし。
「二人には、チェスナを警護してもらいたいんだ。チェスナ一人でお店を回すのは、大変みたいだし。ドナさんも、自分の畑で作業があるからさ」
今のところ、村のみんなを守れるレベルの冒険者は、ガルバたちが適任だ。
例の行商人さんたちもいるが、チェスナを守れるかどうかは疑問である。
ガルバを置いていくのは、彼らのナンパ除けもあるし。
「正式な依頼なので、お金を用意したよ。これは前金です」
「アイテムも装備も、売り物だろうと好きに使ってくれていいからね」
ボクとパロンで、お金を出し合う。
「ありがとうよ、パロン。チェスナは任せてくれ」
翌日の早朝、ボクは渓谷へと向かうことに。
うれしいことに、チェスナがボクたちにお弁当を作ってくれていた。我が村で育った野菜を挟んだ、サンドイッチである。
「コーキさま、パロンさま、クコさま。お気をつけて」
「心配しないで、チェスナ。行ってくるね」
ボクは、お弁当を受け取った。
さて、渓谷に向かうわけだが。
「コーキさあ、めっちゃレベル上がってない?」
「うん。トーテムのレベルが、勝手に上がってるんだ」
トーテムは、ツリーイェンの街までにも立てている。そのダルマたちが戦ってくれているから、ボクのレベルもかなり増えた。
強くなりすぎたのか、成長は遅くなっている。それでも、プラス五くらいは上がっているかな。
― ■ *** ステータス表 *** ■ ―
名前 コーキ
レベル 二一
各ステータス
【体力】
六九
【魔力】
一〇八
【素早さ】
三九
残りステータスポイント
〇
― ■ ************** ■ ―
「スキル振りも、しておこう」
「うん。考えたんだけど、自分で馬車を作れたらいいなって」
「いいね!」
― ■ *** スキル表 ***** ■ ―
●戦闘用スキル
【ソーンバインド】
七
【召喚】
六
【ロックスロー】
四
【アタックトーテム】
一〇
●生産用スキル
【クラフト】
一〇
【探知】
六
残りスキルポイント
〇
― ■ ************** ■ ―
クラフトのレベルを一〇まで上げて、【木馬】の馬車を作成できるように。
ボクは枯れ木に触れて、【木馬】を作成した。ボクの魔力を注ぎ込み、樹木を活性化させてから、木馬へと変形させる。
「これで、馬も必要ないね」
「うまくいくといいけど」
木馬にまたがって、魔法を注ぎ込んだ。
目が光って、木馬がカクカクと動く。
「じゃあパロン、スピードを上げるよ!」
ボクは、馬車を走らせた。
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