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「おやすみなさい」で、ブヒる姫
「おやすみなさい」と耳元でささやいたら、ブヒられる
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放送室でお菓子を食いながら、俺は、校内放送の司会をしている。いわゆるお昼の放送ってヤツだ。
「では、○○をどうぞ。ボカロ曲で有名ですね」
たいして、曲に思い入れはない。放送部部長から「是非お昼に流して!」とリクエストされただけだ。でも、いい曲だなとは思う。
「こんな歌詞が、ガツンとくるんだろうなぁ」
長細いチョコ菓子をポキッと食いながら、俺はひとりごちる。
どちらかというと、俺はプロの洗練された曲が好きだ。けれど、ボカロ曲のような感情剥き出しの歌詞が若い世代に刺さるというのは、なんとなくわかる気がする。
俺も中学生なんだけれど。
お昼は正直、懐メロを流したかったんだよね。親の影響で、俺は懐メロ好きなのだ。
決して、俺が棗 朗《あきら》という名で、「朗」を音読みして「なつめろ」と読むからではない。
昼休みは俺の独壇場、聖域と思っている。しかし、今日は部長の妹さんから依頼された。その妹さんが、作者と知り合いなんだとか。世界って狭いね。
「ま、俺には関係ないけど」
チョコ菓子を、ポキポキ食べる。この曲、ワンフレーズ聴いたらもういいな。段々と、身体が刺激物を受け付けなくなってるな。年寄りみたいになってきている。
俺が食っているチョコ焼き菓子も、俺が生まれる前からあるオーソドックスなものだ。今でこそ「大人向け」など種類が豊富だが、当時はイチゴ味くらいしか種類がなかったらしい。
「普通が一番だろ。ポキポキ」
リスのように、カリカリと焼き菓子を口へ移動させる。
誰かが廊下を走り回っていた。その音は、購買に向かっているような。
突然、放送室のドアが開く。
「棗! あんたちょっと、飯テロやめてくれない?」
三年の部長が、怒鳴り込んできたのだ。
「なんスか?」
俺は制服の襟を掴まれて、立たされる。
「購買利用者から苦情が来てるのよ! あんたの食べる音が気になって、生徒がお菓子を買い求めてくるって!」
「俺のせいだっていうんスか?」
そう言って、部長俺の隣にある機材を触る。
「あんたずっと、ミュートし忘れてたでしょ?」
やばい。興味ない曲を流していたから注意力が。
「すんません」
「おいしそうな焼き菓子の咀嚼音をずっと聞かされて、購買がパンクしたの。おかげで一部の生徒が、お昼を買えなかったって文句が来ているの!」
うわあ、やっちまった。
「さぞキモかったのでは?」
人の食事音なんて、放送できるもんじゃない。
「食欲をかき立てられた、って意見が殺到しているの」
腰に手を当てながら、部長が高圧的な態度を取る。
「今回は私の監督不行き届きでもあるわ。あんたの処遇は、放課後決めるから」
放課後、俺は聖域を追い出されることが正式に決定した。
「あんたの腕は見込んでいたわ。中学生相手に懐メロを流して、音楽をもっと身近にというコンセプトはすばらしい。古くさいけど、決して悪いアイデアじゃないわ」
俺を追い出すにしては、放送部部長は妙に優しい。
「やっぱ、食ってる音を垂れ流したのがいけなかったんスか?」
部長は首を振る。
「いえ、クビとは違うわ。ヘッドハンティングよ」
言っている意味がわからない。
「さる人物が、あんたを欲しがってるの。そいつに引き渡すわ」
退会の手続きは済ませているから、今すぐ一階の空き部屋へ向かえという。
まるで厄介払いだなと思った。
この学校は、部活動に入ることが原則となっている。
空き部屋に行けということは、別の部を立ち上げる人物に会えってコトかな?
