クイズ「番組」研究部 ~『それでは問題! ブタの貯金箱の正式名は?』「資本主義のブタ!」『はあっ!?』~

椎名 富比路

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第七問 甘酒は、夏の季語である。○か×か? ~僕たちの行く末は、○×なんかでは決められない~

泥とレスラー

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 とはいえ、ここまで先輩がノリのいい人だとは思わなかった。
 この手の運に頼るクイズには興味が無いと思っていたが、案外、お祭り好きなのかも知れない。
 いや、本気の○×は、本気の知識がものを言う。

 そうか、やなせ姉は先輩その人ではなく、煮え切らない態度が気にくわなかったんだ。
 だから聖城先輩を挑発する、煽る。
 長年ペットを担当している経験から、彼女の性格を察すると、ありえると思った。
 
「どうしたの、晶ちゃん?」

 やなせ姉が、探りを入れてくる。

「いや、なんでもないよ」

 まさか、あんたの思考を推理してました、なんて言えない。

「変なの」と、やなせ姉は首をかしげる。「早く始めようよ、晶ちゃん」
「そうだね。では、あちらをご覧下さい!」

 僕は、砂浜を差した。


 砂浜には、二つのエリアが設置されている。
 片方にはマットが設置されているエリアだ。
 片方のプールには、粘り気のある泥が用意されている。
 田んぼ程ではないが、十分に練り込まれている泥だ。

「皆さんが挑戦してもらうのは、『泥んこ選択クイズ』です。では、今度はあちらを見て下さい」

 泥の前方にはパラソルがあり、一組の女子がデッキチェアに並んで座っている。

「あちらにいらっしゃるのが、本物の女子プロレスラーのお二方です。お忙しい中、ありがとうございます」
 
 こちらが挨拶をすると、二人は手を振り返す。

 一人はポニーテールを出した、スラッとしたマスクマンだ。赤色の○の下に赤文字でAと書かれたゼッケンを付けている。

 隣には、青い色の×、青い文字でBと書かれたゼッケンを付けたぽっちゃり体系の人が。

 二人とも、マスクの色に合わせた競泳水着で武装している。
 昌子姉さんが、知り合いを連れてきたのだ。
 
「○か×、もしくは、AかB、二つの選択肢で出題されますので、その選択肢が書かれた方へと向かって下さい」

 間違っていれば泥の中へ。正解なら、無事マットに着地できる。

「では、デモンストレーションを行います。解答者は前へ」
 
 ムキムキの男子生徒が現れた。
 ピチピチのブーメランパンツが、異様な存在感を放つ。

「放送部員の西畑慶介です! よろしく!」

 ギャラリーの温かい拍手で迎えられ、西畑が白い歯を見せた。

「では、西畑君、今回はよろしくお願いします」
「おう。任されて下さいっての!」
「がんばってー」と、やなせ姉が声援を送ると、慶介は力こぶを見せる。
「さて、フィアンセも応援してくれていますよ」

 ギャラリーから冗談交じりのブーイングがわき起こり、慶介は手を振った。
 男子生徒からはブーイングの嵐が飛ぶ。

「では準備はいいですね、では問題。二〇一四年に亡くなった歌手、やしきたかじんさん。彼の楽曲が、大阪環状線、大阪駅の発車メロディとして使用されたことが話題になりました。その楽曲とは、氏の最大ヒット曲、『東京』である。○か×か?」

 慶介はやなせ姉とアイコンタクトをする。その後、○の方へと歩いて行った。

 ○のレスラーが立ち上がる。慶介と同じくらいの背丈だ。レスラーBは慶介を軽々と持ち上げ、お姫様抱っこしてしまう。
 ズンズンと、砂浜を突き進む、レッドのレスラー。

「うわあ」と情けない声を上げているが、喜んでいる。ギャラリーに向けてガッツポーズまで決めて。

 あまりにも楽しそうに見えたためか、やなせ姉はむくれた。

「さて、レスラーが泥とマットの間に立つ! さて、どちらかに放り投げられます。あーっと、泥だ!」

 女子レスラーが、慶介の巨体を、ポイッと放り投げる。

 慶介が、レスラーによって泥のプールへと落とされた。茶色い水しぶきを上げて、逞しい身体が情けなく泥の中へと沈んだ。

「ごきげんな婚約者に待っていたのは、泥のプールだった! さてみなさん、慶介に向かってご唱和下さい。せぇーのっ」

『そんなわけねーだろ!』

 僕が合図をすると、観客が僕に合わせて「そんなわけねーだろ!」コールを唱和してくれた。

 全身が茶色くなった慶介が、泥から這い上がって来る。
 
「今のはデモンストレーションです。わざとハズレの解答をして下さいました。では慶介、正解の方を、ご自分の口からどうぞ」

 慶介が、僕からメガホンをひったくる。

「やっぱ好きやねん!」と、聞こえるように絶叫した。

「ありがとうございます。今度は婚約者に向かって直接大きな声で!」

「やっぱ好――ぶへえ!」

 やなせ姉がシャレっぽく、茶色くなった慶介にビンタした。

「はい。ごちそうさまでした」

 僕が言うと、観客が大ウケする。

「えー、このように、間違えると泥の池に放り投げられます。安全のため底にはマットが敷いてあります。ケガはしないと思いますが、ご注意下さい」

 本当は紙か発泡スチロールの板を作り、走ってダイブしてもらおうと思っていた。
 だが、番組研の部費ではそこまで賄えない。
 場所はやなせ姉が提供してくれたが、それ以上の援助はさすがに頼みづらかった。
 考えた末に、女子プロレス部に投げ飛ばしてもらう、という作戦を考えつく。

「なお、聖城先輩には、お一人で戦ってもらいますが、問題はありませんか?」
「ちょうどいいハンデだと思います」

 まったく物怖じせず、聖城先輩は言い放つ。
 のんが悔しそうに「むむむっ」と唸った。

 こちらは四人に対し、聖城先輩は一人だ。
 もし、スチロールの壁を用意していたら、先輩は四人分ダッシュしないといけない。
 見るからに文化系の先輩には辛いだろうと思ったのも、女子レスラーに依頼した理由である。
 昌子姉さんの人脈の広さに感謝だ。どこから、あのような人材を連れてくるのか。
 ちなみに、彼女たち二名分の出張費用は、昌子姉さんが負担するらしい。日帰りなので微々たる額だが。

「では、先攻後攻の順番を決めたいと思います」
 
 嘉穂さんと先輩に、割り箸で作ったくじを引いてもらう。

「色の付いた割り箸を引いた方が先攻です」
「あ、とすると?」

 色つきの箸を掴んでいたのは、嘉穂さんだった。

「はい。番組研が先です」

 回答する順番は、やなせ姉、のん、湊、嘉穂さんの順だ。
 
「では、誤答すると失格となります。サドンデス形式です。どちらかが全滅した方が負けです」

「ちょっと、いいかしら?」

 聖城先輩が手を挙げる。

「どうなさいましたか?」
「こちらには、助っ人がいないのね?」
「そうですね」

 厳密に言えば、聖城先輩に釣り合う人が見つからなかったのだ。

「そちらは四人。こちらは一人。つまり、番組研は三回間違えられるってわけよね?」
「いえ、先輩も三回間違えられますよ?」

 当然だ。でなければアンフェアすぎる。何が言いたいんだ、先輩は?

「ハンデをあげるわ。一問でも私が負けたら失格でいい」

 先輩から、恐ろしい提案が飛んできた。

「ちょっと待って下さい! 本当にいいんですか?」

 予想外の事態に、僕もどうしていいか分からない。

 ギャラリーもザワついている。期待の声を上げる者、開いた口が塞がらない者と様々だ。
 
「どう? ちょうどいいハンデだと思うんだけど」
「オイラ達を馬鹿にしてるのか?」

 のんが声を荒らげた。

「ウチらは全然構わないよ。プライドが許さないけど」
「湊は、悔しくないのか?」

 興奮するのんを、やなせ姉がなだめる。

「そりゃあね。でも正直、こうでもしないと勝てる気がしない」

 湊が素直な意見を言う。
 
「分かりました。先輩は一問でも間違えると失格です。よろしいですね」

 僕が確認を取ると、先輩は頷いただけで腰に手を当てた。
 足首を回して柔軟運動を始める。

「では参りましょう! 泥んこクイズ、スタートです!」

 今、クイズ研の未来を決める一戦が、幕を開けた。
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