7 / 15
第二章 それぞれの引越し
第7話 新婚さんの場合
しおりを挟む
今日は、新婚さんのお引越しを手伝う。
おしゃれな街並みの長屋で、瓦のカラーも統一されている。
「ふわああ。これ、旧ベスピルート商店街だ」
「どんなところなの、アンパロ?」
「大昔の商店街を、民家として解放したんだよ」
ベスピルートという会社が、商人に家を貸し出していた。
工場ができた上に、もっと条件のいい大型商店もできている。そのため、この商店街は寂れる予定だった。
だが、こちらに移り住んだ労働者たちが貸してほしいと願い出る。
そこから、べスピルートは店だった家を貸し出したのだ。
商店だったから頑丈でシャレた外観のため、この家屋郡は人気である。数百年経った今でも、ベスピルートを借りたい人が後を絶たない。
「天井の瓦は、防火の魔法が施されていて、延焼を防ぐの。ここは、子供のいる新居にピッタリだよ」
「やっぱり詳しいね、アンパロは」
「知ってることしか知らないよ」
祖父、というか実の父の受売りだ。
「よろしくおねがいします」
引っ越しのマカイを利用したのは、若いカップルである。荷物は少ないが、奥さんが身重なために作業ができない。
「ゆっくりしとってください。何かあったら指示してくれはったら」
「お願いしますね」
奥さんがリビングのチェアに腰を下ろした。旦那さんは、ずっと側についている。
「ムーファン、そっち手伝って」
「はーい」
長細いソファを片方持ってもらい、リビングへ置く。
難関は、ダブルベッドだ。部屋は狭いのだが、ベッドは大きい。三人がかりで、わっせわっせと運ぶ。
「魔法で小さくするんも可能なんやが、破けてしまうんや」
質量を操作するため、どうしても小さい傷ができてしまう。社長の魔法も、便利で万能ってわけではない。この間も、せっかく買った塊肉がグニャグニャになった。社長が横着して、牛を一頭買いなんかしたからだ。
あとはベビーベッドを設置して、寝室は完了である。
洗濯場・お風呂場の洗剤も、自然由来のものが多い。
「どうもありがとうございます」
ご夫婦は、あいさつに来た隣近所の人と談笑している。出産を気遣ってくれているようだ。
邪魔にならないように、私たちは裏口を利用して荷物を運び込む。
「予定日はいつごろなんです」
小物類を棚に置きつつ、私は旦那さんに尋ねた。
「もうすぐだそうで、病院が近いここを選んだんですよ」
「なるほどー」
と、私たちが話していると、奥さんが急にうずくまった。床がビショビショに濡れる。
「あかん、破水や! 産まれるで!」
そんな! なんの準備もしていないのに!
「お医者さんへ」
「もう間に合わん! 旦那さんは、手を握ったって!」
私たちは、奥さんを床に寝かせた。
旦那さんはずっと、奥さんの手を握る。
こんなとき、女衆は機敏だ。なにをすべきかすぐに察知し、対処する。
「桶、借りるわよ!」
「井戸から水を組んで、温めて!」
「シーツがあったら、持ってきてくれる?」
ご近所の主婦たちに指示されて、私たちはパパパっと動く。
「医者を呼んできたわ!」
「わたしゃ、助産婦の経験があるから、付き添ってやるゾイ」
出産の瞬間まで、私たちはぜえぜえ言いながら仕事をしていた。
私たちは、床を磨いている。旦那さんがやると言ってくれたが、奥さんのそばにいてもらった。
こういう後片付けは、一番役に立たなかった私たちがすべきだ。
「ありがとうございます。みなさんのおかげで、無事子どもが元気に産まれました」
お盆を持った旦那さんが、お礼を言いに来る。
「私たちは、なにも」
こういうとき、独り者って弱いな。
結婚どころか恋愛経験もないため、何もしてあげられない。
「ステキなおうちに、してくれたじゃないですか」
旦那さんが、テーブルに人数分のコーヒーカップを並べる。
「みなさんのちからがあったからこそ、妻も出産できてボクも子どもに出会えた。感謝の言葉もありません」
にこやかに、旦那さんが礼を述べた。
帰りの馬車の中でも、私は考え事をする。
「どないした、アンパロ。人恋しくなったんか?」
「いえ」
私は正直、家族づくりに積極的ではない。実家がひどかったから、憧れがないのだ。
「あの一家を見てると、家族も悪くないなって」
「せやな。家庭を持ちたいかどうかは、そんときになってから決めたらええ」
「でも、今は引っ越しのマカイが私の家族でいいかなって思ってます」
「さよかー。それはええこっちゃ」
