ウソ発見部

椎名 富比路

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第二章 ドーナツが多すぎる

穴はどこだ

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 土曜日の朝、コージィさんと共に捜査を開始する。

 男性の名前は、宝生ほうしょうという。
 家が、かごめちゃんの家に近いらしい。
 宝生さんは車すら使わずに、かごめちゃんに会いに来た。
 約束のダンボールを受け取って、家に向かう。

「追うよ」

 物陰に隠れながら、宝生さんを追いかけた。

 男性の家は、学校近くのマンションである。見たところ、怪しい様子は見えない。

「でも、妙だね」
「どのへんが?」
「犬を飼っている形跡がない」

 鳴き声が、聞こえないというのだ。

「ペット禁止なんじゃねえの?」

 コージィさんは、俺の説を否定する。
 別室のベランダにて、犬が放し飼いになっていたからだ。
 キャンキャンと激しく鳴いている。

「どうした。手が汗ばんでるみたいだけど?」
「な、なんでもねえよ」

 コージィさんから目をそらし、俺は張り込みに集中した。

 宝生さんが、マンションから出てくる。
 月極の駐車場から車に乗って、どこかへ行ってしまった。
 二ドアの軽である。
 犬がドアから逃げないようにするためか?

「しばし待つか」
「そうだな」

 コンビニで時間を潰し、宝生さんの帰りを待つ。

 一旦戻ったら、食べる機会はないだろう。
 フードコートで、串焼きを軽くつまんだ。

「カルビ串まで食べて。匂いが届くよ」
 食いしん坊のコージィでも、さすがに今は菓子パンで済ませている。
 
「腹減ってんだよ。ずっと立ちっぱなしで」
「帰ってきたよ。隠れよう」

 三〇分後、宝生さんが戻ってきた。
 トランクから出したドッグフードを、肩に担ぐ。スマホをしきりに見ていた。

「ホムセンか、ペットショップにでも行っていたみたいだな?」
「見ているのは、メモだね。商品名を何度も確認しているみたいだ」

 それからお昼まで、宝生さんに動きがない。

 しかし、午後から一台の車が、宝生さんのマンションに停まる。
 宝生さんに用事があるのはすぐにわかった。彼が車の主を出迎えたからである。

 出てきたのは、家族連れだ。
 大勢の犬たちを連れている。
 宝生さんにリードに繋いだ犬たちを渡す。


「どうして、私の肩を掴む?」
「なんでもねえったら」

 俺は、なるべくあの状況と目を合わせないようにする。


 宝生さんは慣れた手付きで、リードを持った。

「では、よろしくおねがいします」
 家族連れはあいさつをして、車に乗り込んだ。

「いってらっしゃいませ」と、宝生さんは車に手をふった。

「ちょっと、また次の人が来た」

 今度はOL風の女性である。連れているのは、ブルテリアだ。

 宝生さんは「お待ちしていました」と、女性に挨拶をした。

「急にすいません!」と、女性はペコペコと頭を下げる。
「いえいえ。では、お預かりしますね」

 暴れ馬のように跳ね回るブルテリアを、宝生さんはなんとか手なづけた。

 OLは頭を下げながら、「お願いします!」と駆け足で駅の方へ。

「ふーん。読めたね」
「何がだよ?」


 俺が尋ねようとした瞬間、宝生さんがブルテリアのリードを離してしまった。


「あ、ちょ!」


 宝生さんは追いかけようとする。
 が、ブルテリアは意外に早い。
 おまけに、他の犬たちがかまってほしくて彼を取り囲む。


「どうする?」
 まさかのトラブルに、さしものコージィさんも頭を悩ませる。

「助けるしかねえじゃん」
 俺が意気込んだはよかった。


 ブルテリアが、俺の方に猛ダッシュでツッコんでくるではないか!


「うわっと⁉ やめやめやめ!」

 ペロペロと、ブルテリアが俺の顔を舐め回す。

「わわ、ちょ、やめてぇ! うほほ、ふほ!」
 首筋をナメられて、俺は声が裏返る。

「コージィさん! 手を貸してくれ!」

「わーかったから」
 いともたやすくリードを掴んで、コージィさんは暴れブルテリアをおとなしくさせた。

「キミ、犬が苦手なのか?」
「ま、まあな!」

 正直、あまり得意ではない。

「情けないね。獰猛な犬みたいな顔して犬が苦手だなんて」

 コージィさんが、「ねー」と、ブルテリアに話しかける。

「なんで俺のところにばっか」
「カルビ串だよ! そんな美味しそうな匂いを撒き散らしているから!」

 他の犬も、俺の口から出る香りに興奮気味だ。

「すいません。ありがとうございました」

 宝生さんは、逃げたブルテリアをコージィさんから受け取った。

 どうする。宝生さんに、俺たちの面が割れてしまった。ごまかすか?

