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第八章 おひとりさまYouTuber、登録者一万超え!?

第53話 夢希の目標

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「二人は将来、やりたいことはあるん?」

 目標か。漠然としか、考えたことはない。

快斗カイトは? なんかあるん?」

「すぐには、思いつかないな。あえて言えば、オレは編集の腕を磨いて、そっちで食っていこうかな」

 まともな会社に入ることはできないかもなと、オレは考え始めている。あまりにも、コミュ障すぎだ。

「で、稼ぎは生活費以外、ほとんど投資に使おうかと」

 オレは、あまり物欲がない。ので、増やして今後に備えるのがいいかなと。

「仕事で成功! よりかは、稼いで自由な時間を手に入れたい感じ? 早期リタイアみたいな」

「近いかもしれん。オレは『成功』より、『働きたくない』という気持ちが強いな」

 仕事はそこそこで、自分や家族の時間を大切にしたかった。

「子どもができたら、二人で育てることになるし。それに近いかな」

「いいじゃん。家族が大事って。でも、歳の割には仕事に対して消極的だよね。なんで、そういう思考になったん?」

「周りの親戚が、仕事人間ばっかりでさ」

 体を壊しても働いている姿なんて見ていると、「この人たちは、なんのために働いているのだろう?」と思うようになったのだ。彼らの子どもだって、つまらなさそうだった。「大切なのは、本当に仕事なんだろうか?」と。

「両親は反対に、家族の時間を持とうとするタイプでな。オレはそうやって育ったんだ。だから、あんまりガツガツしてない。もちろん。一番影響を受けているのは、星梨セイナおばさんかも」

 彼女の稼ぎ方が、一番折れには合っていた。 

「わたし、実はやりたいことが見つかりましたっ」

 夢希ムギが、手を挙げる。

「なにになりたいんだ?」

「洋画の吹き替えの脚本!」

 つまり、翻訳家になりたいらしい。

「この間公開されたロボットアクションの洋画でさ、『声優無法地帯』ってのがあって。ああいうのをやりたい」

「あれ、原作改変もいいところだったんだろ?」

「そうそう。そこがよかった。わたしが求めている吹き替えって、ああいう感じなんだよ。アドリブバンザイ的な」

 たしかあのシリーズ、原作のシナリオが普通すぎるというかつまらなくて、吹き替えで好き勝手やっていたらしい。一九七〇年代くらいからある伝統文化だ。

 夢希は、それを継承したいのだという。

「じゃあ、オレにも、さっき目標ができた」

「どんな?」

「夢希の夢を応援すること」

 オレの発言に、夢希とモミジが「きゃー」っと顔を隠した。

「それ、思ってても素直に言えないよ~。いやあ。夏も終わるのに熱い!」

 オチがついたところで、今度こそ雑談は終了に。

「今日は楽しかった! 夢が叶うといいね!」

「ありがとう。モミジもがんばって」

「ふたりともあんがと!」


(第八章 完)
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