ゲームの世界に転移して、攻略不可だった最推し「勇者の妹」と旅に出る!

椎名 富比路

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第三章 船旅と人魚と水着回

第11話 人魚の島(加筆

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 サメ型幽霊船が沈んでいく。

「おいおいおい。オレたちも回収してくれー」

 甲板で立ち往生していると、ギルドの船が迎えに来てくれた。

 どうにか間に合って、船の中へ。
 
「すっごいね、ベップおじさん! あのガイコツが避雷針だなんて、どうしてわかったの?」

「メロから、クラゲの弱点を聞いたときだ。それで、ひらめいた」

 水管といえば、クラゲの傘全体を駆け巡っている。
 つまり、触手以外のほぼ全身が弱点だ。
 それをガイコツで守らせるにしては、弱い。
 で、避雷針代わりにしているのでは、と考えたのだ。

「そこまで発想が飛ぶなんて、歴戦の勇者ですよ」

 メロからも、褒め言葉をいただく。

「戦ったら、おなかすいちゃった」

 きゅるーっと、ミラベルの腹の虫が鳴く。空腹の音さえカワイイとか、反則だな。

「いいものがあるぞ、ミラベル」

「うわ。サクラ姫のところの木の実だ!」
  
 オレは、【世界樹の枝】から果実を生み出す。サクラ姫の国でなっている果物より、一回りほど小さい。りんごくらいかな。

「ありがとう、ベップおじさん! これ、めっちゃ甘いんだよ。メロちゃん、どぞどぞ」

「ミラベルさん、ありがとうございます」

 自分が腹減ったといっていたのに、真っ先にメロのために切って食べさせる。
 ミラベルのこういうところが、天使だ。女神といってもいい。

「みんなで分け合いっこしよ」

「いや、いいよミラベル。人数分出てくるから、大丈夫だぞ」
 
 この杖はサクラ姫からもらった、魔法使い専用のアイテムである。といっても出てくるのは、パーティ一人につき一個だけ。体力と魔力が小回復する程度だ。が、この杖を持っていれば、一生食べ物に困らない。果実の味に飽きない限り。

