1 / 1
タイトル:ご報告
しおりを挟む
ファンの皆様へ……
二○○一年 △月 □日
この度、声優の「×× ちさと」は、かねてから交際しておりました一般男性と、ゴールインすることに致しました。
ファンの皆様、今後とも応援を――
◇ * ◇ * ◇ * ◇
「ぎゃあああああああああああああ! ちさとちゃあああああん!」
オレは悶絶する。
また、推しが結婚してしまった。
「いやああああああああああ!」
カーペットの上をグルグルと回りながら、悲しみに身もだえる。
推しロス! またしても推しをロス!
最初の推しは、同業者の男性と長い交際期間の後、結婚した。
で、あの子を推せば同業者とデキ婚!
今の推しに至っては、一般男性と結婚したっていうじゃん!
誰よ! 一般男性って誰よ!
どうやったら声優と結婚できる一般男性になれるのよ!
オレらファンからしたら、それが永遠の謎なんだ!
別にいいんだよ! 結婚自体は。
カワイイお子さんも産むだろう。幸せな家庭を築けばいい。
少子化にも貢献している。
それにさ、オレが好きになるアイドルとか声優って、離婚しねえの!
ずーっと幸せなままなの!
炎上しねえの!
相手の男性の方が、きっと彼女を幸せにしてくれるだろうよ。
それが「オレじゃねえ」ってだけなんだよおおおおおお!
何よりも、それが辛いよおおおおおおっ!
コンビニ行こう。今日は酒を飲もう。飲めないけど、気分転換したい。
「いらっしゃいませー」
店員の少女が、無関心な声で頭を下げる。
お気になさらず。オレに使う気はガキとかに振る舞ってどうぞ。
酒を物色していると……。
「な、なんですか!?」
店員の女性が、軽く悲鳴を上げた。
客が、店員の手を掴んでいるじゃないか。やべえ!
「はあはあ、きききみいい、バーチャル配信者の、『デスマスク洋子』ちゃんの中の人だよね?」
見た目はフッツーのサラリーマン風なのに、なんだこの異様な殺気は。
こいつは危険人物だ。オレの脳が即座に察知した。
「ひい! ひひ、人違いです!」
「うそだ。配信事務所から後をつけたんだから間違いない。ボクさ、君の所の機材を取り扱っているから、わかるんだ! ききき、キミは、デスマスク洋子ちゃんだ!」
キモ! ああはなりたくないな!
「放して! 放せキモいんだよ!」
半狂乱になりながら、店員さんは抵抗する。
「えええ、エッチなセリフをひと言しゃべってくれるだけでいいんだ。そしたら、おおおおとなしく帰るからグヘヘ」
「放してやれよ嫌がってンだろうがこの認知厨が!」
キモリーマンの脇腹に、オレはドロップキックを食らわせた。
オレはレスラーなのだ。
不法侵入して「せめてお顔だけでも」とか論外!
ファンの風上にも置けない。ファンを名乗る資格なんてねえから!
「テメエみてえなヤツがファンの質を落とすから、オレらみたいな健全なヤツでさえ白い目で見られるんだよ! 死んじまえ!」
ぶしつけな自称ファンに、オレはアイアンクローを喰らわせる。
「警察です! 手を放しなさい!」
警官《レフェリー》のストップが入り、あとは任せることにした。
「おケガは?」
手を払って、オレは店員の女性に声をかける。
なぜか女性は、顔を赤らめていた。
「ありません! あの、覆面レスラーの『グレート・アマビエ』さんですよね?」
「いえ。なんでも」
オレが答えあぐねていると、腰からポトッとマスクを落としてしまう。
そのマスクを見て、店員が限界化した。
「やっぱりそうですよね! 見覚えあったんですよさっきのアイアンクロー! 手相見て分かったもん! 握手会のときに確認したんで!」
手相まで覚えられていたのか!
