ゲームの世界に転移して、攻略不可だった最推し「勇者の妹」と旅に出る!

椎名 富比路

文字の大きさ
2 / 30
第一章 オレは、勇者の妹に恋をする。

第2話 追加要素《エンドコンテンツ》

しおりを挟む
 ミラベルは普段、おとなしめの少女である。
 かといって、完全おしとやかってわけでもない。
 前に出るときは、積極的になる。

 とはいえ、無鉄砲アクティブってわけじゃない。
 ちゃんと分別をわきまえ、兄を心配させないように、オレに相談してきたわけか。

 そこがまた愛おしくて、たまらない。

 まさに天使だ。
 
 
「ベップおじさん、どうしたの?」

「おっ。なんでもない」

 いかん。またキモい顔になっていたか。
 
 ここはゲーム世界って言っても、リアルなんだ。
 気を引き締めないと。

「さっき、冒険がしたいって言っていたよな?」
 
「そうなんだよ。ベップおじさんに、わたしのコーチをしてもらいたいの。わたしだって、街の人のために役立ちたいよ」
 
 
 ミラベルは、冒険者である兄の背中を、ずっと追いかけていた。
 勇者である兄に、あこがれを抱いているんだろう。
 魔物討伐で活躍する兄よりも、人助けをする兄を尊敬しているようだ。

 かっこいいからではなく、誰かの役に立ちたいと。
 
 ただ、おそらく勇者は許可しない。
 外は危険だからな。
 まだ、魔王を討伐できていないから。

「オレなら妹を守って、一緒に旅をするのに」って、どれだけ思っていたか。

 純粋にオレは、ミィと冒険がしたいって思っている。
 他のプレイヤーは、どう思っているか知らないが。

 でも、いいのか? ミラベルを旅に出しても。
 やっぱり、危険が伴うよな。
 オレで、守りきれるだろうか?

「オレの世界では、『自宅警備員』ってのがいてな。家を守るってのも、ちゃんとした仕事なんだ。家を守るってのは、それだけで尊かったりするぞ」

 さりげなく、自宅警護を推薦してみる。
 
「そうなの?」

「冒険者ばかりが、エラいってわけじゃない。キミのお母さんだって立派だろ?」

「うん。わたし、お母さん、大好きだよ!」
 
「それだけで、すばらしい」

 だからちょくちょく、勇者も帰ってくるわけだし。
 この家は、序盤の無料宿として、重宝する。といっても、後半以降は不思議な回復の泉で回復できるようになるから、立ち寄らなくなるけど。
 後半になると、ここは金銭や不用品の預かり所としても機能するようになる。
 全滅すると、所持金が半額になるし。
 
 外が危険なのは、確かだ。
 家にいるのが安全なのは、確証済みである。

 
 どうすっかなー?

 
「ん?」

 そう考えていると、オレの目の前にウインドウが立ち上がった。


追加要素エンドコンテンツ】と書かれている。


【エンドコンテンツ: 勇☆恋 外伝】

 我が世界における厳選なる審査の結果、あなたを特別に【勇☆恋】のリアル世界に招待しました。
 テストプレイをしていただきます。
 
 勇者の妹など、今まで攻略不可だったキャラを、攻略可能に。

 新たに攻略可能になったキャラで、勇者一行とは別のルートを楽しもう!


 
 なるほど。
 つまりオレは、サンプルプレイヤーなわけね。
 オレだけが、選ばれるとは。


 とはいえ、問題点もありそう。
 
[ただし本人含め、ゲーム内で死んだキャラは蘇生不可]か。


 勇者たちは神様から加護を受けているため、セーブポイントである教会から蘇生してやり直せる。
 しかし、妹は勇者じゃない。だから、蘇生の恩恵はない、と。
 所持金半分持ち越しも、アイテムや経験値の引き継ぎもなし。
 一度死んだら、最初からやり直すことすらできない。

 ハードコア……つまり、「死んだら終わり」ってわけだな。
 
 割と、慎重な行動を求められそうだ。
 ヒロインを大事にせよと、固く告げられているみたい。
 
 だから、オレだったんだろうな。
 他のプレイヤーなら、ムリに連れ出しそうだと判断したか。
 あるいは、ムチャ振りをさせるか。
 
 とまあ、オレが冒険を促さないと、始まらないってわけだ。

 じゃあ……。

「わかった。コーチしてやる」

「ありがとう! やっぱり、ベップおじさんに相談してよかった!」

「ただし、この街近辺だけだよ。それ以上先に行くと、強いモンスターがいるからね」

 このコンテンツは、比較的ユルめに難易度設定がされているようだ。
 勇者たちみたいに、死んだら教会に戻ってくるってわけじゃないみたいだし。
 うかつに死亡なんて、ありえない。
 
