おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~

椎名 富比路

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第九章 国王、ソロで隠れ家作り

第29話 使い魔、マーヴェリック

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 オレはグラシャ=ラボラスに、「マーヴェリック」と名付けることにした。
 
「由来は?」

「……古い友人の名前だ。今はどうしているか、わからんが」

 ソイツはマーヴェリックの名を捨てて、いずこかへ消えた。

「ネガティブな記憶で、申し訳ない。だがお前さんなら、ポジティブに受け継いでもらえるかと思うぜ」

「よかろう。一匹狼とは、我そのものとも思える」
 
「そうそう。お前さんにピッタリだ」
 
「孤高の存在というわけだな。よろしい。では契約と行こうか」

 マーヴェリックと契約をするため、オレは自分の腕をナイフで傷をつけた。血をマーヴェリックに舐めさせれば、正式に契約は成立だ。
 
「うむ。ローガンが……いや待てよ」

 オレ、偽名だった。危ねえ! 偽名では、契約できねえじゃん!

「ソロガス・キヤネンが命じる。かのグラシャ=ラボラス種に名を刻まん! 汝の名はマーヴェリック、孤高の猛獣なり!」

 オレは、マーヴェリックに血を舐めさせる。

「ふむ。契約は成された」

 ポンッ、と、マーヴェリックが煙に包まれた。

 煙が晴れると、コミカルな見た目の魔物が。

 これが、使い魔バージョンのマーヴェリックか? ぬいぐるみのようなサイズに変わったぞ。

「おお、随分と愛らしくなったではないか」

「省エネモードだ。これで過ごさせてもらう」

「危なくないか? そんなにかわいらしかったら、さらわれるんじゃ?」

「そこまで、貧相ではない。いざとなったら、飛んで逃げるわい」

「普段の姿では、過ごさないんだな?」

「いつもの状態では、そなたがくれたエサなんぞ、半日で食い尽くすぞ」

 それは困る。

「この姿ならば、大きな家も不要なり。そなたの小屋で、世話になるぞ」

「いいけど、必要なものはないか?」

「今のところはないな。エサも大量にあるし、このメザシとやらも、一日九匹くらいで十分なり」

 食糧関係は、問題ないという。いざとなったら、川に入って魚を捕るそうだ。
 川だから、自動水飲み道具とかも必要ないよな。

「トイレどうしようか? 付けてやるけどな」

「その辺の川で、済ませよう」

 ならば、必要はないか。

「お、改築の相談をしていたら、来たようなだな」

 冒険者たちが、オレの小屋までやってきた。男女四人組だ。

「なあ、アンタ! これくらいデカいモンスターを見なかったか?」

 剣士タイプの男性が、オレに問いかける。
 
「いいや。知らんな」
 
「その使い魔は、あなたのですか?」

 今度は、魔法使いがオレに聞いてきた。

「おう。マーヴェリックと言ってな。羽の生えたオオカミなんだ」

「その子、グラシャ=ラボラスの子どもでは?」

 ぎくり。

「だったら、気をつけたほうがいいぞ。グラシャ=ラボラスが、この辺りを飛び回っている。素材になるって思ってケンカを売ったんだが、我々の手には負えない」

 彼らも、相当な達人と見える。しかし、あまりにも思考が若い。戦ってもいい相手かどうか判別する術に欠けている段階で、まだまだである。

 もしマーヴェリックがグラシャ=ラボラスとして五体満足だったら、オレでも無事では済むまい。レッドドラゴンのキサラギに、助けてもらおうかしら?

「でも、あきらめたほうがいいかも」

 魔法使いの少女が、思考する。
 
「どうしてさ? グラシャ=ラボラスの羽毛は、いい素材になるんだぞ。それで金を得るんだ!」

「子どもがいるのかも」

 少女の言葉に、さっきまで強気だった剣士が急に萎縮した。

「……そうか。あのグラシャ=ラボラスは親で、巣を守るために暴れたって可能性があるのか」

 剣士も察しがついたのか、引き返すことにしたようだ。

「我々は、討伐をあきらめることにするよ。あんたも、気をつけるんだ。引退した冒険者のようだが、グラシャ=ラボラスの巣が近いというなら……」

「その心配はない。ここは、商業ギルドで買った土地だ。下調べをせずに売ったりなど、せんだろ」

「たしかにな。しかし、気を付けて」

 冒険者たちは、帰っていく。

「危ないとこだったな」

「まあ、バレたとしても、返り討ちにしてやるが」

「よさんか。オレがここにいられなくなっちまう」

 それこそ本格的な討伐が始まって、スロイーライフどころではなくなるだろう。ここも追い出されるに、違いない。「グラシャ=ラボラスを操る魔王が、河原で読書をしているぞ」と。

「冗談だ。また、使い魔になった以上、我に素材としての価値はない」

 使い魔の素材は、すべて主の所有物になる。主を殺さない限り、だが。

「では、オレはそろそろ行かねばならん」

 帰らないと、怪しまれてしまう。

「あいわかった。この小屋は、我が有意義に使わせてもらおう」

「粗相は勘弁な」

 こっちに来て小屋の中が粗相まみれだったら、泣くに泣けない。

「そこまでのシツケは、心得ておる。欲しいものはあるか?」

「あー、じゃあ。お前さんの素材で、枕かベッド、クッション辺りを」

「ぜいたくだな。しかし、羽毛を用意しておくか」

「頼む」


 オレは一旦、国に帰ってきた。

「マーヴェリックのヤロウ。どうしてっかなぁ。いや、元マーヴェリックか」

 今度、フィオにも会わせてやろう。いや、会わせてやらねば。

 魔王となってしまった、元マーヴェリックに。

「魔王は、【冒険の書】の禁を破った者の、末路だからな」
 

(第九章 おしまい)
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