おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~

椎名 富比路

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第五章 おひとりさま難易度暫定一位、ひとりナイトプール。

第13話 レッドドラゴンと会話

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「我の正体に、気が付かぬとは。相も変わらず魔法協会の目は、節穴じゃのう。ソロガスよ」

「仕方ないさ、キサラギ。龍がこの世から姿を見せなくなって、だいぶ経つからな」

 かつてこの地に、「月の如く」という意味で【如月キサラギ】と呼ばれる龍あり。
 そのメスのレッドドラゴンは、月と見間違えるほど美しい瞳を持つ。
 魔王と勇者がいた頃より、はるか大昔の伝承だ。

 オレは昔、キサラギと真剣勝負をしたことがある。
 キサラギは人間を模し、自身を倒せる輩がいるかの試練を、知らぬ間に人間界で行った。

 結果は、オレの勝ち。

 といっても、「人間と同等の力で戦う」というルールの上でだが。

 ドラゴンの本領を発揮されていたら、オレはこうして湖でプカプカ浮いていないだろう。

「いまだ魔術協会は、我々ドラゴンを自然現象と区別できんと見える」

 龍。

 普段は嵐や森林火災といった、自然現象という形として現れる。数千年、誰もそのハッキリとした姿を捉えたものはいない。

 オレを除いては。

 ドラゴンのデザインも、大昔のエラい魔法使いが連想した形に過ぎない。「ドラゴンってこんな形じゃね?」と、「コウモリの翼が生えたトカゲ」と描写したのである。

 位の低いドラゴンが、自己顕示欲のために、魔法使いのイメージを具現化した程度のこと。

 人間に退治されまくるようになってから、ドラゴンが地上に顔を出さなくなって久しい。

 したがって、本当のドラゴンの姿をまともに見た人間なんて、今はほとんどいないのだ。

 本来ドラゴンには、正しい形なんてない。ドラゴンだろうと、人間だろうと、どんな姿にも変えられる。

 トカゲだったとしても、勝手に人間がそう見ているだけ。

 月のようにデカい目を持つ異形であるかと思えば、石より小さいかも知れないのだ。
 
「久しいのう。かつてのライバルと、共にこうやって過ごすとは」

「どうだ、キサラギ? 今なら丸腰の無防備だ。もう一度勝負したっていいんだぜ」

「ぬかせ。闘争心がビリビリと伝わっておるわ」

 そうか。殺気は消していたはずなんだが。

「お主はなにをしに現れた? よもや【ないとぷーる】とやらにうつつを抜かすようなお主でもあるまい」

「いやあ、実はそうなんだ」

 ナイトプール以外に、ここでやることなんてないんだよなあ。

「なんと。随分と俗な遊戯に興じておるのう、騎士ソロガスよ」

「ふん。貴様のような国王がおるか。夜中に湖を貸し切って半裸で泳ぐようなやつを、民は国王と認めんよ」

「ちげえねえ」
 
「そもそもお主は、特に栄光を手に入れたわけでもないしのう?」

「ああ。悪い魔王を倒したわけでも、ドラゴンを倒したわけでもない」

 キサラギとの勝負だって、あくまでも勝負だ。
 別にキサラギが街で暴れていたわけでも、オレがなだめたわけでもない。
 オレとキサラギ、どっちが強いか。勝ったか負けたか、だけの戦いだった。

 そこに名誉以外の、価値はない。

「それより、こっちに来たらどうだ? 酒もあるぞ」

「よいのか? 赤い月を、我の瞳を見に来たのだろう? 我が人の姿を取れば、その月も見られなくなるというに」

「構うもんか。人の姿を取ってもらったほうが、話しやすいかな」

「うむ。ではそうしよう」

 赤い月が、フット消えた。

 かと思えば、オレの隣に赤いビキニを着た巨乳JKが。長い髪も赤く、炎のブレスを連想させる。

「刺激的であろう? ソロガスよ」

【ビニール】という素材でできた浮き輪に浮かびながら、赤ビキニJKがこちらにウインクをした。

「まあね。オレが独身だったら、声をかけていたかも」

 オレはキサラギの側に浮き輪を寄せて、グラスにワインを注ぐ。オレの飲み差しで、申し訳ないが。

「ぬかせ、ボケ。我に勝った時点で、妻帯者であったろうに」

 キサラギはオレが口をつけたグラスでも構わず、ぐいっとワインを煽った。

「テメエこそ、ぬかせよ。自分より強いやつが現れたら、ツガイにしようとか考えていただろうが」

「まあのう」

「んだよ、不老不死のくせに」

 ドラゴンは自然現象なため、命という概念がない。

 ツガイとか、問題ではないのだ。
 
「馳走になった、ソロガス。では、この辺りで」

「もう一杯、やらねえか? チーズもあるんだぜ」

「そうしたいが、客人のようだ」

 さっき助けた貴族の二人組が、湖に近づいてくる。

「赤い月がドラゴンと、知られるわけにはゆかぬ。お主との接点がなくなるからのう」

「おう。気を付けてな」

「自然現象に、気をつけよもクソもなかろうに。では」
 
 ドラゴン・キサラギが、フッと湖から消えた。

 オレも上がろうかな。堪能した堪能した。

「お先に」

「お気遣いなく」

「いや。もう帰らねばならぬ。ごゆるりと、逢瀬を楽しんで」

「はい。お気をつけて」

「では」

 オレは荷物をまとめて、物陰に隠れてファストトラベルで帰宅する。

 いやあ、懐かしかったな。あんな出会いも、あったもんだ。


 翌日、商人から貴族になったという男性が、オレの城に現れた。正式な儀式をしてもらいたいと。

 その男性商人こそ、オレが助けた相手だった。

 貴族はなにかいいたげな素振りだったが、すぐにオレが別人だと判断したらしい。

 まあな。あんな変Tを着ているオッサンが、王様なわけがなかろうて。

 
(第五章 おしまい)
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