病弱令嬢は、愛する家族のために呪いの覆面を被って悪役レスラーとなる!

椎名 富比路

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第三章 天使 VS 悪魔 天空城タッグマッチ

第16話 パートナーは、伝説の!?

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 天使メタローが降臨したこともエライことだが、天使相手に物怖じしないエンプレス・イノーバも大概だ。

「ハンプティ・ダンプティは、天使にとっても敵にゃん。天使が倒すのが、道理にゃん」

「ならば、今は欠場中だ。不意打ちでもなんでもすればよかろう?」

「それは、フェアじゃないにゃん。リングの上で、大観衆に見守られる中で倒すことこそ、意味があるにゃん」

「同感だ。情けない状態で倒しても、また復活する言い訳を作ってしまう。完璧な状態で倒して、心を折らねばならない」

 メタローもイノーバも、目的は同じのようだ。

「でもお前、我が同胞とタッグを組んでいることに気がついていないにゃん」

「ん?」

 エーリ・シシマルが、いなくなっている。

「おっ。やっと気がついたね」

 気がつくと、シシマルはリングのコーナーポストに座っていた。
 ホワイトライオンの獣人族であり、それなりに背が高い。

 会場が、どよめく。

「貴様、いつの間に天使の仲間になっていた?」

「キミが、知らなかっただけだろう。ボクは最初から、天使側だよ。我が獣人族が修道女なのは、知ってるだろ? ボクは特殊だけど」
 
 シシマルが、ライオンのヒゲをなでる。

「ボクはいわゆる、異端審問官インクイジター。いわゆる、天使が遣わした使者ってわけだね」

「というわけで、このエーリ・シシマルと組んで、ダンプと対戦するにゃん。ダンプを今度こそ、浄化してやるにゃん」

 高々と、メタローが宣言した。

「しかし、天使よ。肝心のダンプだが、タッグを組む相手がまだ、決まっていない」

 解説席にいるシャイナさんが、メタローにマイクで語りかける。
 
 今ならアナベルか、銀杏婦人とタッグを組めばいい。

「にゃんが、さっき決めたにゃん」

 メタローは、ゴッドバード・シャイナを指差す。

「お前、ダンプとタッグを組め」

 なんと、わたしのタッグ相手は、ゴッドバード・シャイナと勝手に決められてしまった。

「どういうことだ? 私がダンプと組むなんて」

「たしかにアナベル・ランペイジ・ロシモフも、銀杏婦人もそれなりにゃん。けど、それなり止まりにゃん。にゃんとしては、もっとサプライズが欲しいにゃん。それに、にゃんのリクエストじゃないにゃん」
 
 この試合は、シシマルの要望だったらしい。
 
「ボク、シャイナくんと戦ったことがないんだよね。だから、一度本気で戦ってみたかったんだ。こんなチャンス、またとないからね」

 これまでシャイナさんは、自分たちの団体を盛り上げることで、忙しかった。そのため、他団体とのコラボも難しい状況にある。

 これは、いい機会かもしれない。

「さあ、受けるのか、受けないのか?」

「NOと言ったら?」

「そのときは、そのときにゃん。そっちの団体も、潰すにゃん」

「ならば、話だけでもしてみよう」
 
 逡巡した後、シャイナさんは宣言した。

 会場が、盛大に湧き上がる。

 これは、わたしの出番かもしれない。

 わたしは観客席から引っ込んで、認識阻害マスクを剥がす。

「なにをテメエらで、勝手に決めてやがるんだ、コラアア!」
 
 すぐにダンプへと変貌したわたしは、リングに上がった。レフェリーから、マイクをひったくる。

 盛り上がっていた会場が、ブーイングで染まった。

「ゴッドバード・シャイナ! いいか、シャイナ! 決断するのはわたしだ!」

 シャイナさんを指差し、宣言をする。

「誰の指図も受けねえ! わたしは自分の意思で、すべてを決める! 組んでほしかったら、テメエがわたしに頭を下げるんだよ!」

 わたしは、マイクをマットに叩きつけた。

「てめえふざけんなダンプ!」

「帰れテメエ!」

「頭を下げる必要なんてねえぞ、ゴッドバード!」
 
 かつてないほどのブーイングが、巻き起こる。追放コールも、今までの比ではない。

 耳をすませるポーズで、わたしはさらに罵倒を煽った。コクコクとうなずきながら、舌を出す。

 これくらいしなければ、シャイナさんの惨めさは薄まらない。

 もっとわたしにヘイトをよこせ、観客ども! 
 悪いのは全部、わたしでいい。

 ゴッドバード・シャイナが、ゆっくりとリングに上がってくる。

「私は、キミに興味がある。今は敵対しているかも知れないが、この天使たちは私にとっても敵となった。力を貸してくれないか」

 シャイナさんが、手を差し伸べてきた。

 わたしは、棒立ちになってしまう。

 なにやってんだ、この人は?

