おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~

椎名 富比路

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第十一章 自堕落国王:ソロガス・キヤネンができるまで

第36話 自堕落国王と生臭教皇、最期の夜

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「神父様がいうと、説得力が違うのう」

 オレの話を聞きながら、フィオはシャモ鍋のダシを飲み干す。

 オレたちは、シメのうどんまで、きれいに食い尽くした。

 うどんでシメるのが、また最高なんだよなあ。コカトリスのピリッとしたダシで、薬味もいらないという。コカトリスの毒を乾燥させて毒気を抜けば、天然の薬味になるのだ。

 温まるし、余韻も舌に残っている。

 今でも、ジェアロームが蘇ってきそうだな。うらやましがって。

「そうなんだよ。神に仕える人が、欲とはなにかなんて説いていると、なんだか正しそうだろ?」

「うむ。納得できてしまう」

「ぜいたくなんてのはな、ホントにたまにでいいんだよ」

 冒険の書なんかに頼らなくても、家族仲良くできるだけでもいい。そこに、ほんのちょっと一人の時間があったらいいなとか思ったら、冒険の書を使う。
 このバランスでいいのだ。

「ふむ。自分の時間も、家族の時間も大事だということよのう」

「そうだぜ、フィオ。だから、オレやビショップ・ジェアロームみたいなのは、やめとけ。お前はお前の自由時間を謳歌してくれ」

「そうはいっても、妾はソロガス義兄あに様との時間が楽しいのじゃ。歳の離れた兄と話しているみたいでの」

 兄貴か。だったら、いいんだが。

「オレなんかとつるんだら、ロクなオトナにならねえぜ」

「妾は義兄様以外で、殿方との面識がないのでな。悪いオトコを見極める審美眼を養っておるのじゃ」
 
 それはそうと、と、フィオがオレに聞いてくる。

「ジェアローム殿は、結婚なさっておらぬのか?」

 ああ、やはり、そういった質問が出てくるよな。

 神父様は、貞淑が基本だし。
 
「複数の女性と関係を持っていたに、決まってるじゃねえか」
 
「!?」

 フィオが、オーバーリアクションでのけぞった。

「なんとも。バチあたりな」

「ガス抜きだよ。本気になったりなんか、しないさ。しかも、手さえ繋いでいない」

 神父は、洗礼や治癒魔法を施すとき、女性に触れたりはする。
 しかし、それ以上の関係になることは、一切ない。
 肉体関係なんて、もってのほか。

 結婚する親父もいるが、それは引退して後世に自身の力を託すとき。

 現役の段階で女性と関係を持ったりなどすれば、神通力はたちまち掻き消えてしまう。

「貞淑を売りにする教皇様が、オナゴとデートなさっておったとは」

「デートっつっても、懺悔室の延長みたいなもんさ」

「手も繋がぬと、言うておったしのう」
 
「ああ。極めて健全なものだったさ。相手は少女から人妻まで、よりどりだったが」

「不倫ではないか! 一気に不潔感が充満し始めたぞよっ」

「まあまあ、落ち着け。懺悔の延長だっつったろーが」

 オレンジジュースを頼んで、フィオを落ち着かせる。

「まあ、女子と話す機会をもうけて、異性に興奮しすぎないようにしていたんだとさ」

「それだけ厳しい修行を経て、神父は力を得ているのじゃな?」

「そのとおりだ」

 貞淑を破って、力を失った神父もいるし。
 
「では、跡取りはどうなるのじゃ?」

「次期教皇は、選挙で選ばれる」

 結婚して子どもを作らないため、教皇に世襲制なんてない。
 公平に、投票で選ばれる。

 だが、ジェアロームが教皇になったときは、オレも驚いた。
 
「よくあんな破天荒神父が、教会の最高位になれたなって、当時は大騒ぎになったくらいなんだ」

「時代が、ああいう方を求めていたのかのう」

「どうだろうな? 教皇にしたら、奇行も止まるんじゃねえか? って思われてたりして」

 オレがジョークをカマスと、フィオも大笑いする。

「しかし、すばらしい方じゃったんじゃなぁ。お話をしてみたかったわい」

「オレがお前と同じ年の頃には、もうジジイだったからな」


 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 


「教皇様、着いたぜ」

「おう。どうやらこれが、オイラの最後のメシになる」

 オレは、教皇ジェアロームを、コカトリスのシャモ鍋屋まで連れてきた。

 病床の中、教皇は人払いをして、どうにか【冒険の書】でここまでたどり着く。

 オレが手を引いてやらねば、着席もままならない。

「ああ、うまい。やっぱり死ぬ前に、ここの鍋が食いたかったんだよ」

 ゆっくりと、教皇はコカトリスを咀嚼する。

「縁起でもねえこと言うなよ、おっさん」

 いたたまれなくなり、オレは教皇を昔のように呼ぶ。

「まだまだ、楽しみはたくさんあるんだぜ?」

「おう。オイラはよ、まだ死ぬつもりはねえんだよ。だが身体がどうにも、オイラのいうことを聞いてくれなくなってきちまった」

「バカ言うな、おっさん。アンタはここだと、自分で箸を持てるじゃねえか」

 病床では、使用人に食べさせてもらっているのに。

「酒はやめといたほうが、いいんじゃねえか?」

「飲ませてくれい。きつい一発がありゃあ、オイラはどこまでも飛べるのさ」

 オレの静止を聞かず、教皇は強い酒を煽る。

「んーっ」と、いつものようにアルコールを鼻から抜く。

「うまい。人生最後にふさわしいぜ」

「おっさんっ」

「オイラのことはいいんだよ。ソロガス。お前、最近はどうだ?」

「順調だよ。退屈ともいうがな」

「ああ。王様ってのは、退屈なくらいがちょうどいいんだよ。大昔に飢饉があったときは、地獄だった。人間同士が、争いを起こしてよ」
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