行ってみればわかるか。
到着したのは、狭い部屋だ。物置かな? ここに入れと、メモには書いてある。
パチパチと、火が燃える音がした。音は、結構大きい。しかし、煙などは上がっていなかった。
「お邪魔しまーす」
扉を開けて飛び込んできたのは、デカいソファである。
黒髪の女子生徒が、そこに横たわっていた。
この娘は、音更 沙和じゃないか。
ウチのクラスでトップレベルの美少女であり、変わり者である。誰かとつるんでいるトコはあまり見たことがなく、クラスで浮いた存在になっていた。
それが今、スカートがずり上がった状態でソファに寝そべっている。細身ながら、スタイルがいい。男子が近くにいるってのに、無防備な状態だ。頭につけているヘッドフォンも外れている。
「これは、環境音?」
さっきから気になっている音は、スマホから流れていた。たき火の動画を見ていたらしい。寝ている間に、ヘッドフォンのケーブルが抜けたようである。
しかし、音更は気にせず眠っていた。
せっかく来たのだが、一向に起きる気配がない。
退散するか。しかし、俺以外の男子が入ってきたら、とんでもない事案が発生しそうだ。誰か先生でも呼んで事情を説明して、帰らせてもらうか。その前に、一声掛けておこう。
「棗 朗です。音更さん、寝ているようなので帰りますね」
聞いていないようだ。
仕方がない。俺は、音更さんの耳に顔を近づける。
「おやすみなさい」
俺は、片方の耳にささやいた。
「んんんんんんんんプップププププププ!」
いきなり、音更さんが顔面を手で覆う。足もジタバタさせ始めたぞ。
なんだなんだ? いきなり音更さんが覚醒したぞっ!?
「ハアハアハアハアハアハアハア! なに今の? 神? 神ボイス?」
ストロング系飲料でも飲んだような勢いで、音更さんは起き上がる。学校ではまず聴けないデスボイス気味な声で。
これが、限界化ってやつか。
「ああ、棗くん」
ようやく、音更さんは俺の存在に気づいたらしい。髪を整え、いつもの美少女モードに早変わり。
「用事があるってのは、音更さんでいいんだよな?」
「そうよ。ねえ棗くん、ASMR研に入らない?」
「では、○○をどうぞ。ボカロ曲で有名ですね」
たいして、曲に思い入れはない。放送部部長から「是非お昼に流して!」とリクエストされただけだ。でも、いい曲だなとは思う。
「こんな歌詞が、ガツンとくるんだろうなぁ」
長細いチョコ菓子をポキッと食いながら、俺はひとりごちる。
どちらかというと、俺はプロの洗練された曲が好きだ。けれど、ボカロ曲のような感情剥き出しの歌詞が若い世代に刺さるというのは、なんとなくわかる気がする。
俺も中学生なんだけれど。
お昼は正直、懐メロを流したかったんだよね。親の影響で、俺は懐メロ好きなのだ。
決して、俺が棗 朗《あきら》という名で、「朗」を音読みして「なつめろ」と読むからではない。
昼休みは俺の独壇場、聖域と思っている。しかし、今日は部長の妹さんから依頼された。その妹さんが、作者と知り合いなんだとか。世界って狭いね。
「ま、俺には関係ないけど」
チョコ菓子を、ポキポキ食べる。この曲、ワンフレーズ聴いたらもういいな。段々と、身体が刺激物を受け付けなくなってるな。年寄りみたいになってきている。
俺が食っているチョコ焼き菓子も、俺が生まれる前からあるオーソドックスなものだ。今でこそ「大人向け」など種類が豊富だが、当時はイチゴ味くらいしか種類がなかったらしい。
「普通が一番だろ。ポキポキ」
リスのように、カリカリと焼き菓子を口へ移動させる。
誰かが廊下を走り回っていた。その音は、購買に向かっているような。
突然、放送室のドアが開く。
「棗! あんたちょっと、飯テロやめてくれない?」
三年の部長が、怒鳴り込んできたのだ。
「なんスか?」
俺は制服の襟を掴まれて、立たされる。
