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第二章 発足、百合テロ同好会

社会人百合担当、新任教師メイディア

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「おはようございまぁす。今日は、新しい副担任の先生がお見えになっていますよぉ」

 朝のHR にて、メイディルクスのお披露目が行われた。

「まいど。メイディアですねん。教科は体育ですわ」

 てっきりソフィは気づくと思っていたが、兆候が見られない。
 メイの衣装には、認識阻害の機能まで付いているそうだ。

「そうですね。一限目はちょうど体育ですので、お手並み拝見としましょぉ」

 はあ、と、ポロリーヌ先生がため息をつく。
 肩の荷が下りた、とでも言いたげに。

「わたしだと生徒のみなさんの威力を押さえるのが精一杯でしたので、助かりますぅ」
「大変でしたな。ほな生徒のみんな、早く着替えや」

 実は、ポロリーヌ先生の専門は体育ではない。
「保健」なのだ。
 つまり、人体についてなら専門的である。

 運動などは、マラソンで生徒に負けるほど。
 激しいトレーニングは、現在育休中の副担任が担当したいた。

 結果、実務ができる教員が待たれたのだが、問題が起きる。

 理事長であるオレの母が、名乗り出てきたのだ。
 厳密には「しゃしゃり出て」きた。
「久しぶりに身体を動かしたい」と言い出したので、職員総出で止めていたのである。
 もし王妃が教鞭を執ろうモノなら、この学園が焦土に変わっていただろう。

 そんなトラブルがあった中、ようやく教員の枠が埋まったのである。


 全員がグラウンドに集合した。

「よっしゃ。集まったな」

 なぜか、メイディアは既にジャージ姿だ。
 いつの間に着替えたのか。

「ほな、ソフィさんとツンディーリアさんやったか? 二人とも前へ」
 指名を受けて、二人は首をかしげた。
 しかし、すぐに思い直して前に出る。

「すごい戦闘をやったらしいやん。ウチを的にして、見せてもらえるか?」

 えっ、と二人が同時に声を上げた。

「ご冗談を。校舎のバリアでもヒビが入ったのに」
「グラウンドを壊しかけて、反省文を書かされました」

 ソフィもツンディーリアも、メイディアに技を放つことをためらう。


「ウチをなめてんのか?」
 腕を組みながら、メイディアは構えすら取らない。


「あんたらはこの学園内でも有数の家系や! せやのに、得体の知れん新任教師が来たくらいで日和るんか?」

「そこまで言われては、ミケーリの名が廃れます! では! たあああ!」
 挑発されたツンディーリアが、飛び上がった。
 小さなステッキを杖へと変形させ、黄色い火球を撃ち込む。

「せや。殺すつもりで来んかい!」

 ホントに殺人級のブレスを、ツンディーリアはメイディアに放出した。

 だが、メイディアは渾身の特大火球を、ただのレシーブで弾き飛ばしてしまう。

 
 真上に飛んだ火球は、花火となって散った。


「そんな! 全力で撃ち込んだのですよ!?」
「たしかに、重みはあった。受け流せへんかったら危なかったな。せやけど、トロいし直線的すぎる。これでは、魔族が相手になったとしても、一発も当たらんやろな」

 実際に、そうだ。ツンディーリアは、攻撃を回避されている。

「理由は一つ。あんた、戦闘をめんどくさがってへんか?」

 思い当たる節がないのか、ツンディーリアは眉間にシワを寄せたまま硬直した。

「無意識か。厄介やで。あんたは戦闘を、無意識に避けてんねん。せやからぜーんぶ大振り。大火力で一網打尽にしようと、コントロールもしてへん」

 オレが彼女に対して思っていたことを、全て言い当てる。
 たしかに、ツンディーリアは手っ取りバトルを早く終わらせようとしたがっていた。

「当たっていますわ!」

「やろ? 人に言われてやっと気づいたか。おそらく今まで通用してたんは、ここの生徒だけやろうな。それか、忖度されてたか」

 取り巻きたちが、目をそらす。そうだったのか。

「対策は、もっとコンパクトな技を考えつくこと。他のみんなもやで。力でねじ伏せようとしてる生徒は特に聞いときや!」

 腰に手を当てて、メイディアは生徒たちに檄を飛ばす。

「次はアンタや」
 腕を伸ばし、メイディアがソフィを手招きをする。

 ソフィが、ステッキと柄へと変形させた。
 光線型の刃【桜花斬】を展開する。
 豪腕タイプのツンディーリアと違って、的確に相手の死角を狙う。

 なのに、ソフィの鋭利な攻撃も、メイディアはことごとく受け流した。しかも、手の甲だけで。

 シュ、と、ソフィの顔面の手前に拳が止まった。

 一本を取られ、呆気にとられる。

「いつの間に、突きが飛んできたの?」
「見えてたのに、見てへんからや」

 そうだろうか。オレにも見えなかったのだけれど。

「あんた、ウチのフェイントの足を見てたやろ?」
「はいっ! よく見抜きましたね! できるだけ視線を動かさないようにしていたのに!」

 よく考えたら、オレも同じことを考えていた。
 毎回同じ手に乗るかと頭の片隅にあったことを、メイはひっくり返してくる。それも、毎朝だ。

「ツンディーリアさんは考えてなさ過ぎ。あんたは考えすぎ」
「もっと、もっと教えてください。メイディア先生!」
「よっしゃ。ウチは手加減せんから、ちゃんとついてきいや!」

 メイディアはものの数分で、その場にいる生徒のハートを掴んでしまった。

 さすが、先代国王に見初められた冒険者の娘である。見事な天然ジゴロぶりだ。

「こないなるから、断りたかってんけどな」

 声には出していなかったが、唇を読んで愚痴っているとわかった。
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