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第二章 発足、百合テロ同好会

生徒会 VS 百合テロリスト

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 オレは生徒会に、活動報告書を提出した。

 生徒会長は三年生の女子で、オレが王子だろうとソフィが姫だろうとたじろがない。
 さすが、本校校長の娘だ。

 校長は、理事長であるオレのオフクロとの親交も厚い。

 これは勝ったな。風呂入ってくる。

「ダメです」
「なああああああああ!?」

 あろうことか。生徒会長から、NOを突きつけられる。

「なんだと! バカな!」
 オレは、会長の机をバンと叩いた。

「ちゃんと五人、メンバーを揃えてある! 規定人数だぞ! 部として、申し分ないはずだ!」

「確かに、人は足りていますね。ですが、人数がいるとはいえ、部としては認められません」
 これだけ頼んでも、生徒会長は首を縦に振らない。

「この通りだ。部として認めてくれんか?」
 机に、オレは額をこすりつける。

「頭を上げてください、王子。たとえ王子と言えど、あなたを特別扱いするわけには参りませんので」

 顔を上げると、生徒会長は困り顔でこちらを見ていた。

「圧力か? なにか、圧力が掛かっていると?」
 ならば、お安いご用である。
 誰にケンカを売ったか思い知らせるまで。

「オヤジだな! ことごとくオレのやることを邪魔しやがって! ヤロウぶっ殺してやぁる!」

「おやめください。国王が死んで解決する問題ではありませんよ!」
 生徒会長がオレをなだめる。

「止めるな生徒会長。オレは大丈夫だ。今回の件とは関係ないから、オヤジをぶっ殺してくる!」

「国王をぶっ殺したら、国際問題に発展します!」
 オレの拘束を解いて、生徒会長が改めてオレの前に立った。

「だが、オヤジのせいなんだろ?」

「違います! ですから、話を聞いてくださるかしら?」
 両手でオレからガードしながら、生徒会長が首をブンブンと振る。

「やっぱ、欠点があったか?」
 提案者のトーモスが、苦笑いした。

「活動内容自体は、問題ないのですよねぇ……ただ、二点だけ」
 会長に反し、副会長は穏やかに話を進めていく。

 モグ家にだけ利益があるように見えるが、紅茶部を潰すほどの影響はない。特に問題なしだという。

「食レポだけでは、部費が大変だと?」
 料理を毎回食べるのはさすがに、ハードルが高いのでは?

「活動費なら、こちらで出すぞ。請求はしない」

 誰にも邪魔をされない、部室が欲しいだけなので。

「そうではありません。校外活動がメインというのが、ネックでして。それが一点」

 校内でできることをやれ、と。

「実績さえあれば、それで構いません」
「他の学校と、競う要素が必要か?」
「そうではなく、校内で活動していますよ、という状態が欲しいですね。例えば、料理をおいしそうに見せるイラストなどを、校内に貼り出すとか」

 副部長のアドバイスに、ソフィが手をあげる。

「それなら私が適任だわ。絵は得意よ」
「本当か?」
「ロビーの掲示板で表彰されていたでしょ? 知らないの?」

 美術は、専門外だ。
 そういえば天井にデカデカと、小さな天使の群衆が羽ばたいていたっけ。

「ああ、あの気持ち悪い天使の絵か」

「その天井画を描いたの、私なんですけど?」
 腰に手を当てて、ソフィが背を仰け反らせた。
「なによ、ご不満なわけ? 少なくとも、美的センスはあなたより上のはずだけど」

