これ、みたらし団子じゃないじゃん!

椎名 富比路

文字の大きさ
1 / 1

みたらし団子を買ってほしい

しおりを挟む
「え、これみたらし団子じゃないじゃーん」
 
「職場の屋上でお月見するぞ」とカナタ先輩に言われて、オレはみたらし団子をちゃんと買ってきたのだが。

「いやいや! これね、ちゃーんと『みたらし団子』なんですよ」

「うそだ。葛餡がかかってない! みたらしてないじゃん!」

 スカートを履いた足をバタバタさせながら、カナタ先輩はストロング系ハイボールの空き缶をオレに投げつけた。

 みたらしてないって意味がわからないんだが……。

「ユーマ使えなーい。自分でコンビに行って買ってくればよかった」

 ストロングが入っているせいか、圧がやや強めだ。

「まあまあ、騙されたと思って食ってみてくださいよ」

 俺が箱を差し出すと、ふてくされつつもカナタ先輩は団子を爪楊枝で刺してパクリ。

 すぐに、オレの言葉を理解した。
 
「あー! 中に餡が入ってるのか!」

「そうなんですよ。これね、大阪で見つけたんですよ」

 こちらにも系列店がオープンしたというので、買ってきたのである。

 営業先でお得意さんにあげたところ、たいそう喜ばれた。

「うまいでしょ?」

「うん。めっちゃうまい。服が汚れないってうれしい!」

 お互い営業なので、スーツが汚れると大変だ。
 みたらしで服を汚したくはなかった。

「でもなあ。やぱり餡がかかってる方も食べたいなー」

「そーですか?」

 語り始める前に、カナタ先輩はストロングを一気に煽る。
 まるで燃料補給みたいに。

「うえーい。だってさ、タレがあたしのスカートにボトって落ちるじゃん。もしくはヒザ?」

 不衛生ですね。 

「そんでさぁ、あんたに『なめろ』って言ってさ、舐めさせるの」

 妄想が爆発していますね。
 
「幸いな、今は月しか見てないじゃん。屋上で乳繰り合ってもさ」
「は、はあ」
「お前、そこまで考えろや!」

 また、ストロング缶が飛ぶ。

「あたしが考えた最強のシチュを台無しにすんなや! せっかくの満月だ。月がガン見しているところになぁ、くたびれたOLと営業社畜がくんずほぐれつよ! わかってんの!?」
「そういわれてもなぁ」


 あんた、酒が抜けたら全部忘れるじゃん。

「みたらしくらいトロトロの恋がしたいわけよ! わかる? いわゆるワンナイトラブ?」
「そうですか。では先輩は、オレの考えはわからないです?」
「なにが?」

 
「中に入ってるの、餡だけだと思ってんスか?」

 団子に爪楊枝を刺し、カナタ先輩に食べさせる。

「なにお前、酔ってんの?」
「酔ってますよ。ココに来る前、景気づけにひと缶開けてきたんで」

 珍しく、カナタ先輩がたじろぐ。

「ほら、お目当てのワンナイトラブですよ。それとももう一晩ほしいです?」
「いやいやお前そういうのに食いつかないってわかってるからジョークを言えるわけで」
「先輩にとっては、ジョークだったんですか? 今までのアプローチは?」
「……いえ」
 
 
 オレはフニャフニャになったカナタ先輩を、月に見せつけてやった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

残業で疲れたあなたのために

にのみや朱乃
大衆娯楽
(性的描写あり) 残業で会社に残っていた佐藤に、同じように残っていた田中が声をかける。 それは二人の秘密の合図だった。 誰にも話せない夜が始まる。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

元婚約者が修道院送りになった令嬢を呼び戻すとき

岡暁舟
恋愛
「もう一度やり直そう」 そんなに上手くいくのでしょうか???

帰ってきた兄の結婚、そして私、の話

鳴哉
恋愛
侯爵家の養女である妹 と 侯爵家の跡継ぎの兄 の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日2回、予約投稿します。 2025.12.24 誤字修正いたしました。 ご指摘いただき、ありがとうございました。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

処理中です...