ゲームの世界に転移して、攻略不可だった最推し「勇者の妹」と旅に出る!

椎名 富比路

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第二章 勇者の妹、王国の姫と仲良くなる。

第6話 もう一人の、攻略不可キャラ

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「ベップさんに、ミラベルさんね。助けてくださって、ありがとう。お茶をご用意するわ。ついてらして。ゼイビアック!」

「はっ」

 サクラーティが年老いた執事に、馬車の扉を開けさせる。

「ではどうぞ。お二方」

「ありがとう」 
 
 老執事に促され、オレたちは馬車に乗り込む。

「改めて。あたしはサクラーティ。みんなからは、サクラと呼ばれているわ。そう読んでちょうだい」
 
「ムーアクロフト王国の第二王女なんて、ホントにいたんだな」

 てっきり、設定だけだと思っていたぜ。

 彼女は、ゲーム内で攻略対象ではない。攻略できるのは、姉の方だ。
 ていうか第二王女なんて、ゲームには名前すら出てこない。姉が、「妹が」と、雑談の中で出てくるのみだ。

 サクラーティ姫は、ピンク髪を六つの縦ロールに結ぶという、独特の髪型をしている。
 まだ幼いらしく、背は小さい。
 歳を教えてくれたが、まだ一〇歳にも満たないとか。
 そりゃあ、攻略できんて。

