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底辺配信者とスライム 特別編
第70話 一日フロアボス その1
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「一日、フロアボス? ワラビが?」
ギルド受付の石田さんが、ボクたちの家に直接やってきた。
「ツヨシさん、どうなさったんです?」
台所にいたヒヨリさんも、居間に顔を出す。お茶とおせんべいを、石田さんの席に置いた。
「実はダンジョンの楽しさや危険性などをレクチャーするよう、ギルドから依頼が来まして」
石田さんは一度、お茶でノドを潤す。
ボクの動画が流行ったことで、ダンジョンに興味を持つ一般人が増えたらしい。だが、危険を顧みない、ただ目立ちたいだけの冒険者崩れが後を絶たないとか。
「試しにツヨシさんのテイムモンスターであるワラビさんに、一日ダンジョンマスターをやってもらおうかと」
いわゆる一日フロアのボスになって欲しいという。
「一日署長みたいなものですか?」
「そうですね。平たく言うと」
「わかりました。ワラビもいい?」
ボクが尋ねると、「マスターが言うなら」と承諾してくれた。
「じゃあヒヨリさん、明日はそういうことなので、でかけますね」
「気をつけてください、ツヨシさんとワラビさん」
ヒヨリさんに続いて、畑仕事をしていたピオンも、「いってらー」と手を振る。
「え、子ども!?」
ダンジョンに来て、驚く。
なんと、一〇代にも満たない学生たちが相手だった。
武器も、新聞紙で作った剣と盾である。手に持っているボールは、魔法のつもりなんだろう。
「職業訓練だったんですね」
「まあ、そんなところです。【ラープ】といいまして」
ラープとは、ファンタジーを実感しながら冒険をする、一種のオリエンテーリングである。いわゆる「実際に動くテーブルトークRPG」だ。
「申しわけありません。私も、話に聞いていたことと、随分変わってしまっていて」
一番困惑しているのは、どうも石田さんみたい。
「いえいえ。石田さんのせいじゃないですよ」
「どうか、お願いできないでしょうか?」
「わかりました。お引き受けしましょう」
「ありがとうございます。ギルド長は、後で袋叩きにしておきますので」
「あはは……」
今の石田さんなら、やりかねないなぁ。
ナビゲーション役は、まさかのメイヴィス姫だ。ポケットが大量にある釣り用ベストと、ショートパンツスタイルである。
「久しぶりね、ツヨシ」
「姫様。もう書類整理はいいんですね?」
「いいえ。コルタナや配下に押し付けてきたわ」
身体を動かしたくて、ギルド主催のラープに同行したという。
「はいみなさーん。今日は、この山を登りますよー。この山を登りきった先に、スライムの王様がいるそうでーす」
子どもたちが「わーい」と騒ぐ。子どもたちの中には、剣をぶんぶん振り回す生徒も。
「まだよー。じゃあ、行ってみよー」
ナビ役の姫様が先頭に立ち、児童たちがゾロゾロと山の小道を歩く。
「あっ。ゴブリン発見です!」
ゴブリンに扮した冒険者が、生徒たちの前に立ちはだかった。
「どうしよっか。戦うか、逃げるか。選択肢を間違えると、大変なことになるよっ」
「これだけの人数がいるなら、ゴブリンくらい押し切れる!」と、一人の少年が斬りかかる。
後ろにいる女性陣が、赤いボールをゴブリンに投げた。あれはファイアボールのつもりらしい。しかし、ボールは明後日の方向へ。
「ゴフゴフ」と、冒険者はゴブリンになりきって、されるがままになった。
退散していくゴブリンの背中を見て、児童は大ハシャギだ。
しかし、先陣を切っていた少年は難しい顔をしている。
「先生、今の判断って、間違っていた? 僕、仲間を危険にさらしたのかな?」
質問されて最初は戸惑ったけど、ボクは真摯に答えようと思う。
「いいんじゃないかな? 君たちは大人数で歩いていて、ゴブリンに見つかったでしょ? あのとき見逃していたら、仲間を呼ばれていたかもしれない。賢明な判断と思いました」
「ありがとうございます先生」
納得してくれたようで、児童は頭を下げた。
「怖がらせる必要は、なさそうですね」
「あのくらいの年齢のコたちに、冒険のリアリティなんて教える必要はありませんから」
彼らはまだ、現実がしょっぱいと気づく年頃じゃない。
「相手の力量を見て、どれくらいの強さで行くか考えよう、ワラビ」
「はい。今回はあくまでもプロレスというのは、心得ております」
さすがワラビだ。伝えなくても、今日は負け役に回るとお考えである。
ギルド受付の石田さんが、ボクたちの家に直接やってきた。
「ツヨシさん、どうなさったんです?」
台所にいたヒヨリさんも、居間に顔を出す。お茶とおせんべいを、石田さんの席に置いた。
「実はダンジョンの楽しさや危険性などをレクチャーするよう、ギルドから依頼が来まして」
石田さんは一度、お茶でノドを潤す。
ボクの動画が流行ったことで、ダンジョンに興味を持つ一般人が増えたらしい。だが、危険を顧みない、ただ目立ちたいだけの冒険者崩れが後を絶たないとか。
「試しにツヨシさんのテイムモンスターであるワラビさんに、一日ダンジョンマスターをやってもらおうかと」
いわゆる一日フロアのボスになって欲しいという。
「一日署長みたいなものですか?」
「そうですね。平たく言うと」
「わかりました。ワラビもいい?」
ボクが尋ねると、「マスターが言うなら」と承諾してくれた。
「じゃあヒヨリさん、明日はそういうことなので、でかけますね」
「気をつけてください、ツヨシさんとワラビさん」
ヒヨリさんに続いて、畑仕事をしていたピオンも、「いってらー」と手を振る。
「え、子ども!?」
ダンジョンに来て、驚く。
なんと、一〇代にも満たない学生たちが相手だった。
武器も、新聞紙で作った剣と盾である。手に持っているボールは、魔法のつもりなんだろう。
「職業訓練だったんですね」
「まあ、そんなところです。【ラープ】といいまして」
ラープとは、ファンタジーを実感しながら冒険をする、一種のオリエンテーリングである。いわゆる「実際に動くテーブルトークRPG」だ。
「申しわけありません。私も、話に聞いていたことと、随分変わってしまっていて」
一番困惑しているのは、どうも石田さんみたい。
「いえいえ。石田さんのせいじゃないですよ」
「どうか、お願いできないでしょうか?」
「わかりました。お引き受けしましょう」
「ありがとうございます。ギルド長は、後で袋叩きにしておきますので」
「あはは……」
今の石田さんなら、やりかねないなぁ。
ナビゲーション役は、まさかのメイヴィス姫だ。ポケットが大量にある釣り用ベストと、ショートパンツスタイルである。
「久しぶりね、ツヨシ」
「姫様。もう書類整理はいいんですね?」
「いいえ。コルタナや配下に押し付けてきたわ」
身体を動かしたくて、ギルド主催のラープに同行したという。
「はいみなさーん。今日は、この山を登りますよー。この山を登りきった先に、スライムの王様がいるそうでーす」
子どもたちが「わーい」と騒ぐ。子どもたちの中には、剣をぶんぶん振り回す生徒も。
「まだよー。じゃあ、行ってみよー」
ナビ役の姫様が先頭に立ち、児童たちがゾロゾロと山の小道を歩く。
「あっ。ゴブリン発見です!」
ゴブリンに扮した冒険者が、生徒たちの前に立ちはだかった。
「どうしよっか。戦うか、逃げるか。選択肢を間違えると、大変なことになるよっ」
「これだけの人数がいるなら、ゴブリンくらい押し切れる!」と、一人の少年が斬りかかる。
後ろにいる女性陣が、赤いボールをゴブリンに投げた。あれはファイアボールのつもりらしい。しかし、ボールは明後日の方向へ。
「ゴフゴフ」と、冒険者はゴブリンになりきって、されるがままになった。
退散していくゴブリンの背中を見て、児童は大ハシャギだ。
しかし、先陣を切っていた少年は難しい顔をしている。
「先生、今の判断って、間違っていた? 僕、仲間を危険にさらしたのかな?」
質問されて最初は戸惑ったけど、ボクは真摯に答えようと思う。
「いいんじゃないかな? 君たちは大人数で歩いていて、ゴブリンに見つかったでしょ? あのとき見逃していたら、仲間を呼ばれていたかもしれない。賢明な判断と思いました」
「ありがとうございます先生」
納得してくれたようで、児童は頭を下げた。
「怖がらせる必要は、なさそうですね」
「あのくらいの年齢のコたちに、冒険のリアリティなんて教える必要はありませんから」
彼らはまだ、現実がしょっぱいと気づく年頃じゃない。
「相手の力量を見て、どれくらいの強さで行くか考えよう、ワラビ」
「はい。今回はあくまでもプロレスというのは、心得ております」
さすがワラビだ。伝えなくても、今日は負け役に回るとお考えである。
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