おしゃれな街並みの長屋で、瓦のカラーも統一されている。
「ふわああ。これ、旧ベスピルート商店街だ」
「どんなところなの、アンパロ?」
「大昔の商店街を、民家として解放したんだよ」
ベスピルートという会社が、商人に家を貸し出していた。
工場ができた上に、もっと条件のいい大型商店もできている。そのため、この商店街は寂れる予定だった。
だが、こちらに移り住んだ労働者たちが貸してほしいと願い出る。
そこから、べスピルートは店だった家を貸し出したのだ。
商店だったから頑丈でシャレた外観のため、この家屋郡は人気である。数百年経った今でも、ベスピルートを借りたい人が後を絶たない。
「天井の瓦は、防火の魔法が施されていて、延焼を防ぐの。ここは、子供のいる新居にピッタリだよ」
「やっぱり詳しいね、アンパロは」
「知ってることしか知らないよ」
祖父、というか実の父の受売りだ。
「よろしくおねがいします」
引っ越しのマカイを利用したのは、若いカップルである。荷物は少ないが、奥さんが身重なために作業ができない。
「ゆっくりしとってください。何かあったら指示してくれはったら」
「お願いしますね」
奥さんがリビングのチェアに腰を下ろした。旦那さんは、ずっと側についている。
「ムーファン、そっち手伝って」
「はーい」
長細いソファを片方持ってもらい、リビングへ置く。
難関は、ダブルベッドだ。部屋は狭いのだが、ベッドは大きい。三人がかりで、わっせわっせと運ぶ。
「魔法で小さくするんも可能なんやが、破けてしまうんや」
質量を操作するため、どうしても小さい傷ができてしまう。社長の魔法も、便利で万能ってわけではない。この間も、せっかく買った塊肉がグニャグニャになった。社長が横着して、牛を一頭買いなんかしたからだ。
あとはベビーベッドを設置して、寝室は完了である。
洗濯場・お風呂場の洗剤も、自然由来のものが多い。
「どうもありがとうございます」
ご夫婦は、あいさつに来た隣近所の人と談笑している。出産を気遣ってくれているようだ。
邪魔にならないように、私たちは裏口を利用して荷物を運び込む。
「予定日はいつごろなんです」
小物類を棚に置きつつ、私は旦那さんに尋ねた。
「もうすぐだそうで、病院が近いここを選んだんですよ」
「なるほどー」
と、私たちが話していると、奥さんが急にうずくまった。床がビショビショに濡れる。
「あかん、破水や! 産まれるで!」
そんな! なんの準備もしていないのに!
「お医者さんへ」
「もう間に合わん! 旦那さんは、手を握ったって!」
私たちは、奥さんを床に寝かせた。
旦那さんはずっと、奥さんの手を握る。
こんなとき、女衆は機敏だ。なにをすべきかすぐに察知し、対処する。
「桶、借りるわよ!」
「井戸から水を組んで、温めて!」
「シーツがあったら、持ってきてくれる?」
ご近所の主婦たちに指示されて、私たちはパパパっと動く。
「医者を呼んできたわ!」
「わたしゃ、助産婦の経験があるから、付き添ってやるゾイ」
出産の瞬間まで、私たちはぜえぜえ言いながら仕事をしていた。
私たちは、床を磨いている。旦那さんがやると言ってくれたが、奥さんのそばにいてもらった。
こういう後片付けは、一番役に立たなかった私たちがすべきだ。
「ありがとうございます。みなさんのおかげで、無事子どもが元気に産まれました」
お盆を持った旦那さんが、お礼を言いに来る。
「私たちは、なにも」
こういうとき、独り者って弱いな。
結婚どころか恋愛経験もないため、何もしてあげられない。
「ステキなおうちに、してくれたじゃないですか」
旦那さんが、テーブルに人数分のコーヒーカップを並べる。
「みなさんのちからがあったからこそ、妻も出産できてボクも子どもに出会えた。感謝の言葉もありません」
にこやかに、旦那さんが礼を述べた。
帰りの馬車の中でも、私は考え事をする。
「どないした、アンパロ。人恋しくなったんか?」
「いえ」
私は正直、家族づくりに積極的ではない。実家がひどかったから、憧れがないのだ。
「あの一家を見てると、家族も悪くないなって」
「せやな。家庭を持ちたいかどうかは、そんときになってから決めたらええ」
「でも、今は引っ越しのマカイが私の家族でいいかなって思ってます」
「さよかー。それはええこっちゃ」
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる