甘い関係を見ているだけ

椎名 富比路

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百合を見つめる男

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 オレは、今日もケーキ屋に来ている。
 目当てはスイーツ……ではない!


「いらっしゃいませえ」

 この店頭に立つお姉さん……でもなし!

 たしかに、このお姉さんはカワイイとは思う。
  小動物系で、こんなちっこいこが一生懸命ケーキをデコレーションしているのかと想像するだけでエモさ爆発である。 
 
 だがオレは、彼女を「交際したい」という視線で見てはいない。
 性的な目なんてもってのほか!
 
「ああ、どうも。いつもの。それとカフェオレを」

「かしこまりましたぁ。カフェオレは、お席にお持ちしますねぇ」

「ど、どうも」
 
 店員さんの方も、オレなんて視界にすら入っていないだろう。

 チョコレートケーキを手に、オレはイートインへ。

 今日も来るかな?
 いつもなら、この時間だろう。

……来た!

 たっぱのある、通勤帰りのOLさんが、マフラーを直しながら店に入ってきた。

「ゴメン。残業してた」
「もー。ミルクレープ売り切れるところだったよぉ」

 レジで、足をパタパタさせる店員さん。
 OLさんは、カウンターで何度も頭を下げる。

「あと五分で上がるから待っててね。いつものやつでいいよね?」
「うん。それと、抹茶ラテちょうだい」
「はーい」
 
 そう。オレは、この二人の百合百合を見に来ているのだ。

 ああ、チョコケーキがはかどる!

 たしかに、ここのケーキは普通にウマい。
 甘すぎず、かといって過度な冒険もしていない、口当たりの良さである。
  フォークをなめているだけでも、幸せだ!
 
  バースデーケーキに二人が乗っていたら、オレは冷凍保存したまま手を付けないだろう!

 一生一緒にいろ! くっつけ! とわに!

 ああ、カフェオレで酔っ払いそうだ。
 オレは酒が飲めない。だが、酔うってこんな状態なんだろうなと思う。

 二人の百合百合に、オレはいつまでも酔いしれていたい。

 いかんいかん。チョコケーキとカフェオレだけで粘ってしまっても邪魔だな。
 もうすぐ閉店だし。

 いやあ、思えばあの二人を追いかけて、もう二年になる。
 ミルクレープのように、二人は時間を積み重ねてきたのだろう。
 オレは見ていたぞ。チョコケーキを食いながら。

「あの!」

 店員さんが、いつの間にかオレの側にいた。
 
 しまった、さすがにうっとうしかったか。

 まあいい。引き際も肝心だ。

「すまなかったね。いつも、素敵な味をありがとう。ボクは去るとするよ。もう店には現れないだろう」

「それは困ります」

「はい?」

「だって、わたし今日でお店を辞めるんですから」

「なんですと!?」

 なら、オレがいてもいなくても、この味は出ないのか。
 それは、寂しくなるな。

「でね、今度この子とお店を開くことになったんです。駅前に」

 オレが常連なので、ぜひ食べに来てほしいと報告に来たのだった。

 なんだ、そういうことか。

「でも、迷惑だろ? オレなんかが来ても」

「全然! ぜひいらしてください! またイートインの席を開けてお待ちしていますよ」

「あ、ああ。ありがとう」

「いえいえ。だって……」

 店員さんが、オレにだけ聞こえるように耳打ちしてきた。

「わたしたちのことも、まだ見ていたいでしょ?」
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