29 / 47
第九章 国王、ソロで隠れ家作り
第29話 使い魔、マーヴェリック
しおりを挟む
オレはグラシャ=ラボラスに、「マーヴェリック」と名付けることにした。
「由来は?」
「……古い友人の名前だ。今はどうしているか、わからんが」
ソイツはマーヴェリックの名を捨てて、いずこかへ消えた。
「ネガティブな記憶で、申し訳ない。だがお前さんなら、ポジティブに受け継いでもらえるかと思うぜ」
「よかろう。一匹狼とは、我そのものとも思える」
「そうそう。お前さんにピッタリだ」
「孤高の存在というわけだな。よろしい。では契約と行こうか」
マーヴェリックと契約をするため、オレは自分の腕をナイフで傷をつけた。血をマーヴェリックに舐めさせれば、正式に契約は成立だ。
「うむ。ローガンが……いや待てよ」
オレ、偽名だった。危ねえ! 偽名では、契約できねえじゃん!
「ソロガス・キヤネンが命じる。かのグラシャ=ラボラス種に名を刻まん! 汝の名はマーヴェリック、孤高の猛獣なり!」
オレは、マーヴェリックに血を舐めさせる。
「ふむ。契約は成された」
ポンッ、と、マーヴェリックが煙に包まれた。
煙が晴れると、コミカルな見た目の魔物が。
これが、使い魔バージョンのマーヴェリックか? ぬいぐるみのようなサイズに変わったぞ。
「おお、随分と愛らしくなったではないか」
「省エネモードだ。これで過ごさせてもらう」
「危なくないか? そんなにかわいらしかったら、さらわれるんじゃ?」
「そこまで、貧相ではない。いざとなったら、飛んで逃げるわい」
「普段の姿では、過ごさないんだな?」
「いつもの状態では、そなたがくれたエサなんぞ、半日で食い尽くすぞ」
それは困る。
「この姿ならば、大きな家も不要なり。そなたの小屋で、世話になるぞ」
「いいけど、必要なものはないか?」
「今のところはないな。エサも大量にあるし、このメザシとやらも、一日九匹くらいで十分なり」
食糧関係は、問題ないという。いざとなったら、川に入って魚を捕るそうだ。
川だから、自動水飲み道具とかも必要ないよな。
「トイレどうしようか? 付けてやるけどな」
「その辺の川で、済ませよう」
ならば、必要はないか。
「お、改築の相談をしていたら、来たようなだな」
冒険者たちが、オレの小屋までやってきた。男女四人組だ。
「なあ、アンタ! これくらいデカいモンスターを見なかったか?」
剣士タイプの男性が、オレに問いかける。
「いいや。知らんな」
「その使い魔は、あなたのですか?」
今度は、魔法使いがオレに聞いてきた。
「おう。マーヴェリックと言ってな。羽の生えたオオカミなんだ」
「その子、グラシャ=ラボラスの子どもでは?」
ぎくり。
「だったら、気をつけたほうがいいぞ。グラシャ=ラボラスが、この辺りを飛び回っている。素材になるって思ってケンカを売ったんだが、我々の手には負えない」
彼らも、相当な達人と見える。しかし、あまりにも思考が若い。戦ってもいい相手かどうか判別する術に欠けている段階で、まだまだである。
もしマーヴェリックがグラシャ=ラボラスとして五体満足だったら、オレでも無事では済むまい。レッドドラゴンのキサラギに、助けてもらおうかしら?
「でも、あきらめたほうがいいかも」
魔法使いの少女が、思考する。
「どうしてさ? グラシャ=ラボラスの羽毛は、いい素材になるんだぞ。それで金を得るんだ!」
「子どもがいるのかも」
少女の言葉に、さっきまで強気だった剣士が急に萎縮した。
「……そうか。あのグラシャ=ラボラスは親で、巣を守るために暴れたって可能性があるのか」
剣士も察しがついたのか、引き返すことにしたようだ。
「我々は、討伐をあきらめることにするよ。あんたも、気をつけるんだ。引退した冒険者のようだが、グラシャ=ラボラスの巣が近いというなら……」
「その心配はない。ここは、商業ギルドで買った土地だ。下調べをせずに売ったりなど、せんだろ」
「たしかにな。しかし、気を付けて」
冒険者たちは、帰っていく。
「危ないとこだったな」
「まあ、バレたとしても、返り討ちにしてやるが」
「よさんか。オレがここにいられなくなっちまう」
それこそ本格的な討伐が始まって、スロイーライフどころではなくなるだろう。ここも追い出されるに、違いない。「グラシャ=ラボラスを操る魔王が、河原で読書をしているぞ」と。
「冗談だ。また、使い魔になった以上、我に素材としての価値はない」
使い魔の素材は、すべて主の所有物になる。主を殺さない限り、だが。
「では、オレはそろそろ行かねばならん」
帰らないと、怪しまれてしまう。
「あいわかった。この小屋は、我が有意義に使わせてもらおう」
「粗相は勘弁な」
こっちに来て小屋の中が粗相まみれだったら、泣くに泣けない。
「そこまでのシツケは、心得ておる。欲しいものはあるか?」
「あー、じゃあ。お前さんの素材で、枕かベッド、クッション辺りを」
「ぜいたくだな。しかし、羽毛を用意しておくか」
「頼む」
オレは一旦、国に帰ってきた。
「マーヴェリックのヤロウ。どうしてっかなぁ。いや、元マーヴェリックか」
今度、フィオにも会わせてやろう。いや、会わせてやらねば。
魔王となってしまった、元マーヴェリックに。
「魔王は、【冒険の書】の禁を破った者の、末路だからな」
(第九章 おしまい)
「由来は?」
「……古い友人の名前だ。今はどうしているか、わからんが」
ソイツはマーヴェリックの名を捨てて、いずこかへ消えた。
「ネガティブな記憶で、申し訳ない。だがお前さんなら、ポジティブに受け継いでもらえるかと思うぜ」
「よかろう。一匹狼とは、我そのものとも思える」
「そうそう。お前さんにピッタリだ」
「孤高の存在というわけだな。よろしい。では契約と行こうか」
マーヴェリックと契約をするため、オレは自分の腕をナイフで傷をつけた。血をマーヴェリックに舐めさせれば、正式に契約は成立だ。
「うむ。ローガンが……いや待てよ」
オレ、偽名だった。危ねえ! 偽名では、契約できねえじゃん!
