異世界ゴスロリナイン ~女子野球が盛んな異世界に、監督として召喚された~

椎名 富比路

文字の大きさ
16 / 26
第二球 選手《キミ》がいて監督《オレ》がいる風景

第16話 【六回オモテ】 強打者シトロン

しおりを挟む
 わがフワンボワーズは、魔王城を寮にしている。

 ハーピーのイベール姉妹は、親から寮生活を反対された。しかし、魔王の説得によって事なきを得る。学生生活のうちは、自分たちのやりたいことをさせるよう約束させた。魔王の言葉とあったら、さすがに反対できなかったようである。

「じゃじゃーん。ポム特製のアップルパイだよー。めしあがれ」

「姉さん、お料理の寄り分けが先。きょうの料理はポトフとじゃがいものガレット」

 ポワールの作ったガレットは、お好み焼きかチヂミのようなクセになる食感だ。そば粉を使っているためか、風味もすばらしい。

 アップルパイは、ジューシーで酸味も効いている。

 といっても、二人はメイド服がお気に入りのようだが。妹のポワールは古風なメイド服なのに対し、ポムはミニスカだ。

「それでさー、イチゴー監督ちゃん。ウチらはどこへ配属されるん?」

 あ、ポジションの話か。

「ポムはライト。ポワールは、センターに入ってくれ」

 二人は、外野手として起用する。

「ライト?」とポムが、「センター?」とポーワルが聞き返してきた。

「共に外野手だ。ライトは右翼手。センターは中堅手だな」

「イチゴー、ホワイトボードを召喚しようぞ」

 魔王ラバが、ホワイトボードとペンを出す。口で説明しても、二人にはわからないと思ったのだろう。

「グラウンドがこうあるとする。二人のポジションは、こうだ」

 絵で見せてあげると、二人は軽く絶句した。

「結構離れてんじゃん!」

「これでは、抱き合えない」

 そっちで戸惑うのか。

「だが、二人のコンビプレーが活かされるのもここだ。よろしくたのむ」

 
―――――――――◇ ◇ ◇―――――――――

 
『さて盛り上がってまいりました、野いちごフランボワーズ学園対聖さくらんぼスリーズ女学院。六回オモテ! 八番が打ち取られてワンアウト。続きまして、ピッチャーのパステーク選手がバッターボックスへ。ここはフォアボール』

 歩かせたかったわけじゃない。ペシェはやはり疲れているようだ。
 肩に負担はかかっていない。
 おそらく、精神面で追い詰められている。

「タイム」

 オレは、試合を止めさせてもらった。

「ペシェ、平気か?」

「ええ。計算のウチですわ」

 顔や口調では、ペシェは余裕を見せている。しかし、疲れやプレッシャーに押しつぶされそうなのは目に見えていた。

「油断するなとは言わん。だが、ムリはするなよ。いざとなったら、ムロンに交代してもらう」

 元々相手チームだったムロンは、おそらく対策されている。それでも、まだ数ヶ月時期が開いた。ほぼ別物のピッチャーに、仕上げたつもりだ。

「おまかせを。手間は取らせませんわ」

 とはいえ、満塁のピンチに。三番は意地で抑えたが。

『現在ツーアウト満塁です。この状況で現れましたバッターはこの人! スリーズ学園の主砲、四番のシトロン選手!』

 ペシェの疲労が溜まっているときに、この剛腕打者が相手か。

「五回オモテではおとなしかったが、そこからペシェは五番に打たれておる。自分の打順を犠牲にして、ペシェの球筋を読んだ可能性があるのう」

 魔王が、状況を分析した。

「だな。そろそろチェンジアップが通じなくなってきたか」

 ここで打たれたら、逆転である。最悪、ホームランで一気に四点を取られてはヤバい。

 とはいえ、こちらも想定済みだ。「絶対に打たれないカーブ」を封じただけで、ペシェのスタミナ温存はできている。まだまだこれからといっていい。

 ボールカウント三ボール、二ストライクの場面まで、追い詰める。

 オレは、勝負しろとサインを送った。

 例のごとく、ペシェが赤面する。なにか変な電波を、受信したのだろう。

 ペシェが振りかぶって、ストレートを投げた。

 待ってましたとばかりに、シトロンがボールに食らいつく。

 金属バットの音が、ホームランを予感させた。

『打ったーっ! これは大きい! ライトを抜けていきそうだが……ああっと!』

 ハーピー姉妹が両方、ライト前まで集結する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...