カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか?

椎名 富比路

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第一章 美人社長とゲームを一緒に遊ぶのは辞令ですか?

マネーのクマ

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 オレの異動を記念して、同僚たちがお祝いの飲み会を開いてくれた。といっても、割り勘だが。

「それでは、同士である花咲 電太くんの島流しを祝してかんぱーい」

「わーいカンパーイ」

 みんなでジョッキを鳴らす。

「お前、出て行くのに明るいなぁ」

「だって、めでたいんだぜ。今日はパーッとやろう」

 決してやけっぱちではない。本当に楽しみなのだ。 

「まさか、お前が飲み会に来るとはな」

「いつもは、ゲームを優先して断るのに」

 同僚たちの言いたいこともわかる。

「お前らと話せるのも、今日が最後だしな」

 こうして彼らとブラックジョークを交わす日も終わりか。そう思うと、足を運びたくなったのだ。 

 始まったばかりなのに、飲み会の場がしんみりした空気になってしまう。

「ああ、スマン湿っぽくなったな。飲もうぜ」

「んだよ。お前ウーロンじゃん」

 同僚のユーモアのおかげで、場に笑いが戻る。

 ちなみにオレは、飲めないのでウーロン茶だ。

「先輩先輩、このチャンネル知ってます?」

 後輩がスマホで、「令和のクマ」というチャンネルを見せてくれた。

「これ、オレが学生の時に放送していたヤツだな」

 その昔、『マネーのクマ』というタイトルで放送されていたTV番組の、ネット配信版だ。

「クマ」と呼ばれる出資者を説得して、お金を融資してもらうファンディング番組である。
 当時は、俳優さんが司会だったんだよな。

「おお、岩本社長じゃん。白髪増えたなぁ。あれ、北原社長って出資に失敗して借金まみれだったじゃん!?」

「ニコラの飯塚社長が出資して、復活成されたんですよ」

 後輩が、説明してくれた。彼女のグラスはこれで、もう七杯目である。顔色は変わっていない。

『お願いします! あなたしかいないんです!』 

 プレゼンターの男性が、女社長の足にしがみついていた。希望額をクマが出さなければ、プレゼンターは退場させられる。

『話になりません。出直してきなさい』

 対する女社長は、プレゼンターを足蹴にした。



「おい、この社長って!」

 なんと、出資者側に座っているのは飯塚社長ではないか。


 ここで動画が暗転し、飯塚社長をクローズアップする煽りPVが始まった。



『プレゼンターが食い下がるこの女性こそ、株式会社ニコラCEO、飯塚いいづか 久里須くりすである! 元現役JK社長としてその名を轟かせた、若きカリスマ!』

 飯塚 久里須はその昔、現役JK起業家として、当時珍しかったスマホに着目、アプリの開発を考える。

 その際『マネーのクマ 年末復活祭』に一七歳のときに出演した。

 だが、クマの反応は冷たいモノばかり。
 彼女が、支援など必要ない『財閥の娘』だったから。

『なんで、資金が必要なの? 親は頼れない?』

 当時の映像が流れてきた。

 若かりし頃の岩本社長が、優しくも厳しい視線を飯塚久里須に向けている。

『親の世話になんかなりたくないんです! 私は新しい世界を築く! そのためには、古いしきたりにこだわってちゃダメなんです!』

 メガネ越しからも、彼女の強い意志が見て取れた。

 クマたちも全員説得し、見事希望額以上のマネーを獲得する。

 すごいのは、それをわずか半年で管財したことだ。今でも、伝説となっている。
 
 その後の飯塚社長の快進撃は、オレたちも知っているとおりだ。
 
 当時に開発したアプリは、今でもスマホを代表するアプリとして絶賛稼働中である。


『あれから一〇年。彼女は今回、クマとして登場した!』

 へえ。彼女もこの番組からのし上がってきたのか。

「この番組は好きで見ていたが、一〇年前にやってたなんて覚えていないな」
「知らなかったんですか? 社長が出てること」
「受験生だったからな」

 一〇年前と言えば、高校の受験勉強に明け暮れていたっけ。
 


『ずっとあなたに憧れていたんです! お願いします。一五〇万でいいんです! わたしには女房と子どもがいるんだ。これが最後のチャンスなんだよぉ!』

『いいかげんになさい見苦しい!』

 低い声で、飯塚社長はプレゼンターを威圧する。



 オレの中で、「キミしかいないんだ」といってしがみついてきた社長がフラッシュバックする。

「あれ、先輩どうしました?」

 赤い顔の後輩が、オレに語りかけてきた。

「いや。なんでもねえ」

 頭を振って、動画に集中する。



 
『本日のプレゼン、クマ殺しならずフィニッシュです』

 司会者が、出資額ゼロを宣言した。

 プレゼンターは、スタッフの手で羽交い締めにされる。

『そんな! ちくしょう! 鬼! 殺してやる!』

 飯塚社長に呪詛を吐きながら、プレゼンターは追い出される。

 大きく息を吐き、飯塚社長は何事もなかったかのように席へ戻った。




「すいません先輩、お店出るって言ってます」

 後輩から言われて、オレは我に返った。

 気がつくと、みんなの酒がハイボールから焼酎に変わっている。

「あっ、スマン! 見入ってた」

 だがオレは、一杯目のウーロン茶を握りしめたままだった。ずっとスマホの動画に目を奪われていたのだ。



「豪胆だな。飯塚社長」

「でも、出資した人はいるんですけどね」

 それが、今回オレが配属される部署だという。



 宴も終わり、みんなはもう一軒回ると言い出す。

「スマンが、オレはこれで」

 顔の前に腕でバツ印を作る。

「カラオケくらいどうだ? 久しぶりにアニソン縛りとかやろうとか思っていたんだが?」

「いや、明日から移動だからな。準備もあるんだよ」

 なおも同僚が引き留めようとしたが、他の仲間が遠慮して返してくれた。

「それもそっか。じゃあなー」

 オレも「じゃあな」と返す。帰ったら即寝よう。

「あっそうだ花咲」

 同僚から、呼び止められる。 

「お前はどこに行っても、うまくやっていけるだろうな」

「ありがとう。うれしいぜ」

 仲間と握手をかわし、今度こそ別れた。



 オレは帰宅し、PCを立ち上げる。

 昼間の事件で台無しになったレベリングとアイテム堀りをした。

 やはり昼休みなんかで済ませられる用件ではなかったと、再確認する。
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