また、推しが結婚した

椎名 富比路

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タイトル:ご報告

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 ファンの皆様へ……

 二○○一年 △月 □日

 この度、声優の「×× ちさと」は、かねてから交際しておりました一般男性と、ゴールインすることに致しました。
 ファンの皆様、今後とも応援を――

 
             ◇ * ◇ * ◇ * ◇

「ぎゃあああああああああああああ! ちさとちゃあああああん!」
 
 オレは悶絶する。

 また、推しが結婚してしまった。

「いやああああああああああ!」

 カーペットの上をグルグルと回りながら、悲しみに身もだえる。

 
 推しロス! またしても推しをロス!


 最初の推しは、同業者の男性と長い交際期間の後、結婚した。
 で、あの子を推せば同業者とデキ婚!
 今の推しに至っては、一般男性と結婚したっていうじゃん!


 
 誰よ! 一般男性って誰よ! 
 どうやったら声優と結婚できる一般男性になれるのよ!
 オレらファンからしたら、それが永遠の謎なんだ!


 
 別にいいんだよ! 結婚自体は。
 カワイイお子さんも産むだろう。幸せな家庭を築けばいい。
 少子化にも貢献している。

 それにさ、オレが好きになるアイドルとか声優って、離婚しねえの!
 ずーっと幸せなままなの!
 炎上しねえの!

 相手の男性の方が、きっと彼女を幸せにしてくれるだろうよ。

 
 それが「オレじゃねえ」ってだけなんだよおおおおおお!
 何よりも、それが辛いよおおおおおおっ!
 

 コンビニ行こう。今日は酒を飲もう。飲めないけど、気分転換したい。

「いらっしゃいませー」

 店員の少女が、無関心な声で頭を下げる。
 お気になさらず。オレに使う気はガキとかに振る舞ってどうぞ。

 酒を物色していると……。
 
「な、なんですか!?」

 店員の女性が、軽く悲鳴を上げた。

 客が、店員の手を掴んでいるじゃないか。やべえ!
 
「はあはあ、きききみいい、バーチャル配信者の、『デスマスク洋子』ちゃんの中の人だよね?」

 見た目はフッツーのサラリーマン風なのに、なんだこの異様な殺気は。
 こいつは危険人物だ。オレの脳が即座に察知した。
 
「ひい! ひひ、人違いです!」

「うそだ。配信事務所から後をつけたんだから間違いない。ボクさ、君の所の機材を取り扱っているから、わかるんだ! ききき、キミは、デスマスク洋子ちゃんだ!」

 キモ! ああはなりたくないな!



「放して! 放せキモいんだよ!」


 半狂乱になりながら、店員さんは抵抗する。

 
「えええ、エッチなセリフをひと言しゃべってくれるだけでいいんだ。そしたら、おおおおとなしく帰るからグヘヘ」
 
 
「放してやれよ嫌がってンだろうがこの認知厨が!」


 キモリーマンの脇腹に、オレはドロップキックを食らわせた。
 オレはレスラーなのだ。

 
 不法侵入して「せめてお顔だけでも」とか論外!
 ファンの風上にも置けない。ファンを名乗る資格なんてねえから!
 
「テメエみてえなヤツがファンの質を落とすから、オレらみたいな健全なヤツでさえ白い目で見られるんだよ! 死んじまえ!」

 ぶしつけな自称ファンに、オレはアイアンクローを喰らわせる。

「警察です! 手を放しなさい!」


 警官《レフェリー》のストップが入り、あとは任せることにした。

「おケガは?」

 手を払って、オレは店員の女性に声をかける。

 なぜか女性は、顔を赤らめていた。

「ありません! あの、覆面レスラーの『グレート・アマビエ』さんですよね?」
 

「いえ。なんでも」

 オレが答えあぐねていると、腰からポトッとマスクを落としてしまう。

 そのマスクを見て、店員が限界化した。

「やっぱりそうですよね! 見覚えあったんですよさっきのアイアンクロー! 手相見て分かったもん! 握手会のときに確認したんで!」

 手相まで覚えられていたのか!


「わたし、グレート・アマビエのファンで、この近くに住んでるって聞いてここでバイトし始めたんですよ! まさか、本当に本人に会えるなんて!」
 
「きょ、恐縮です……」
  
「あああのあの、もしよろしければ……」



           ◇ * ◇ * ◇ * ◇


 ご報告
 

 この度わたくしグレート・アマビエは、かねてより交際しておりましたバーチャル配信者の『デスマスク洋子』さんと、ゴールインすることになりました。


           ◇ * ◇ * ◇ * ◇
 


 今日も、誰かの悲鳴が轟いた……。
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