「籠犬さんのお友だちですよね?」
 かごめちゃんが開いているサイト名が、【籠犬】だ。

「あ、ええ。そうです」
「なぜ気づいたのかな、という顔をなさっていますね?」
「ええ、まあ」
 俺は、なんにも言い返せない。


「若い方から尾行されていたということは、クラスメイトの方が心配なさったのかなと」
 苦笑いをしながら、宝生さんがため息をつく。

「ご面倒をおかけしまして。身辺調査をなさっているみたいですね」
「そういうことなら話が早いです」

 どうやら、俺たちの目的まで知られていたようだ。

「ですが、調査は終わりです。あなたが信用できる人間である、というのがわかったので」

 あっさりと、コージィさんは捜査終了を告げた。

「いいのか?」

「ああ。少なくとも、彼は転売屋ではない」

 宝生さんは、すこし悲しげな表情になる。
「やはり、ボクは疑われていたんですね」
 どうやら、宝生さんの方も疑惑を持たれていると感じ取っていたらしい。

「一緒に、この子たちの散歩でもどうです? ボクが何をしているのかも、お話ししたい」
「同行しましょう」

 近くの河原まで、歩くことに。

 犬に近づけない俺は、犬と人用の飲料を買ってきた。

「ペットを預かるお仕事?」
「はい。ボクの家、ちょっと一人で住むには持て余していてね」

 親からマンションと事業を譲り受けたはいいが、カネ目当ての女性ばかりが近づくようになってしまった。
 人付き合いが嫌になった宝生は、親の仕事を手伝うのをやめる。
 それからは、ずっとニート状態だったらしい。

「金には不自由しなかったが、退屈でさ。友だちのペットを預かってみた」

 どうせ、外出は煩わしかった。ならば、動物と触れ合うか。
 その程度のことがきっかけだった。

「楽しかった。自分の心が、洗われていくのを感じたよ。それでさ、ペットを一時的に預かる仕事を始めたんだ。動物に癒やされたかったからさ」

 旅行に行ったりして家を空ける家や、突然の仕事が入って犬の面倒を見られないOLなどが、彼の元へ犬を預けに来るという。
 彼らは近くに親戚も知り合いもいない。

「もう二年近くなるかな。はじめて。もうさ、家まで犬用に改造しちまった」
「それで、ペットフードとメモを交互に見ていたんですね」
「好みだけでなく、アレルギーなどがあると大変だからね」

 話をしながら、家路に着く。

 玄関を開けると、ほのかにアロマっぽい香りが漂う。
 犬は嫌がっていないから、いいんだろう。

 足を拭いてもらった順に、犬たちがおもちゃのドーナツにかじりついた。
 猛烈な勢いで。

「ペットのサークルで、乾さんのグッズを紹介してもらったんだ」

 人の家のペットを預かる仕事をするにあたって、ペットサークルなどにも信頼を得た。
 家が空いているので、預かれるからと自分を売り込む。

 布製で安全に遊べるおもちゃを探していた宝生は、その出来に満足した。

「素晴らしかった。食いつき方が他のグッズと違うんだ。彼女が持つペットへの愛情を、犬たちも感じているんだろう」

 人のスペースは、キッチンとバス・トイレ、寝室しかない。
 他の部屋はもはや、室内ドッグランという状態である。

「防音壁だよ」

 壁を触りながら、コージィさんは棚にあるフォトスタンドを見ていた。

「自分の家みたいにくつろいでるぜ」

 遊び疲れた一匹が、犬用クッションで息を整える。

「ん?」
 俺は、キッチンのテーブルに置かれたダンボールに目を移す。

 伝票には、少し遠い街の住所が書かれていた。
「ヒモ?」

 太いヒモが、ドーナツと一緒に箱の中に入っている。
 なにをつなげるのか? 小包の中に収まっているから、ダンボール箱をくくるわけではあるまい。 

「これは、人にあげるんですよね?」

「そうなんだ。乾さんの【どーなつ】を気に入っている人は多くて。使用済みなら欲しいと言うから、持って帰ってもらうんだ」

 言いながら、宝生さんは俺たちにコーヒーを淹れてくれた。

 だといいが。

 彼は、本当に転売には関与していないのだろうか。

「コージィさん、どう思う?」
「心配ない。これにも理由がちゃんとある」
「どんな」

 俺がコージィさんに聞き出そうとしたら、宝生さんのスマホが鳴る。 

「ああ、はい。わかりました。近いので、直接お渡しします」

 すごく沈んだトーンで、電話の相手と話していた。通話を切った後、俺たちの方を向く。 


「明日のお昼。またここに来てほしい。ボクの行くところへ、ついてきてくれますか?」
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