蒼海のシグルーン

田柄満

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古代都市編

第38話 兄妹

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 クレードルから離れたルリは、大きなため息をつくと疲れたような顔でアルケーを見た。

「衝撃の事実でしたわ……」

 アルケーは肩をすくめると首を傾げてルリの次の言葉を待つ。

「この人が私の実兄だったなんて。正直、もう一人のわたくしを見た時よりショックが大きいですわ」

 アルケーはニヤリと笑った。
「思い出したのかね?」

「ええ、まだ心の整理はついていませんけど……何もかもとはいきませんが、お兄様やカーラお姉さまと過ごした日々も思い出せましたわ」

「記憶は情報で情報はエネルギーだ。記憶を取り戻した今、前のような漠然とした不安感は無くなっているはずだが?」

「確かに、足元に地面がないような不安があったけど、今はありませんわね」

「不安は曖昧さから生じる。情報が補われれば自然に消えるものだ」

「それはそれとして……」

 ルリはふーっと大きく息を吐くと、キッとアルケーを睨んだ。

「昨日、ドローンが持ってきたペンとカードを読みもしないで捨てたのは何故ですの?」

 アルケーは片眉を上げると、『そんな事か?』という顔をしてルリに答えた。

「他に優先すべき事項があったからだ。それに壊れて使えないものを持っていてもしょうがあるまい?」

「あれがわたくしからお兄様への誕生プレゼントと知ってもですの? しかも、プレゼントした本人の目の前ですのよ」

「プレゼントとしても、貰った後をどうするかは私の好きにさせて欲しいな」

「まだ渡してすらいませんでしたわ!」

「確かに、前のどこかオドオドした感じがなくなっている。あれが本来のルリなんだな……」

 ノーマンがルリの様子を見て独りごちた。
 ルリがアルケーに食ってかかる姿を見て、カーラが思わず吹き出した。

「随分と時間が経ったけど、あの頃のルリが戻ってきた感じね」
 懐かしいものを見るような、遠いものを見る眼差しだった。

 加藤が眉をしかめながら、カーラに聞いてきた。

「なあ? ルリってアルケーの妹なのか?」

「そうよ、ルリとアルケーは実の兄妹なの。私はアルケーと結婚したからルリは義理の妹になるわね」

「まじかよ。あいつ実の妹と嫁さんをルミノイドにしたのか……」

「アルケーは非難されることは多いでしょうし、私もアルケーには疑問しかなかった。……でも」

「でも?」

「今ならなんとなくわかる。アルケーは私やルリと過ごす時間を失いたくなかったんじゃないかって。どんな形であれ、記憶に留める存在にはしたくなかったのでしょうね」

「うーん、わかんねえや」

「昨夜のスイートルームも純粋にアルケーの好意だったかもしれないのよ。本当に不器用な人だから……」

 まだ、言い合っているルリとアルケーにノーマンが割って入った。

「ところで、これからどうするんだ? また暴走カーラが来るまでじっと待ってるのか?」

 アルケーは顔を引き締めると、ノーマンやカーラに向き直った。

「改めてカーラに聞きたい」

「はい?」

「ヌシとの戦いに協力してくれるか?」

「そのつもりよ、あいつは私が止めます」

「ルリ、君にも聞きたい。ヌシとの戦いに協力してくれるか?」

 ほんの一瞬、カーラを頼るように見たが、次に向けた視線は揺るぎなくアルケーを射抜いていた。

「わたくしの力で傷つく人を救えるなら、わたくしは戦いますわ」 

 ルリは胸の奥にまだかすかに残る恐怖を押し殺すように、膝の上でぎゅっと拳を握った。震える指先を隠すために背筋を伸ばし、顔を上げる。その瞳には、怯えを乗り越えた確かな光が宿っていた。

 アルケーはしばし見つめた後、ゆっくりと頷いた。

「満点だ」

 その一言が響いた瞬間、場の空気が変わった。ノーマンは息を呑み、加藤は腕を組んで小さく笑う。
 カーラは静かに微笑み、妹の背中を支えるような眼差しを送った。だがルリは誰の反応にも目を向けなかった。ただ真っすぐに、兄の瞳を見据え続けていた。

 アルケーは頷くと、カーラやノーマンに向き直して、教壇に立つ教師のように鷹揚に話し出した。

「さて、これでヌシを迎える準備は半分整ったという所だ」

「半分とは?」

「このラウルス・プリーマを防衛拠点にするための準備だ」

 アルケーが手をかざすと、空間に3D化された都市の図面が浮かび上がった。

「ここが、ヌシと邂逅した地点だ」

 高層ビル街の中央部に赤い点が現れると、公園を中心に周りのビルが10棟程赤く光った。

「赤く光る部分が今回被害にあった地点だ。今回はルミノイド化途中のカーラが暴走したので『高次物質科学研究機構』のある地点を中心に被害が出ている。……そして、今我々がいる所がここだ」

暴走カーラと邂逅した都市の中央部から離れた郊外の地下にジオフロントのような広大なすり鉢状の空間が表示されている。

「この地下のすり鉢状の空間がラウルス・プリーマ号だ、地下に埋められジオフロントとなっている。次にヌシが現れるとしたらここになる」

 表示された空間のすり鉢の底、尖った所が今度は青く光る。

「この青く光る部分がマザーオーブの位置だ。見ての通り、最深部に位置している」

「つまり、ここへヌシが到達したら負けると言うことか?」

「そうだ、最悪の場合、強力な重力震が引き起こされて断層のプレートが歪む、ここは海に沈む事になるだろうな」

 加藤が顔色を青くして息を呑んだ。

「海に沈む……珠森村と同じ事がおこるのか?」

「ヌシがマザーオーブに干渉すると重力場が大きく歪む、現実に起こった場合の影響は未知数だが、最悪の場合陸地の沈没もありうる」

 実際に現実としてあり得る事態として知ると、その重さに全員が沈黙した。



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