「購買利用者から苦情が来てるのよ! あんたの食べる音が気になって、生徒がお菓子を買い求めてくるって!」
「俺のせいだっていうんスか?」
そう言って、部長俺の隣にある機材を触る。
「あんたずっと、ミュートし忘れてたでしょ?」
やばい。興味ない曲を流していたから注意力が。
「すんません」
「おいしそうな焼き菓子の咀嚼音をずっと聞かされて、購買がパンクしたの。おかげで一部の生徒が、お昼を買えなかったって文句が来ているの!」
うわあ、やっちまった。
「さぞキモかったのでは?」
人の食事音なんて、放送できるもんじゃない。
「食欲をかき立てられた、って意見が殺到しているの」
腰に手を当てながら、部長が高圧的な態度を取る。
「今回は私の監督不行き届きでもあるわ。あんたの処遇は、放課後決めるから」
放課後、俺は聖域を追い出されることが正式に決定した。
「あんたの腕は見込んでいたわ。中学生相手に懐メロを流して、音楽をもっと身近にというコンセプトはすばらしい。古くさいけど、決して悪いアイデアじゃないわ」
俺を追い出すにしては、放送部部長は妙に優しい。
「やっぱ、食ってる音を垂れ流したのがいけなかったんスか?」
部長は首を振る。
「いえ、クビとは違うわ。ヘッドハンティングよ」
言っている意味がわからない。
「さる人物が、あんたを欲しがってるの。そいつに引き渡すわ」
退会の手続きは済ませているから、今すぐ一階の空き部屋へ向かえという。
まるで厄介払いだなと思った。
この学校は、部活動に入ることが原則となっている。
空き部屋に行けということは、別の部を立ち上げる人物に会えってコトかな?
行ってみればわかるか。
到着したのは、狭い部屋だ。物置かな? ここに入れと、メモには書いてある。
パチパチと、火が燃える音がした。音は、結構大きい。しかし、煙などは上がっていなかった。
「お邪魔しまーす」
扉を開けて飛び込んできたのは、デカいソファである。
黒髪の女子生徒が、そこに横たわっていた。
この娘は、音更 沙和じゃないか。
ウチのクラスでトップレベルの美少女であり、変わり者である。誰かとつるんでいるトコはあまり見たことがなく、クラスで浮いた存在になっていた。
それが今、スカートがずり上がった状態でソファに寝そべっている。細身ながら、スタイルがいい。男子が近くにいるってのに、無防備な状態だ。頭につけているヘッドフォンも外れている。
「これは、環境音?」
さっきから気になっている音は、スマホから流れていた。たき火の動画を見ていたらしい。寝ている間に、ヘッドフォンのケーブルが抜けたようである。
しかし、音更は気にせず眠っていた。
せっかく来たのだが、一向に起きる気配がない。
退散するか。しかし、俺以外の男子が入ってきたら、とんでもない事案が発生しそうだ。誰か先生でも呼んで事情を説明して、帰らせてもらうか。その前に、一声掛けておこう。
「棗 朗です。音更さん、寝ているようなので帰りますね」
聞いていないようだ。
仕方がない。俺は、音更さんの耳に顔を近づける。
「おやすみなさい」
俺は、片方の耳にささやいた。
「んんんんんんんんプップププププププ!」
いきなり、音更さんが顔面を手で覆う。足もジタバタさせ始めたぞ。
なんだなんだ? いきなり音更さんが覚醒したぞっ!?
「ハアハアハアハアハアハアハア! なに今の? 神? 神ボイス?」
ストロング系飲料でも飲んだような勢いで、音更さんは起き上がる。学校ではまず聴けないデスボイス気味な声で。
これが、限界化ってやつか。
「ああ、棗くん」
ようやく、音更さんは俺の存在に気づいたらしい。髪を整え、いつもの美少女モードに早変わり。
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