 このベップおじに、任せとけってんだ。

「装備品を買いに行こう」

「うん!」

 オレは所持金を確認し、装備品のショップへ。


「おう、ベップのダンナ。ミランダちゃんを連れているのか」

「こんにちはー。装備屋さん」

「今日もかわいいねえ」

 超絶清楚な外面ミランダを見て、装備品を売っているドワーフがフニャフニャになる。

 だよな。ミランダちゃんの笑顔は、国宝級だ。

 だからこそ、いいもので守ってやらんと。

「ミランダに似合う装備は、ないか? 女の子でも振り回せる武器や、身軽なヨロイなんかを手配してもらいたい」

「なんでえ、ミランダちゃんが冒険するのかい? 危ないぜ」

「オレも、そう言ったんだけどな。この街だって、平和ってわけじゃない。いつ、何が襲ってくるかわからん。だから、今のうちに自衛手段を、と思ってな」

 オレ一人で、ミランダを守りきれないかもしれない。
 よく考えたら、勇者はまだ魔王討伐をなし得ていないんだ。

 それまで、この街は魔王の送り込んだ魔物の脅威にさらされている。

「だよな! なら、とっておきのがあるぜ。ほらよ」

 ドワーフが、軽めの棍棒を、カウンターに置く。
 続けて、旅人用の外套を用意した。

「ソードマンの初期装備だ。木星の剣でもいいかなって思ったが、最初はこんなもんだろ」

 棍棒なら、あとで鉄製の先端を付けられる。
 斧を取り付けても、OKだ。
 魔法使いタイプになりたいなら、宝玉を付ければいい。

 外套は……ネコミミポンチョか。

「あんた、よくわかってんじゃねえか!」

「あたぼうよ! つってもよお、これを売りに来たのが、おっさんばっかのパーティでな。ドロップしたものの使い道がねえってんで、オイラのところに回ってきたわけよ」

「まさか、こんなところで運命の出会いをするとは!」

「だよなあ! ガハハ!」

 オレとドワーフ装備屋で、意気投合した。

 ミランダはその様子を、首を傾げてみている。

 おっと。オレだけ楽しんでいてはダメなんだ。

「冒険者登録に行くぞ」

 ドワーフのおっさんとは仲良くなれそうだな。


「気をつけるんだぜ」

「ありがとう。じゃあな」

 ギルドに向かうため、ドワーフおっさんと別れる。


 続いて、冒険者ギルドへ。

 といっても、さっきオレがいた酒場なんだが。

 どこぞの異世界転生ものみたいに、イキリ絡んでくる輩はいない。
 ミランダのかわいさが、そんな不敵なヤツラを遠ざけているのだ。
 みんな、かわいすぎるミランダを遠目で見ている。
 
 だよな。オレだって転移者じゃなかったら、あの中に混じっていたかもしれない。
 
「いらっしゃい。ミランダちゃん」

 エルフの受付嬢が、ミランダにあいさつをした。

「ミランダの冒険者登録を、願いたい」

 オレが言うと、受付嬢が驚く。

「まあ。ミランダちゃん、冒険者になりたいのね?」

 受付嬢に質問されて、ミランダは「うん」と答える。

「がんばってね」

 簡単な書類を作成て、晴れてミランダは冒険者デビューした。
 
「次は、ビルド構成だ」

「びるど?」
 
「どんなタイプの冒険者になりたいか、だな」

 前衛ならソードマン、後衛ならウィザードか、ソーサラーといった感じである。

「うーん。魔法少女!」

 そうくると思った。よくマンガを読んでるもんな。
 かわいすぎる。

「じゃあミランダは、バトルで勝つ系より、困った人を助ける系の冒険者になりたいんだな?」

「そうだね。どっちかっていうと、そっちかな」 
 
「よし。魔法少女なら、【バトルメイジ】狙いだな」

 ビルド構成的には、「近接戦闘もできる、魔法使い」となった。
 魔法使いの比重が高い。

 これで近接戦闘の比重を上げて「魔法も使える戦士」になると、「ニンジャ」になる。
 ニンジャ姿のミランダか。めちゃかわいすぎるな。ネコミミニンジャで、全然忍んでないんだよ。

「おじさん、どうしたの? やけに、ニヤニヤしてるけど」

「ああ、気のせいだ」

 オレは、依頼書を見るフリをした。
【薬草採取】か。最初のクエストとしては、いいじゃないか。

「よし。じゃあ、ステータスをどの割合で上げていくか、決めてもらう」

「はい。ベップおじさん」

「うーん。お兄ちゃんって言ってもらえないだろうか?」

 ゲームだと、すぐに言ってくれる。まあ、オレが「お兄ちゃん」を操作するわけだから、当然なんだが。

「えー? ミィのお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけだよ?」

 ミラベルが、首を傾げる。

 ですよねー。そこはブレないんだな。

 ミラベルは、兄と二人きりのときは、自分を「ミィ」と呼ぶ。
 兄にだけ見せる態度を見せてくれただけ、よしとするか。

 気を取り直して、ステータス振りの割合を決めることに。

「肉体に三割、魔力五割、敏捷性には二割、振ってみてくれ。これが【バトルメイジ】の基準値になる」
 
「はい」

 ステータス表を確認しながら、ミラベルがステータスを振る。
 レベルが上がると、この割合でステータスが上がっていくのだ。
 
 ちなみにオレは【ソーサラー】なので、肉体は二、魔法が五、敏捷性は三の割合で上げている。

 以前話した【ニンジャ】だと、肉体:三、魔法:三:敏捷性が四の割合だ。
【ウィザード】なんかは魔法ステータス割合が八で、『純魔』……純粋魔法使いとも呼ばれる。

「できたよ」

「よし」

 この割合はギルドカードを介して、ギルドに伝わった。



「さて、街の外に行って、魔物退治と行くか」

 さっき見つけた依頼書を手に、魔物討伐へ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...