 この局面で、わたしに手を貸すというのか。このクズに、手を差し伸べるなんて。
 どこまで聖人なんだ、この人は。

 天使メタローも、異端審問官シシマルも、さっきまでの余裕ぶりがない。

 これが、勇者。

 天からの御使いさえ、黙らせる。

 プロレスの茶番を、シリアスなシナリオに変えてしまう。

 これこそが、勇者なわけか。

 格の違いを、見せつけられた。

 彼女にとっては、天使だろうが魔人だろうが関係ないんだ。

 自分にとって障害が現れたらなら、たとえ悪魔とだって手を組む。天使だって排除するんだ。

 なんという人格者。わたしの憧れ。

「テメエ、それでいいのか?」

 だからこそ、わたしは反発する。

「もっとキレてこいよ! テメエは、ムカついてるなら、正直にぶつけてこいや! テメエの覚悟は、こんなもんなのかよ!」

 頭なんて、簡単に下げるな。
 わたしが大好きだったゴッドバードは、こんな程度で人に頭を下げるような器じゃない。

 下げなくったって、いいんだ。
 自分の品格まで、下げるだけ。

「理不尽ってのは、自分で握りつぶしてこそ、意味があるんだろうが!」

 わたしは、シャイナさんのアゴを手で掴む。

 持ち上げられない!

「私が頭にきていないと思うか?」

 瞬間、平手打ちが飛んできた。
 
 やはり、シャイナさんも内心では怒っているのだ。

 それでいい。これでこそ、ゴッドバード・シャイナだろ!
 誰かに媚びて、尻尾をふるような女ではない。

「黙ってついてこい!」と、背中で語ってくれる。

 だからこそ、わたしは憧れたんだろうが!

「しゃあらああ!」

 わたしも、だからわたしも、同じくビンタを打ち返す。

 顔を掴まれたまま、なおもシャイナさんはビンタで殴ってきた。

『あっと! これはどういうことか? ビンタです! 殴り合い! はたき合い! お互いの感情をぶつけ合っております。二人には、こういうコミュニケーションしか、できないんでしょうか!? 否、こういったやりとりこそ、二人にとって大事なのであります!』

 そのとおりだ。

 わたしたちにとって、仲良しこよしなんて似合わない。

 どっちかが上か下かなんて、どうでもいいんだ。

「これで、対等だ。私に力を貸せ。ダンプ!」

「そっちこそ、わたしの足を引っ張んじゃねえ」
 
 二人でぶっ潰そう。この二人を。

 わたしは、シャイナさんの首にかけていた手を緩めた。そのまま、シャイナさんの手を取る。

 シャイナさんの方も、握り返してきた。

『あっと! ここで電撃タッグが誕生した! ゴッドバード・シャイナとハンプティ・ダンプティ。勇者と悪魔によるタッグチームが生まれた瞬間に、我々は立ち会ったわけであります!』

 花道から降りても、なおも追放コールは鳴り止まない。

「行かないで、シャイナ!」

「戻ってきて!」

「正気に戻って!」
  
 シャイナさんが悪堕ちしたと誤解して、女性ファンが悲鳴を上げている。

 わたしが観客だとしても、同じような反応をしていたに違いない。

「感謝する、ダンプ。さっき二人に負けた相手は、わたしの先輩レスラーだった」

「おん……」

「彼女たちがああも簡単に倒された上に、倒したのがシシマルと聞いてな。勝てるイメージを正直、失ってしまった。キミのお陰で目が醒めたよ」

「知るか。戦う前から日和るバカがいるかよ」

 ほぼ初対面だと言うのに、わたしはそっけない態度で対応しちゃった。

 しかし、ダンプである以上、こうするしかないのがなぁ……。
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