「わたし、グレート・アマビエのファンで、この近くに住んでるって聞いてここでバイトし始めたんですよ! まさか、本当に本人に会えるなんて!」
「きょ、恐縮です……」
「あああのあの、もしよろしければ……」
◇ * ◇ * ◇ * ◇
ご報告
この度わたくしグレート・アマビエは、かねてより交際しておりましたバーチャル配信者の『デスマスク洋子』さんと、ゴールインすることになりました。
◇ * ◇ * ◇ * ◇
今日も、誰かの悲鳴が轟いた……。
二○○一年 △月 □日
この度、声優の「×× ちさと」は、かねてから交際しておりました一般男性と、ゴールインすることに致しました。
ファンの皆様、今後とも応援を――
◇ * ◇ * ◇ * ◇
「ぎゃあああああああああああああ! ちさとちゃあああああん!」
オレは悶絶する。
また、推しが結婚してしまった。
「いやああああああああああ!」
カーペットの上をグルグルと回りながら、悲しみに身もだえる。
推しロス! またしても推しをロス!
最初の推しは、同業者の男性と長い交際期間の後、結婚した。
で、あの子を推せば同業者とデキ婚!
今の推しに至っては、一般男性と結婚したっていうじゃん!
誰よ! 一般男性って誰よ!
どうやったら声優と結婚できる一般男性になれるのよ!
オレらファンからしたら、それが永遠の謎なんだ!
別にいいんだよ! 結婚自体は。
カワイイお子さんも産むだろう。幸せな家庭を築けばいい。
少子化にも貢献している。
それにさ、オレが好きになるアイドルとか声優って、離婚しねえの!
ずーっと幸せなままなの!
炎上しねえの!
相手の男性の方が、きっと彼女を幸せにしてくれるだろうよ。
それが「オレじゃねえ」ってだけなんだよおおおおおお!
何よりも、それが辛いよおおおおおおっ!
コンビニ行こう。今日は酒を飲もう。飲めないけど、気分転換したい。
「いらっしゃいませー」
店員の少女が、無関心な声で頭を下げる。
お気になさらず。オレに使う気はガキとかに振る舞ってどうぞ。
酒を物色していると……。
「な、なんですか!?」
店員の女性が、軽く悲鳴を上げた。
客が、店員の手を掴んでいるじゃないか。やべえ!
「はあはあ、きききみいい、バーチャル配信者の、『デスマスク洋子』ちゃんの中の人だよね?」
見た目はフッツーのサラリーマン風なのに、なんだこの異様な殺気は。
こいつは危険人物だ。オレの脳が即座に察知した。
「ひい! ひひ、人違いです!」
「うそだ。配信事務所から後をつけたんだから間違いない。ボクさ、君の所の機材を取り扱っているから、わかるんだ! ききき、キミは、デスマスク洋子ちゃんだ!」
キモ! ああはなりたくないな!
「放して! 放せキモいんだよ!」
半狂乱になりながら、店員さんは抵抗する。
「えええ、エッチなセリフをひと言しゃべってくれるだけでいいんだ。そしたら、おおおおとなしく帰るからグヘヘ」
「放してやれよ嫌がってンだろうがこの認知厨が!」
キモリーマンの脇腹に、オレはドロップキックを食らわせた。
オレはレスラーなのだ。
不法侵入して「せめてお顔だけでも」とか論外!
ファンの風上にも置けない。ファンを名乗る資格なんてねえから!
「テメエみてえなヤツがファンの質を落とすから、オレらみたいな健全なヤツでさえ白い目で見られるんだよ! 死んじまえ!」
ぶしつけな自称ファンに、オレはアイアンクローを喰らわせる。
「警察です! 手を放しなさい!」
警官《レフェリー》のストップが入り、あとは任せることにした。
「おケガは?」
手を払って、オレは店員の女性に声をかける。
なぜか女性は、顔を赤らめていた。
「ありません! あの、覆面レスラーの『グレート・アマビエ』さんですよね?」
「いえ。なんでも」
オレが答えあぐねていると、腰からポトッとマスクを落としてしまう。
そのマスクを見て、店員が限界化した。
「やっぱりそうですよね! 見覚えあったんですよさっきのアイアンクロー! 手相見て分かったもん! 握手会のときに確認したんで!」
手相まで覚えられていたのか!
「わたし、グレート・アマビエのファンで、この近くに住んでるって聞いてここでバイトし始めたんですよ! まさか、本当に本人に会えるなんて!」
「きょ、恐縮です……」
「あああのあの、もしよろしければ……」
◇ * ◇ * ◇ * ◇
ご報告
この度わたくしグレート・アマビエは、かねてより交際しておりましたバーチャル配信者の『デスマスク洋子』さんと、ゴールインすることになりました。
◇ * ◇ * ◇ * ◇
今日も、誰かの悲鳴が轟いた……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる