ASMR系男子と、餌付け姫 ~音フェチの生徒会長が、咀嚼音に定評のある男子副会長に毎日お弁当を作ってあげる~

椎名 富比路

文字の大きさ
2 / 11

ASMR系男子と、筑前煮

しおりを挟む
「はい、どうぞ」
 サライは、約束通り弁当を渡す。

 クラスが違うので、渡すのは生徒会室だ。
 
 メインは筑前煮で、他はプチトマト、チーズちくわである。
 卵焼きはやめた。塩味と砂糖味のどちらがいいか聞き逃したからだ。
 結局、ネギとツナ入りスクランブルにしてある。

「ありがとうございます。何もしなくていいのですか?」
「いいから食べなさい。というか、食べるところを私に見せなさい」
「は、はあ」

 困惑気味に、丈留タケルは「いただきます」と手を合わせた。

「おいしい?」
 頬杖をつきながら、サライはタケルに尋ねる。

「んっ、めっちゃおいしいです!」
 ゆっくりと咀嚼しながら、タケルは顔をほころばせた。

「筑前煮って、大好きなんですよ。もぐもく」
 タケルがゴボウをコリッをかじる。

『あびゃ~』

 レンコンが、タケルの口内でゴリゴリほころんだ。

『むひょ~』

 根の野菜ばかりで味気なくなったのか、タケルは鶏肉へと箸を延ばす。

 ムチュウ、と鶏肉がタケルの中で弾けた。

『うっとり』

 最高の気分だ。こうして、食事風景に定評のある男子を独占できるとは。

「そんなにおいしい?」
「はい。堅さが絶妙です」

 そうだろう。歯ごたえと柔らかさを両立させるため、研究したのだ。

 ASMRを追求するなら、少々固めの食材がいいだろう。
 かといって、おいしさが損なわれてしまえうのは避けたかった。
 タケルが色々と言い訳をして、自分の弁当から遠ざかってしまうかもしれないから。

 うまくて音が出やすい料理として、筑前煮に辿り着く。
 味付けが古風な彼にはぴったりだろう。

 おかげで寝不足である。
 奇跡的に早起きできた自分を褒めてやりたい。
 おかげで、このような奇跡場面を味わえるのだから。

「昨日のおうどんが関西風のお出汁を使っていたでしょ? 薄味が好きなのかなって」
「全体的にサッパリしていて、何より香りからして茶色くないのがいいです」
「よかったわ。茶色いお弁当の方が好きだったらどうしようかと」

 普段、サライは茶色い弁当を作らない。
 味がばらついたり栄養が偏ったりしないよう、カラフルにまとめる。
 スマホの料理サイトは毎回視聴し、手を抜かない。
 すべては自分がおいしく食べるため。でも……。

「そんなにおいしく食べてくれるなんて。たいらげるクンの名は伊達じゃないわね」
「僕は衣良イラ 丈留タケルです。それはそうと、お料理上手なんですね?」
「やらされるのよ。家訓で」

 サライは自分の弁当しか作らない。
 その代わり、好きなモノを入れていいことになっている。

「自分のことは自分でやる」、これが枇々木ヒビキ家の掟だから。

 よって父も、弁当は自前だ。毎回茶色く、ほとんど外食で済ませるが。

 筑前煮がメインディッシュなので、どうしても茶色くなりそうな所は、カラフルふりかけおにぎりでごまかした。

 作りすぎてしまうボリュームと重さは、自分の量を減らすことで補う。
 腹一杯にする習慣がないので、ちょうどよかった。

「ごちそうさまでした。こんなに凝った料理って、ウチでも出ないので助かりました」

「いえいえ。こんなものでよければ、いつでも作ってあげるわ」
 空になった二つの弁当箱を、サライはポーチに包む。

「いつもなんてそんな。さすがに気を使います」
「そうね。だったら、今度ご馳走してくださいな。次の休みとか」
「いいですね。どこがいいです?」

 しばらくサライは思案したが、あることを思い出す。
「デパートのおうどん屋さんにしましょ。あなた、落語をやるんでしょ? 練習に付き合ってあげるわ」

「ありがとうございます。では、次の土曜、おうどんをごちそうしますよ」
「こちらこそありがとう。よろしくね」

 放課後、サライは書記の天童テンドウ 志摩シマとスーパーへ。
 明日の弁当で出すオカズを買うためだ。

「相変わらず、食生活が不規則ね」
「いいのいいの。ダイエットとか考えてないし。おいしいは正義だし」

 入店早々、志摩は買い物カゴにお菓子ばっかり詰め込む。

 サライのカゴは、丁寧に食材が並んでいた。

 タマネギと挽肉に手を出す。
 明日は手作りハンバーグにするつもりだ。チーズをインすることも忘れない。
 牛乳も買わねば。

「堅物だと思ってたサライが、人のために料理ねー。かいがいしいじゃん。カレシのお弁当を作ってあげるなんてさ」


「カレシ? あなた何を言っているの?」


 ワケがわからない。
 どういう思考をすれば、そんな理屈に辿り着くのか。

「私はただ、自分の欲求に忠実なだけよ。大好きなASMRを聞くために、彼に働いてもらっているだけなの」

「え……」
 志摩の目が、刺身コーナーで寝そべっているサバと同じような色になった。

「弁当を作ってあげているだけでカレシと呼ぶのなら、仕出し弁当のオバサンは誰かのカレシと言えるのではないかしら。例えばこちらの惣菜弁当を作った人とか」

 四〇〇円の値札が貼られたスーパー弁当を、サライは掴む。

「私の行いなんて、スーパーのお弁当担当がしていることと同じなの。自分の欲求を満たすために、弁当を作ってあげているだけなのよ。恋人面なんでできるわけないわ」

「その思考をしている時点で、カノジョじゃん」

「何か言った?」
「いんや。『難聴系主人公って女子にも適用されるんだな』って思っただけ」

 サライは、首をかしげる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

女性が少ない世界でVTuberやります!

dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉ なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。 ※恋愛大賞の投票ありがとうございました(o´∀`o)参加したみなさんお疲れ様です! 毎週火曜・金曜日に投稿予定 作者ブル

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

処理中です...