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ボクは知ってるよ

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「えへへ。今日はボクのために来てくれてありがとー」

 スタンドに立てたスマホの向こう側に、ミヨコが呼びかける。

 ミヨコは、バーチャルアバターを使った配信者だ。
 女性であるが、アバターは少年である。

 歌っているミヨコに、たくさんの投げ銭が飛び交う。
 
 恋人である僕は、物音を立てないように行動をする。

 水を用意したり、機材のチェックをしたり。

 ボクは投げ銭はしない代わりに、ミヨコのお世話はする。


「他のVで配信者で好きなコ? 断然、『ホシカラ キタァ』ちゃん!」

 投げ銭つきの質問に、ミヨコが答える。
 
 そっか。あはは。


 僕が食器を洗っていると、アクビをしながらミヨコが戻ってきた。

「配信終わったぁ」
「お疲れ様。何か作ろうか?」

 もう夕飯ではなく、夜食になってしまうけど。
 
「今食べるとお肌が……でも、ナオヤのお料理には抗えない」
「軽めになにか作るね。パスタでいい?」
「うん。ミート!」
「はいはい」


 僕は、ボロネーゼを作る。


「うん、やっぱナオヤのミートソースが好き」
「ありがと。でさあ、僕も投げ銭したほうがいいかな?」

 話してみると、ミヨコは手をブンブンと振った。

「いいっていいって。自分のために使って! 生活費とか、半分も出してもらってるんだから!」
「おおげさな。食事代だけじゃん」
「それでもうれしいよ。でも、ムリしないで」

 ミヨコは相当稼いでいる。だから、後ろめたいのだろう。

「でもさ、推し活している人に申し訳ない。僕と同棲しているってわかったら」
「キミはキミで、推し活してんじゃん。まあ、推し活っていうのかわかんないけどさ」

 フォークで大量に、ミヨコはボロネーゼを巻く。
 それを、一気に口の中へ放り込んだ。
  
「わかった。お金は大事だもんね」
「今度、キミの実家にも連れて行ってね」
「う……わかったよ。考えておく」
「約束だよ。じゃあ寝るから」
「早くない?」
「だって、あと何時間かしたら、ホシカラちゃんの配信始まるんだもん」

 僕は、言葉に詰まる。

「う、うん。わかったよ。じゃあおやすみ」
「おやすみー。今日はありがとーねー」

 僕は、部屋を出ていった。

 はあ、さて……行くか。
 ホシカラ キタァちゃんの元へ。
 

 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~

 またはぐらかされちゃった。
 
 でも知っているよ。

  
 キミが『ホシカラ キタァ』ちゃんだって。


 ボイチェとバーチャルアバターを使って、美少女アバターで配信しているのを。
 ボクに気を使って、配信者だってこと隠しているよね?

 ボクより人気があって、所属事務所でもトップアバターだから。
 
 いつも別アカウントで投げ銭してるの、気づいているかな?
 だから、キミにお金を払ってもらっているの、気を遣っているんだよ?


 今晩のゴハンがボロネーゼで、ちょっと焦がしちゃったっていうの、ボクしか知らない情報じゃん。

 ごまかしたって、ムダなんだから。

 でも、怒ってないからね。
 いつだってボクは、キミの味方だよっ。

 いつか追いついてあげる。
 それが、ボクにとっての推し活だから。
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