「どういったご用件で、お城から出てきたの?」

 ミラベルが、臆せずサクラ姫に尋ねる。

「これから、果樹園に向かうの。ペイルの実は、我がムーアクロフトの名産なのよ。あたしは、ペイルの木の管理をしているの」

 たしか果樹園の世話に夢中で、ゲーム世界には顔を出さない。
 果樹園も、ゲームでは立入禁止になっていたし。

「つまり、まだ実装されていなかったのか」

 ゲームが販売された当初は、開発中だったか。
 その可能性が、あるな。
 
「どうしたの、ベップおじさん?」

「ああいや。なんでもない」

 メタ推理は、よそう。

 あくまでも、ここにいるのは第二王女だ。
 
 ミラベルと一緒に過ごすだけで、充分じゃないか。

「着いたわ。どうぞ」

 スタッと、サクラ姫が馬車から飛び出す。

 森をちょっと行った先に、果樹園はあった。

 スイカくらいデカい梨のような物体が、木になっている。
 
 なんて大きな大木なんだ。
 リンゴや桃とか、柿の木とかを連想していたが。
 こういう木を、世界樹と呼ぶのだろう。
 
 梨の周りを、ハチが回り込んでいた。これまた、カラスくらいデカい。

  
「あーまた。やっぱり、モンスターが湧いているわ」

 サクラ姫が、王笏を両手に持って振り回す。

「ふん!」

 ドレス姿だというのに、モンクばりの格闘術でハチたちを追い払う。
 巨大ハチに刺されそうになるが、機敏な動きで回避してカウンターを打ち込む。
 
 随分と、こなれているな。

「新手だ」

 鳥型モンスターも、湧いているし。
 カラスまで、やってきやがった。あちらもでかいな。

「あっちは、オレたちで倒そう」

「うん!」

 世界樹に、炎魔法が燃え移ってはいけない。

 氷属性の攻撃で、倒すか。
 とはいえ、範囲攻撃だと土にダメージが行く。

 だったら。

「【アイスアロー】!」

 ミラベルは、氷の矢を杖に形成した。
 飛んでいる魔物に向けて、氷の矢を打ち込む。

 翼を凍らされて、鳥型の魔物が墜落した。

 そこへ、ミラベルがとどめを刺す。

 氷魔法だけで倒せないなら、これでいい。 
 
「【アイスジャベリン】!」

 氷でヤリを形成し、三匹まとめて串刺しにした。

「すごいね、ベップおじさん」
 
「これくらい、どうってことない」

 その後も、アローとジャベリンの氷魔法で、鳥形も撃退した。

「どうもありがとう。助かったわ」

 すべての魔物を蹴散らし、サクラヒメが王笏をしまう。

「いやいや。それにしても、あんた強いな」
 
「そうでもないわ。あの野盗に集団で襲われたら、ゼイビアックがいたとしてもどうなっていたか」

 あまり、自分の強さを過信していない。
 サクラ姫は、いい戦士だ。

「どっちかっていうと、こういう役割のほうがいいの」


 サクラ姫が、世界樹に手を添える。

 ハチに潰された果実が、みるみる元に戻っていく。

「あんた、ヒーラーか」

「そうなの。一応、プリーストよ」

 とはいえ、あまりに傷んだ果実は、治癒できないという。

 
「こんな感じで、自然に任せて管理しているから、どうしてもモンスターも寄り付いてしまうの。かといって王国が兵隊を集めると、実の育ちが悪くなるみたいなのよね」

 世界樹は人間が手をかけすぎると、自己治癒能力が下がって苦くなるらしいのだ。
 多少のストレスを与える要因として、魔物がいる環境においているらしい。

 地球の果物とは、逆の発想だな。
 あちらでは人の手をかけたものをクマなどが食べないように、離れた場所に広葉樹を植えるというし。

 サクラ姫いわく、そういう処置もしているが、やはりうまいものを嗅ぎつけられるそうだ。
 どれだけやっても、魔物のほうが賢いわけか。
 
「確かに、少々食われてる実があるな」
 
 モンスターとある程度共存したほうが、おいしい実になるのだという。
 ある程度被害が出るのは、仕方ないのだとか。
 
「ハチは、実まで食うんだな」

「実を食べるんじゃなくて、花の蜜を吸いに来ているのよ」

 ペイルの花とは違う種類の花も、世界樹には生えていた。

「蜜を吸いにくる際に、邪魔な実を落としちゃうのよ」

 それは、迷惑な。

 で、落ちた実をカラスが食っちまうと。
 
「ヘタに生態系を乱すことになるのよ。だから必要最低限の駆除だけやって、売り物にする分だけを収穫するのよ」

 サクラ姫が、実のなっている枝までジャンプした。ペイルの実を一つ、両手でもぎ取る。

 老執事は、組み立て式のテーブルを用意する。
 
「どうぞ。ゼイビアック、切って差し上げて」

「はっ」

 テーブルにペイルの実を置いて、包丁でカットしていく。

「さあ、召し上がってちょうだい。お茶もご用意するわ」
 
 ホントに、スイカみたいな食い方だな。

「いただきます」

「いただきまーす」

 オレとミラベルは、両手で梨を掴み、実にかじりついた。

 シャク、と梨の瑞々しさが、口の中に拡がっていく。

「おいしい!」

「でしょ? こんなに大きいのに、スイスイ食べられるのよ」

 確かに、あっという間になくなってしまった。

 スイカまるまる一個分が、胃に入っている。
 なのに、全然重くない。
 満足感だけが、拡がっている。
 これは、人気商品になるわけだ。

「そういえば、魔物に襲われていたみたいだが?」

 お茶をもらいながら、オレは質問をする。
 
「あの連中はペイルの実じゃなくて、あたしを狙っているのよ」
 
 どうも魔王の手先らしく、サクラ姫を連れ去ってムーアクロフトの影響力を弱めようとしているそうだ。

「そこでお願いなんだけど、護衛をしつつ、ヤツラの討伐をお願いできないかしら?」
 
「護衛って。サクラ姫は、自分で戦うつもりか?」

「ええ。お父様を心配させるわけには、いきませんもの」

「つっても、一応話し合ったほうが」

「それだと、魔王軍を抑え込んでいる兵を、こちらに向けてしまいますわ」

 ただでさえ戦局が逼迫しているのに、これ以上兵を分散できないと。

「でも、お話しておいたほうがいいよ。隠しごとなんてしていたら、余計に王様が心配しちゃう」

「そうね。とはいえこちらとしては、お父様に負担はかけたくないのよね」
 
 そうだ、と、サクラ姫が手を叩く。

「あなたたちを、お父様に紹介するわ。護衛をお願いしているって。それでいいかしら?」

 いいんだろうか?

「ホントに、わたしたちでいいの?」

「あなたたち以外に、適任者はいないわ。あなたたちは、充分に強いもの」

 というわけで、再び馬車の中へ。

 おお、ムーアクロフトの王城に足を踏み入れることになるとは。

 かつては「勇者のアバター」で入ったことはある。
 だが、こんなナリで王様は納得してくれるのか?
 今から、心配になってきた。

「ベップおじさん、緊張するね」

「だよな」

「わたしも、さっきからドキドキしっぱなしだよ。王様に会うんだから。自分の国の王様にだって、会ったことがないのに」

「うんうん」

 オレは、別の意味で心配しているけどな。
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