蒼海のシグルーン

田柄満

文字の大きさ
54 / 56
古代都市編

第47話 デモ

しおりを挟む
「ルミノイドは世界を滅ぼす!」
「亡くなった家族をかえせ!」
「マザーオーブは即刻解体しろ!」
 暴走カーラの暴れた傷跡も生々しく残った公園に人々が集まり、プラカードを手にして抗議のシュプレッヒコールをあげていた。怒号と泣き声が混じり合い、バラバラのシュプレッヒコールは言葉になっていなかった。
 中には頭や腕に包帯を巻いている人や、あの事件で亡くなった人の遺影を持っている人もいた。
 ラウルスシティのセキュリティドローンが何台もデモをしている人の周りをぐるぐるしながら「ここでの集会は許可されていません! 解散してください!」と、警告を虚しく繰り返していた。

 タクティカルルームのモニターでデモの様子を見たカーラは俯き、疲れたような顔で力無く呟いた。
「アクパーラ号の時と同じね……」
 ノーマンがカーラの肩にそっと手を掛けた。

 デモの中から何かが飛んできて、セキュリティドローンに当たるとカーンと甲高い金属音がした。拳大の石が地面の上を転がっている。
「キュポンキュキュ」
 ドローンは一瞬、電子音を上げてふらついたが、すぐに元の体勢に戻った。
「セキュリティドローンへの攻撃は違法です、デモはすぐに解散しなさい! 解散しない場合は、規定に基づき、段階的排除措置を開始します! 繰り返します、すぐに解散しなさい!」
 緊張のある声が大きく響いた。
 セキュリティドローンのセンサーLEDが青から赤に変わった。
 何十台ものセキュリティドローンが大衆を囲むと、電磁パラライザーの放電スティックをむけた。

「これは最後通告です。即座にデモを解散しなさい。解散しない場合、排除処置を行います。なお排除処置による物的、人的被害は補償しません」

 ドローンの電磁パラライザーを見た高齢者や女性らは戸惑い、顔を見合わせて、プラカードを下そうとした、その刹那、また後ろから石が飛んできてドローンに命中した。その瞬間、男が飛び出してふらついているドローンを鉄パイプでたたき落とした。
 地面に落ちたドローンに力任せに何度も鉄パイプを叩きつける。
 デモを囲む別のドローンの電磁パラライザーがバチッと音を立てた。群衆の外縁で、女性の短い悲鳴が上がり、次の瞬間、その声は途切れた。人々が外側から、次々と倒れていった。
 鉄パイプや投石で抵抗しようとする者もいたが、ドローンはぐるぐると回避運動をしながら電磁パラライザーを放つので、一番最初の投石以外は掠りもしなかった。
 やがて、デモ隊のいた場所で動くものがいなくなった。

 その日の夕方、テレビのニュースキャスターが神妙な顔つきで、デモ隊のニュースを告げた。
「今日、昼13:00頃、中央公園跡で反ルミノイド運動のデモが行われました。デモには約二百名が参加し、シュプレッヒコールを上げていましたが、中央公園での集会許可を取っておらず、さらに警備に当たっていたセキュリティドローンを破壊したために、当局に鎮圧されました。なお、当局は市民に対し、冷静な行動を呼びかけています」

 ハンス・セラムは地下作業場の薄暗い休憩室で、ニュースを見ていた。狭い部屋にキャスターの声だけがやけに響いて聞こえる。
 トレーに乗ったニュートリションペーストをちぎったパンで掬って口にした。ヨーグルトに似た味だが、薬っぽい後味が残る。

「あら、お食事中だったかしら?」
 ふいに後ろから声がして、思わず振り返るとドアの前に女が立っていた。
 女は30くらいの年齢で、金色の長い髪にワークウェアの胸元を肌けさせ、どこかこの場所と不釣り合いな印象を抱かせた。
「構わないさ、味わって食べる程の物じゃない」
「あら、そう? 今度ラウルスセンターホテルのディナーでも食べに行く?」
 女はそういうと、口元だけで笑った。
「そうだな、全てが終わってからなら、行くのも悪くないな。ブツは出来ているよ」
 ハンスは立ち上がると、部屋の隅の荷物の山に掛けられたカバーを引き剥がした。
「あら素敵! ちゃんと出来てるわね」
 カバーを外すとそこには、鈍く黒い光を放つAK-47が山のように積まれていた。
「一応、納品書にサインはしてくれ」
「用意が良いわね」
 女は『品名、機械部品』と書かれた納品書に『クイン・ムーア』とサインをした。
「あと、弾も一千発用意してある、そっちも忘れずに持っていってくれ。こいつはレーザーガンと違って弾がないと撃てないぞ」
「わかってるわ」

 横の点けっぱなしのテレビからダコメ議員のインタビューの声が流れてきた。
 テレビの中でダコメ議員は避難場所の確保に全力を上げている事と、ルミノイドは作るべきではなかったと話している。
 クイン・ムーアはテレビを見て半目になると「お父様は甘いわ……」と呟いた。

「デモで逮捕者が大量に出たようだが、支障はないのか?」
「あら、あの人たちは戦力に数えていないから大丈夫よ? 心配してるの?」
「俺も明日からは一緒に行動するからな、戦力は多い方がいいだろう?」
 クインはふっと笑うと、AK-47を手に取った。
「あの人たちにこれを持たせても、まともに撃てはしないわよ」
 銃を構えて、ボルトアクションをするとそっと引き金に指をかける。

「バーン!」

 壁に貼られたカーラの写真に向かって撃つ真似をすると、クインは満足そうに微笑んだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...