「ソロガス・キヤネンが命じる。かのグラシャ=ラボラス種に名を刻まん! 汝の名はマーヴェリック、孤高の猛獣なり!」
オレは、マーヴェリックに血を舐めさせる。
「ふむ。契約は成された」
ポンッ、と、マーヴェリックが煙に包まれた。
煙が晴れると、コミカルな見た目の魔物が。
これが、使い魔バージョンのマーヴェリックか? ぬいぐるみのようなサイズに変わったぞ。
「おお、随分と愛らしくなったではないか」
「省エネモードだ。これで過ごさせてもらう」
「危なくないか? そんなにかわいらしかったら、さらわれるんじゃ?」
「そこまで、貧相ではない。いざとなったら、飛んで逃げるわい」
「普段の姿では、過ごさないんだな?」
「いつもの状態では、そなたがくれたエサなんぞ、半日で食い尽くすぞ」
それは困る。
「この姿ならば、大きな家も不要なり。そなたの小屋で、世話になるぞ」
「いいけど、必要なものはないか?」
「今のところはないな。エサも大量にあるし、このメザシとやらも、一日九匹くらいで十分なり」
食糧関係は、問題ないという。いざとなったら、川に入って魚を捕るそうだ。
川だから、自動水飲み道具とかも必要ないよな。
「トイレどうしようか? 付けてやるけどな」
「その辺の川で、済ませよう」
ならば、必要はないか。
「お、改築の相談をしていたら、来たようなだな」
冒険者たちが、オレの小屋までやってきた。男女四人組だ。
「なあ、アンタ! これくらいデカいモンスターを見なかったか?」
剣士タイプの男性が、オレに問いかける。
「いいや。知らんな」
「その使い魔は、あなたのですか?」
今度は、魔法使いがオレに聞いてきた。
「おう。マーヴェリックと言ってな。羽の生えたオオカミなんだ」
「その子、グラシャ=ラボラスの子どもでは?」
ぎくり。
「だったら、気をつけたほうがいいぞ。グラシャ=ラボラスが、この辺りを飛び回っている。素材になるって思ってケンカを売ったんだが、我々の手には負えない」
彼らも、相当な達人と見える。しかし、あまりにも思考が若い。戦ってもいい相手かどうか判別する術に欠けている段階で、まだまだである。
もしマーヴェリックがグラシャ=ラボラスとして五体満足だったら、オレでも無事では済むまい。レッドドラゴンのキサラギに、助けてもらおうかしら?
「でも、あきらめたほうがいいかも」
魔法使いの少女が、思考する。
「どうしてさ? グラシャ=ラボラスの羽毛は、いい素材になるんだぞ。それで金を得るんだ!」
「子どもがいるのかも」
少女の言葉に、さっきまで強気だった剣士が急に萎縮した。
「……そうか。あのグラシャ=ラボラスは親で、巣を守るために暴れたって可能性があるのか」
剣士も察しがついたのか、引き返すことにしたようだ。
「我々は、討伐をあきらめることにするよ。あんたも、気をつけるんだ。引退した冒険者のようだが、グラシャ=ラボラスの巣が近いというなら……」
「その心配はない。ここは、商業ギルドで買った土地だ。下調べをせずに売ったりなど、せんだろ」
「たしかにな。しかし、気を付けて」
冒険者たちは、帰っていく。
「危ないとこだったな」
「まあ、バレたとしても、返り討ちにしてやるが」
「よさんか。オレがここにいられなくなっちまう」
それこそ本格的な討伐が始まって、スロイーライフどころではなくなるだろう。ここも追い出されるに、違いない。「グラシャ=ラボラスを操る魔王が、河原で読書をしているぞ」と。
「冗談だ。また、使い魔になった以上、我に素材としての価値はない」
使い魔の素材は、すべて主の所有物になる。主を殺さない限り、だが。
「では、オレはそろそろ行かねばならん」
帰らないと、怪しまれてしまう。
「あいわかった。この小屋は、我が有意義に使わせてもらおう」
「粗相は勘弁な」
こっちに来て小屋の中が粗相まみれだったら、泣くに泣けない。
「そこまでのシツケは、心得ておる。欲しいものはあるか?」
「あー、じゃあ。お前さんの素材で、枕かベッド、クッション辺りを」
「ぜいたくだな。しかし、羽毛を用意しておくか」
「頼む」
オレは一旦、国に帰ってきた。
「マーヴェリックのヤロウ。どうしてっかなぁ。いや、元マーヴェリックか」
今度、フィオにも会わせてやろう。いや、会わせてやらねば。
魔王となってしまった、元マーヴェリックに。
「魔王は、【冒険の書】の禁を破った者の、末路だからな」
(第九章 おしまい)
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。
話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。
説明口調から対話形式を増加。
伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など)
別視点内容の追加。
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる