おっさんとJKが、路地裏の大衆食堂で食べるだけ

椎名 富比路

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第五章 再会と恋の始まりとJK

第74話 思わぬ再会問題

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 孝明は、琴子をブティックへと連れて行った。

 ドレス姿になった琴子は、まさしく女優と呼んでも差し支えない。
 わずかに化粧まで施すと、ただでさえ整った顔立ちがより美しさを増す。

「すごく似合ってる。キレイだ」

 心からそう思う。これだけの美貌でJKというのだから、シャレにならない。
 女優の娘という次元を超えていた。
 琴子の美しさは、琴子から滲み出ているのだ。

「ありがと。コメくんもカッコイイね」

「お、おう。サンキュ、な」

「何照れてるの? ウケル」
「うっせ、緊張してるんだよ」

 自身も、スーツに着替えている。ここまでめかし込むのは、友人の結婚式以来だろうか。
 それでも、こんなに身ぎれいにはしなかったはずである。

「でも、お金大丈夫なの?」
「平気平気」

 金銭面は全然、問題ない。蓄えはある。
 使い道がなくて余っているくらいだった。
 琴子のために使うなら、ちっとも痛くない。


「ちょっと今日は、趣向を変えるぞ」
「どこへ行くの?」
「オシャレなとこだ」

 車のエンジンを掛けようとして、街頭TVに目が写った。
 テレビの特番をするようである。そこに見覚えのある顔が。

「あっ、コトコト、見ろよ、あいつだ」

 映画の宣伝だった。
 フランスを舞台に、年下の男性と不倫して苦悩する女性の悲恋を描くという。
 

 その主演が、例の『大学を出て芸人になった男』なのだ。


「あいつ、見た目だけはよかったからな。ワイルドキャラをイケメン方面に振ったか。頭もいいから、いい演技すると思うぜ。いやぁ、すげえなあいつ」

 ずっと売れていなかった友の大出世が、自分のことのようにうれしい。腕を組んで、孝明は感慨にふけっていた。

 しかし、相手役の女優を見て、琴子の表情が曇る。

実栗みくり 真琴まこと、緊急帰国! アメリカに活動の場を移した実栗真琴さんが、新作映画を宣伝するため来日! 初の食レポに挑戦します! 乞うご期待!』

 画面に、実栗真琴という名の女優が写った。二〇年後の琴子を思わせる。
 化粧をした琴子は、まさに実栗真琴の生き写しと言っても差し支えない。

「すまん、コトコト」
 気まずくなって、孝明は琴子に詫びた。

「なんで謝るの?」
「いや、だって、あの人」

「関係ないよ。あの人は女優さん。それでいいじゃん」
 ケロッとした顔で、琴子は母親のことをそう語る。
「行こう、コメくん」
 孝明に振り返った琴子は、不機嫌さを少しも見せない。平静を装っている。

「おう、驚くなよー。今日はスカイレストランでディナーだからな」

「わーお!」
 つい先ほどまでムスッとしていたお姫様が、もう笑顔になっていた。
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