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ねえねえオタクくんさー、それワインじゃなくてブランデーの持ち方だよねwww

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 ボクは、学校でのウップンを晴らすため、行きつけのゲーセンで遊んでいる。
 主にシューティングで、何かを壊すことに快感を覚えるのだ。

 対戦格闘は、あまりやらない。
 興味がないというより、人間を相手にするのが怖いのだ。
 一人プレイなら、ある程度はやるけど。

「ねー、ココ開いてる?」

 耳元で、少女から声をかけられた。
 こっちが「開いてますよ」と答えるより先に、JKはボクの隣にドンと腰を下ろす。
 なんなんだよいったい。しかも、この子はうちの制服を着ているじゃないか。
 うわ、あんなにも胸が開いて。ブラが見えそうだ。

「やっぱ宮川ミヤガワじゃん」 
「……ええええ榎本エノモトさんェ!?」

 驚きのあまり、ボクは1プレイムダにしてしまった。
 ぼかーんと、ボクの操る飛行機が画面上で死ぬ。

「もう、みんなみたいに『コノン』って呼んでよ」
「あ、はいごめんなさいコノンさん」

 榎本 恋音コノンさんは、クラスでもボクの隣だ。
 そのコノンさんが、ボクのすぐそばにいる。

「こういうゲーム、好きじゃないですよね? 楽しくないですよ」
「なんで敬語なん?」
「だって、ボクなんかと話しているところなんて見られたら、恥ずかしいですよね」
「え、なんで? いいじゃん。ゲーム見てるだけだし」
「で、ですよね」

 正直、集中できない。
 さっきから、コノンさんの胸元がチラついて。
 クラスでも、彼女はボクを授業中にからかってくる。
 わざと脚を何度も組み替えたり、ブラウスの胸元を見せびらかすように開けたり。

「変な持ち方しているね」
「ワイン持ちっていうんだ」
 
 レバーの球の下の柱を中指と薬指の間に入れて、球を手のひらで下から抱え込む。
 こうするとレバーが安定して、細かい動きを調整しやすい。

「ふーん。あのさぁ、ちょっといい?」
「どうぞ」
「それ、ブランデーの持ち方だよね?」
「あ……っとぉ!?」

 ボクは、あやうく死にかけた。

「あばばばば」
「やっぱりそうだよね? ブランデーの持ち方なのに、ワイン持ちって言い方が定着しちゃったんだ。オヤジが酒を飲むから、あたしはこっちが定着したんだよね」
「そうだったのか」
 
 ウチは家族が誰もお酒飲まないから、わかんなかった。
 
「ねえねえ」
 と。


「家でアレするときも、こんな持ち方なん?」
「ばばばばば!」

 ぼかーん。二機体目が爆風に飲まれた。
 
「何を言ってるんだよ! そんなわけないだろ!」
「え? 鉛筆の持ち方を聞いてたんだけど! ウケル!」

 嬉しそうに、手をパチパチと叩く。

「勘弁してよ。もうおちょくってこないでよ」
「ゴメンゴメン。宮川と知ってるゲームで話すの、楽しくてさ」
「え、知ってるゲーム?」
「だってそれ、『デライアム』シリーズでしょ? 昆虫型の戦艦とばっか戦うやつ」

 まさか、このドマイナーゲームを知っている女のコがいたなんて。

「それめっちゃ好きでさ。シリーズ全部『ストーム』で揃えちゃった」

 ネットショップでダウンロードしてまで、買ってるなんて。
 ボクと同じじゃないか。
 
「クラスだと全然、そういう話ができなくてさ、宮川がハマっててよかったー」
「う、うん。そうなんだ」
「できればさ、この後、ムックいかない? テリヤキバーガー食べながらさ、一緒に話そうよ」
「は、はい」
「じゃあ、行こっか。ヒロム」
 

 ぼかーん。
 
 ボクはわざと撃沈する。
 ネクストステージが決定したからだ。
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