ウソ発見部

椎名 富比路

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第一章 ギバーと、いつわりの宝石

もう解決?

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 女子を家に呼ぶイベントなんて、初めてだ。

 俺には、アニメやラノベに出てくるような幼なじみなんていない。
 女子が馬乗りなって起こしにくるなんて、想像の産物でしかなかった。

 今、コージィさんは、俺のスマホで写真を眺めている。なくなった指輪の写真だ。

「コージィさんひとついい?」
「何?」と、コージィさんが顔だけこちらを向けてくる。
「昼間のあれさぁ、何やってたの?」

 おそらく、動画サイトにアップする予定だったかも知れない。
 コージィさんが広告収入に興味があるなんて意外だなと思った。

「あれはただの趣味。どこかにアップする予定なんてないから」

 ますます、コージィさんが俺の中で謎の存在に。 

「報酬は、今は払えない。今月末にバイト代が出るから、待っててくれ」
「いらない」

 食い気味で、コージィさんは現金払いを拒否してきた。

「その代わり条件がある。あんた、帰宅部だって言ってたよね? バイトもしてるって。結構キツキツ?」
「いや。受験までには、やめるつもりだ」

 プラモデル代の足しになればって感じだったし。ちなみにバイト先も模型屋だ。

「助手になって」
「はあ、俺がコージィさんの助手だって?」
「空手初段でしょ?」

 いじめられっ子だった俺は、小学生から空手を始めて、黒帯まで取った。
 高校になってやめてしまったが、クラスで誰も、俺にはケンカを売ってこない。
 友人に聞いたら、「顔が怖いからだろ」だって。

「いまはウチ、研究会扱いだから。部員の頭数がいれば、再び部に昇格できる」
 なるほど、そういうことなら。
「バイトがないときに手伝うって条件なら。あ、ここだ」
 
 会話している間に、家へ到着した。何の変哲もない庭付き一戸建てだ。

「結構、クツが多いね?」
「三世帯住宅だからな」

 俺と妹、両親、母方の祖母といった、三世代が一つ屋根の下で暮らしている。

 ゴムで覆われたドアノブを回す。
 コージィさんは、玄関でキレイに靴を並べ、入室した。

「お茶を」と言ったのだが、「お構いなく」とあっさり返されてしまう。

 こんなときに誰もいない。
 カビが生えたかのような男子高校生の生活が、ほんの少しだけ潤っただろう。
 事件の捜査でなければ。

 コージィさんは、家の周りを珍しそうにチラ見しながら通る。
 炊事場や風呂場が、そんなに珍しいかね?

 祖母の部屋を案内した。

 タンスの上に飾られた写真立てには、亡祖父が笑っている。
 か細い祖母の肩に、祖父が手を回している写真だ。
 スキンヘッドの頭皮と、無邪気な笑顔が眩しい。

 仏壇からは、わずかに線香の残り香が。

 だが、部屋の主は不在である。

「おばあさまは?」
「工房だ。ばあちゃん、銀細工やってんだ」

 銀細工職人としては、少し名の知れた人なのだ。本人は趣味だと言い張っているが。

 盗まれたのは、祖父と祖母の共同製作品だったらしい。
 指輪を祖母が作り、宝石の方は祖父が削ったのだと。

「被害に遭った当時の状況は?」

「こんな感じだ」
 俺はスマホをコージィさんに見せた。

 割られた窓の痕跡が痛々しい。

「Yへ、か。淵クン、おじいさまの名前は?」

安二郎やすじろうだ。だからYだな」
「うーん。そうなんだよねぇ」

 写真を数枚ほど拡大しつつ、コージィさんは何度も頷いた。

「もういっか。だいたい分かった」
「おい名探偵。いくらなんでも早く切り上げすぎじゃねえか?」
 家に上がってから五分と経っていない。興味が失せるのも分かるが。
「だってこんなの、どう考えても内部犯行じゃん」
 はあ、と、コージィさんはため息をつく。
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