病弱令嬢は、愛する家族のために呪いの覆面を被って悪役レスラーとなる!

椎名 富比路

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最終章 ノーリング 巨大化デスマッチ

第23話 巨大イノーバ

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『あっと、なんということでしょう! エンプレス・イノーバが、巨大化してしまいました。体型も異形化していまして、もはやイノーバとしての感情すらあるのかさえわからない! おおっと! マイクを召喚したぞ!』

 イノーバが、マイクのようなものを手に取った。どうやら、杖のようだ。

「我は、魔王! イノーバの身体を借りて、この世界に再び降臨した! この世界は、我がものとなる!」

 杖をマイク代わりにして、イノーバが吠える。

「手始めに、王都を火の海に変えてくれるわ!」
 
 巨大な魔物と化したイノーバが、王都の方向へとズンズン進んでいく。

『おっと、どうやらイノーバ。魔王と完全に融合してしまったようであります! 騎士たちが足元からイノーバに呼びかけております。しかし、まったく耳に入っていない模様! むしろ、足で蹴り飛ばされております! コレは危ない!』

 住民たちは、できるだけ高いところへ避難しているようだ。
 
 天空城が、また起動した。

 取り残されているわたしは、城の一番高い観客席へ。

「魔王め、王都を攻撃はさせないよ」

 城を動かしているのは、シシマルのようだ。

「どういう原理なんだ?」

「大昔の天空城は、魔王との戦いのために、武装を仕込んであるんだ」

 今が、そのときらしい。

 天使たち、セイクリッド族が舞い降りて、城の修復作業をしている。

「急ぐにゃん! レスルースの民衆を守るにゃん!」

 完全に修繕を終えた天空城が、変形した。

「くらえ!」

 天空城の下から、砲台が。

 展開した放題から、火球が撃ち出される。

 数発の火球を受けて、イノーバがわずかに怯む。

 しかし、決定的なダメージには至っていないようだ。

「前より、強くなっているね。イノーバの怨念も、込み込みなんだろうけど」

「イノーバの怨念?」

「エンプレス・イノーバは幼少期、魔王の力を借りて病気を治したそうなんだ」

 その昔、エンプレスイノーバは病弱な少女だったらしい。

 しかし、魔王の力を手に入れて、見違えるほどに美しい女性となったという。

 その後、こっそりドラゴンやら魔物の肉を大量に食らっていたらしい。
 あの巨大な肉体は、今まで圧縮されていたパワーを一気に開放したためだとか。

「王族は喜んでいたけど、国王は我が娘が別人になってしまっていることに気づいたようだった。ボクに抹殺を依頼しようとも、考えていたらしい」

 しかし、わずかに残る我が子の面影に、どうしても手を下せない。

「それで、代わりにイノーバを殺せる相手を探した。それが」

「……わたしか?」
 
「ああ。毒をもって毒を制するためにね」

「勇者ではなく?」

「正確には、魔王を追い詰めていたのは、勇者じゃない。ダンプなんだ」

 ダンプと魔王は、覇権を争っている敵同士だったという。

 激闘の後、お互いが膠着状態に陥り、そのスキを着いたのが、勇者だった。

 勇者は魔人ダンプと魔王の二体とも、倒したのである。
 
「国王は、ハンプティ・ダンプティを復活させて潰し合わせようとしていた」

 しかし、その目論見がイノーバに発覚して、国王は殺された。先手を打たれてしまったのである。

「国王になにかあったときのように、キミの相棒であるオニ太の助けを借りて、キミを助け出した。まあ、キミがダンプになるなんて思ってもいなかったけどね」

「わたしの正体を、知っていたの?」

「アハハ。隠さないんだね? ボクは当てずっぽうで、フロランスくんがダンプになったと思っていたんだけど」

 カンで答えたのに、わたしが答えを明かしてしまった。

「他には、誰が候補だった?」

「ボクさ」

 なんと、シシマルがダンプとして活動するつもりだったという。

「けど、ボクではダンプを抑え込めない。感情の起伏に乏しいから、ダンプの力をまるで発揮できなかっただろうね。乗っ取られて終わりさ。そうだろ、ダンプ?」

『たしかにね。アンタでは、アタイの力を半分も開放できなかっただろうさ。自己があまりにも強すぎる上に、教会の手先だろう? 相性は、最悪だったろうよ』

「でもダンプ。キミにとってもフロランスくんを取り込むのは賭けだっただろう? フロランスくんはプロレスの知識があっても、実力がなさすぎる」

『新鮮な気持ちで、またプロレスを楽しめるようになったよ。最初は大変だったけどね、フロランスは歯を食いしばりながらついてきていたよ』

「キミにとっても、いい相棒だろうね」

 話している間にも、多くのセイクリッド族が犠牲になった。

 天空城にも、ダメージが入る。

「どうやら、ここまでのようだ」
 
『最終形態に入るよ、フロランス。もう一度聞くよ。一度最終形態になれば、もう人間には戻れないよ。覚悟は、できたかい?』

「ああ。やってやるよ」

 どうせ、このまま手をこまねいていても、世界が壊滅するだけ。

 ヤツを止められるやつが、身体を張ればいい。

 わたししか、いないんだ。

 魔王となったイノーバが、腕でラリアットを繰り出す。

 ラリアットで、レスルースの城を破壊した。

 騎士たちが矢を放つも、まるで話にならない。

「イノーバァ! こっちを見ろお!」

 わたしは、天空城から飛び降りた。
 
 身体が、ドンドンと膨張していく。

「おおおおおおお!」

 イノーバのような異形の人間体ではなく、わたしのまま巨大化した。

 何事かと、イノーバも足を止めている。

 草原を踏みしめて、わたしはイノーバと睨み合う。

「おらあああ! イノーバ! わたしたちは、プロレスラーだろうが! だったら、プロレスで勝負するのが道理だろ!」

「まだ、プロレスにこだわるか」

「こだわるさ! なぜなら、わたしはプロレスラーだからだ! それは、お前もだろうが!」

 だったら、プロレスで決着をつけるべきだ。

「リングもなしに、プロレスができると?」

「あるだろうよ、リングなら!」

 わたしは、両手を広げる。

「この地上が、すべてリングだ!」

 リングなんて、必要ない。

 コーナーを使いたいなら、尖った鉱山でいいだろう。

 ロープはないが、わたしたちがロープブレイクなんてするか?

 場外には、海もある。なんなら、溺死させることだって可能だ。

 わたしたちの決戦で、これ以上のすばらしいフィールドなどあるだろうか。

「よかろう。憎き王都、憎き勇者ゴッドバード一族の前に、貴様から血祭りにあげてやろう!」
  
 こうして、ノーリングデスマッチが始まった。
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