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第三部 湯けむりシスター 冬ごもり かに……つみ…… ~温泉でカニ三昧~

温泉でアイスは、罪の味

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 はあ、生き返ります。

 わたしたちは、温泉でくつろいでいました。
 露天の岩風呂です。
 夜空を見上げると、月明かりがありますよ。わずかに、雪がちらついていますね。

「ふいー。いい湯だなぁ」

 ソナエさんも、お盆にトックリとおチョコを乗せて、雪見酒をしています。

「本当ですね。ひと仕事終えた後のお風呂は、最高です」

 わたしはアンデッドではありませんが、「生き返る」という表現はこういう状態をいうのでしょう。

「むう。せっかくのポーリーヌさんの晴れ姿ですのに」

 ひとり、ふてくされている人がいますが。

「追い出されてしまいましたわ」
「しょうがないでしょう、姫。あれだけ騒がれては、監督のご迷惑になります」

 侍女の方が、ウル王女を慰めます。

「あのさ王女さんよぉ、そちらの方は?」

 そっか、ソナエさんはこの女性を知らないんでしたっけ。

「わたくしの侍女で、カロリーネといいます」
「『馬使いのカロリーネ』です。以後、お見知りおきを」

 灰色のショートカットをした長身の女性が、ソナエさんにあいさつをします。

「あなたはご存知でしょ? クリスさん」
「はい。同じクラスでしたから」

 遠足で王女にお給仕していたのも、彼女でしたね。
 気になるのが、学生当時と顔が変わっていないところでしょうか。

「えっと、御者さんのお孫さんなんですよね?」
「はい。先日も祖父がお暇をいただきまして、共に焼き肉を。シスター、その節はありがとうございます」
「いえいえ! ご満足いただけたならなによりですよ」

 お礼なんて、言われちゃいましたよ。

「は~あ、熱いですね」

 一旦、お湯から上がります。身体でも洗っていましょうかね?

「あたしもちょっと夜風に当たるか、よいしょっと」

 ソナエさんも、岩風呂から上がりました。

「いいもんだなぁ。こうしてのんびりしているのも」
「明日の朝には、帰らないといけませんが」

 身体を洗いながら、二人で語り合います。

「背中を流そうか?」
「いいですか? では、遠慮なくお願いしちゃいます。あとで交代しますね」

 こうして、友人同士で背中を流し合うのはいいものですね。

「ナギナタ、役に立たずに済みそうですね」
「だな。役立てるとしても、山猿を追っ払うくらいだろう」

 交代して、今度はわたしがソナエさんを洗います。

「ん? 二人の姿がねえな?」

 温泉の方を見ると、たしかに二人がいません。どこへ行ったのでしょう?

「まさか、あたしらの目を盗んで、また女優を見に行ったんじゃ?」
「ありえませんよ、それは」

 夕飯前に、撮影も終わっているらしいですから。

 散々カニを食べたわたしたちは、さすがに夕食を遠慮しています。

「みなさん、温泉アイスなんていかがでしょう?」

 浴衣に着替えたウル王女とカロリーネさんが、ソフトクリームを用意してくれました。
 ワッフルコーンに乗っています。

「どこで準備したんです?」
「そこの売店で、買いましたの」

 王女が自分とわたしの分を、カロリーヌさんが片方をソナエさんに渡しました。

「え? 大丈夫なんですか?」
「もちろん。氷魔法を使っていますから」

 よく見ると、王女が手の平に冷却の魔法を施していますね。

 なるほど、その手がありましたか。

「いただきます」

 せっかくですし、熱い温泉の中でアイスを食べましょう。
 物を冷やす魔法なら、わたしにも扱えますし。

 ああ、罪深うまい……。

 こんな背徳的なシチュエーションで食べるアイスの、なんたる業の深さですよ。

 アイスも甘くて冷たくて、でも身体は温まるという。

 全身が困っています。こんなぜいたく、許されるのでしょうか?

 最後の最後で、こんな罪が待っていようとは。

 これ、おうちでもできますかね?

「いいね。熱いときもアレば冷たいときもある。まるでさっきの先輩女優みたいじゃないか」
「そうですね。ポーリーヌさんはきっと、味のある女優さんになることでしょう」
 

       (カニ編 完)
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