「大ありだ」

 たしかに、オレの美術レベルは低い。
 ネコを描いたら「クマですか?」と言われたくらいには。

「なぜ、あの天使共は局部が丸出しなのだ? いくら少年っぽく描いているとはいえ、少々情感が籠もりすぎている気がするのだが?」

 どういうわけか、ソフィの顔がみるみる朱に染まる。

「あああ、あれは! 天使って、そういうものなの! わかる! 子どもは天使なの!」

「重ねて聞くが、どうして少年だけなのだ?」
「きききききききき気のせいよ気のせい!」

 オレが尋ねると、ソフィが顔を真っ赤にして弁解した。

 少女がいてもいい気がするが。
 むしろ百合の香りがしないから、スルーしていた。
 今後もスルーでいいだろう。

「ソフィ様の絵画なら、皆さんも認めてくださるでしょう」
「なるほど、よかったな。お前の絵心が生徒会を動かしたぞ。見事だ」

 これで、校内活動に関しての問題は解決した。

「だったら」

「それでも、ダメなんです。もう一点の問題があります」
 温厚な副会長が、今にも泣きそうな顔で頭を下げる。

「では、何がいけないというのだ?」


「担当してくれる顧問がいません」
 ようやく、生徒会長が口を開く。


 部が増えると、責任者として先生も動く必要がある。
 そのため、教師たちの間にも不満が噴出したという。
 クラブを減らす活動も、教員の負担を軽減する意味があったらしい。

「部の統合活動は、生徒会主導ではなく、先生方によるモノなので」

「ルビー組の副担任が、いるではないか」

 そういえば、今日は顔を見ていない。

「しばらくお休みしたいと、先生はおっしゃっています」
「理由は?」
「産休だそうです」

 そんなはずはない。オレは首をかしげた。

「どうしてだ? 副担任は男だろ。産休など」

「育児休暇をいただきたいと、職員室に申請があったそうで」

 副担任の夫婦は共働きらしく、妻が出産後も働きたいと言い出したとか。

 そうか。最近は男性も育児するもんな。

「あの先生は、奥様の方が稼ぐらしくて」
 副会長の話を聞いてから、トーモスに事情を聞く。
「副担の奥さんって、うちが雇ってるんだよ。系列会社の社長」

 なるほど理解できる。公務員が育児に励むわけだ。

「とにかく、顧問がいなければ部として成立しません。いいですね?」

 頼りの副担任が、いなくなってしまった。

 誰かいないか。
 適当にヒマで、適度に面倒を見てくれる都合のいい人物など。

「知らないな」
「では、ムリです。お引き取りを」
「せめて、部屋だけでも貸し出せないか? なんなら、倉庫でも構わない」

「正直、難しいです。最近、魔族がこの街に潜伏しているという物騒なウワサが蔓延しておりまして」

 そのため、長時間の部活動は控えるように、各部長に伝えているという。

「あまりひどいようでしたら、既存の部にも活動自粛を要請することがあるやもしれませんね」

「生徒会長も、難しい立場だと?」

「はい。ところで、どうして部室がご入り用なのです? 集まるだけなら、お屋敷でも構わないのでは?」

 生徒会長の意見も一理ある。

「王子が実に複雑なご事情なのは、お察しします。ですが、ただ集まりたいために空き教室をくれと言われて、はいどうぞ、というわけにはいきません」

 痛いところを突く。こちらの事情を察知しているのか?

「とにかく、空き教室の件は……」

 けたたましく、アラームが発動した。

「何事です! 副会長、状況確認!」

「はい。ただちにっ!」
 アンティーク調の固定電話で、副会長が外部に繋ぐ。

「大変です。女子生徒の一人が暴れている、との報告が!」

 きっと、魔族の仕業だ。

 オレは、ソフィとツンディーリアをうなずき合う。

「どこへ行くのです?」
 外へ出ようとするオレたちを、生徒会長が止めた。

「悪霊退治だ!」
「なりません! 生徒を守るのが生徒会の義務です」
「お前たちでは歯が立たん!」

 これまでの戦いでも、敵は相当に強い。生徒会がどれだけ戦闘力があるのか知らんが、生徒の安全を優先してくれれば。

 いくら説明しても、生徒会長は道を空けてくれなかった。

「王子危険です! 特にあなたは真っ先に逃げてもらわねば!」
「市民を置いて逃亡する領主が、どこにいる!? 王子は替えが効くが、国民は違う!」

 そんなヤツに、国を守る資格はない。

「失礼する! 生徒会は教師と連携して、生徒の安全を!」

 オレは強引に、道を切り開く。
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