上 下
191 / 302
2-完 恋人たちの岬で

第二部 完 謎の影

しおりを挟む
 チサとダイキが恋人たちの岬で話し合っているのを、眺めている怪しい影が。

「はあー。尊いのです。麗しいのです。初々しいのです」
『せやなー』

 見ている影は、羊の魔王「ケモ」と、クモの玉座「クネ」であった。

「魔王ロイリ様のご指示で、勇者探索をしていますが、失敗しました。まさか、もうチサちゃんの世界に入っていたなんて」
『仕方ないやんけ。昔の勇者を幻影化して復活させるなんて、誰も思いつかんて』
「でもでも、わたしたちがガンバっていたら防げたのでは?」
『あかんて。そないなったらワシらがお陀仏やった』

 ネガティブ思考のケモは、いつもクネにフォローをしてもらう。いつものことだ。

「クネの言うとおりですよー、ケモ」

「あ、ロイリ様だ」

 ケモとクネの脳内に、電波が発信される。
 上官のロイリ・ス・ギルからだ。


「あなたは過去を後悔しすぎです。それより前を向きましょ。で、指令ですが」

「はーい」

「三層は、遠慮しなくていいですよー」

「え、いいので?」

 サテュロスの化身であるケモは、魔王候補の中でも相当の実力者だ。

 しかし、ロイリからの指示は、
「他の魔王候補とのバランスを整えつつ、二人の動向を探れ」
 である。

 他の魔王にも加減せざるを得ず、少々物足りなさも感じていた。

「一層だと手加減したでしょ、あんたたち」
「はい。お手並み拝見と言うことで」

 ある程度までは本気だったが、勝てないと見切りを付けて、早々と降りたのである。被害は最小限の方がいい。

「二層だと、ごはん食べてただけですよね?」

 図星をつかれ、ケモは息を呑む。

 やはり、ロイリはなんでもお見通しだ。

 こちらにやる気がないのを、知っている。

「でも、課題はクリアしました。ギリギリでしたが」

 三層行きのイス、最後の一つを手に入れたのは、ケモである。

「あなたが手を抜いていることくらい、こちらは把握しています。もう少し、真面目になさい」

「はぁい」と言いつつ、心の中ではロイリに舌を出していた。

 もう使いっ走りはしなくていいようなので、今後は張り切っていこうと思う。適度に。

「……とか思ってません?」

 心の中を全て見透かされた上に、目の前にまで。

「ヒイ!」
 カワイイ外見に見合わず、ケモは変顔で悲鳴を上げる。
 突然のことだったので、余裕をなくしたのだ。

「心配しなくても、あなたでも割と気に入る種目だと思います」


『種目』?

「あの、ロイリ様、三層で行う『種目』とは?」

「実はさっき、結構面白い種目を思いつきまして」

 彼女の手には、とあるゲームソフトが握られていた。





(第二部 完)
しおりを挟む

処理中です...