「おいしいです。ミラベルさん、ベップさん。ありがとうございます」
 
 りんご大の果物は、味こそスイカに近く、食感は梨に近かった。
 
「すごいね、ベップおじさん。こんなアイテムなんてもらえて」
 
「サクラ姫からもらった中でも、最高級品だからな」

 みんなで、果物を一つずつ食べる。

「本格的なメシは、帰ってからにしよう」

「待ってください。船長とお話してきます」
 
 
 ここで、メロが船長と打ち合わせを始めた。

「わが島へ、つけてくれるそうです」


 船は進路を変えて、人魚の島へつなげてくれるそうだ。

 島の近くまでで船を止めて、小舟で人魚の島へ。

 小山の上に、別荘のような豪華な屋敷が建っている。
 イタリアにありそうな、白い柱と壁のお屋敷だ。
 
「お母様! メロが戻りました!」

「おお、メロ。よくご無事で」

 屋敷から、メロをめちゃオトナにした美しい人魚が現れた。

 メロが、母親と抱き合う。
 おばさんは、配下を大量に連れている。おそらく、人魚のエラいさんか、長レベルの人か。

「よく、海賊に襲われませんでしたね」
 
「こちらの方たちが、助けてくださいました」

「おお。これはこれは」

 メロの母親は、娘ともどもオレたちに頭を下げた。

「いやいや。無事で何よりで」

「大したことはできませんが、宴のご用意をいたします」

 どうも、宴会を開いてくれるそうだ。

「時間がありますので、それまでお待ちください」

 待てって言われても。

「ビーチが広いよ。こっちで待たせてもらったら?」

 さっそく、ミラベルがビーチで泳ぎだす。

「メロちゃんもこっち!」

「はい。お供します」

 天使と人魚が、ビーチで戯れ始めた。

 尊い。実に尊い光景だ。

 ベンチに腰掛けながら、その尊みを味わっている。

 海賊の襲撃が収まったためか、メロも元気を取り戻したようだ。
 よかったよかった。
 
「そうだ、おじさん」

 メロと泳いでいたミラベルが、身体を拭きながら戻ってきた。

「どうした?」

 一緒に泳ぎたいのか?
 あいにく、あの尊い空間に入る勇気はないぜ。
 
「わたしたちばっかり盛り上がっても、つまんないよね?」

「いいんだ。楽しんでてくれ。オレは、リラックスできて最高なんだ」

「わかった! もうちょっと遊ぶね」

 またミラベルが、海の方へダッシュしていった。

 いい。女の子は、元気な方がいいよな。
 
「どうぞ」

 世話役なのか、エプロン姿の人魚がオレの座るベンチにクリームソーダを持ってきてくれた。

 こっちの世界にも、青いソーダってあるんだな。
 
「おお、どうも」

 ああ、至福のとき。
 この光景のために、オレは生きてるんだな。

 クリームソーダも、実にウマい。アイスクリームが乗っていて、ソーダも甘くて。

「ベップおじさん、一口」

 ミラベルが、オレに顔を近づけてきた。

「おお。どうぞ」

 オレの使っていたストローに、ミラベルが口をつける。

「おいしい。ありがと、おじさん」

 ミラベルはそのまま、はにかんでいた。だが、すぐにほっぺを赤く染める。

「あはは……」

 赤い顔を両手で覆い隠して、ふざけて笑い出す。

 自分がなにをしたのか、理解したのだろうか。

「お二方は、そういうご関係だったのですね? 気づきませんで」

 メロが慌てて、屋敷に引っ込んだ。何かを持って、戻って来る。
 
「そそそ、そうだ。ベップおじさんっ。スキル振りとか、考えたほうがいいかな?」

 照れ隠しのつもりか、ミラベルは話題を変えた。

「いや。宴会が終わってからでいい」

 今は、戦闘のことなんて忘れよう。

 どうせまた、めちゃくちゃ戦うときがあるんだから。

 そのためにメロは、オレとミラベルを引き止めたんだろうし。

「あの。どうぞ」

 変な気を使って、メロがハート型に曲げたストローを持ってきた。
 
「おお。これは伝説のカップル用ストローではないか」

 リア充しか使用を許されない、いかにもカップルテイストなアイテムが、今オレたちの手に!
 これ、夢だったんだよなあ。
 ドラマとか、SNSの動画とかに上がってて、こういうのを使ってジュースなりソーダなりを飲むんだよ。

 ああ、爆発しろって思っていたが。

 間近で見ると、破壊力がすさまじいな。

「どうする、ミラベル?」

「えへへぇ。使おうよぉ」

 オレは萎縮しているが、ミラベルはそうでもない様子。

「人のを一緒に飲んだりして、ミラベルはイヤじゃないのか?」

「さっき飲んだじゃん。ミィは、気にしないよ!」

 ミラベルがそこまで言うなら、いいか。

 ストローを交換し、ソーダに差す。

「いくぞ」

「うん」

 二人同時に、ちゅーっと、吸い上げる。

「んふふうふ」

 ちょっと飲んだ辺りで、ミラベルが悶絶した。

「ぷはああ。おいしいねっ。ベップおじさん」

 また照れ隠しなのか、あくまでも味の感想をオレに尋ねる。

「そうだなっ。うまいな」

 オレも、ミラベルに合わせた。

「アイスも、どうぞどうぞ」

 おっと。忘れていたぜ。
 クリームソーダなのに、アイスクリームを食べないとか。バチが当たっちまう。
 もう溶けてしまいそうだ。今のうちに。

 ミラベルが、オレの口に細長いスプーンを寄せてきた。

「あーん」

 おおおお! 推しに「あーん」してもらえる日が来るとは!

 これは、最高のご褒美じゃないか!
 
「食うぞ。あむ」

 ミラベルの誘導で、オレはアイスを口の中に含む。

 別になんてことのない、アイスクリームのはず。
 なのに、極上のスイーツを食った気分になった。

「ベップおじさんも、食べさせて欲しい」

「お、おう」

 オレは、ミラベルからスプーンをもらう。

 ほんの少しアイスをすくって、ミラベルの顔に近づけた。

「あーっ、むぅ」

 ニコニコしながら、ミラベルは耳まで赤くなる。
 自分でやっておいて、照れていた。
 ミラベルの、含み笑いが止まらない。
 
「おじさん、こんなに楽しくていいのかな」

「いいんじゃないか?」

「でも、人魚さんたちがわたしたちを招いたってことは、そういうことだよね?」

 やはりミラベルも、事情を察しているのだろう。

「おそらく人魚の長が、事情を説明してくださるだろうからな。だろ? メロ」

 オレが質問すると、メロが申し訳なさそうに「はい」と告げた。

「実は海賊の件ですが、あれで終わりではないのです」

「どういうこと、メロちゃん!?」

「あなた方は、海賊を倒してくださいました。しかし、あと一週間もしないうちに、海賊たちは息を吹き返すのです……」
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