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32、救出されたブルックリン

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「おーいエドワード君、最近調子の方はどうだね??」

 エドワードは今は魔法省内で一人で光魔法の訓練中だ。光属性の先生の指示でせっせとポーション作りに精を出している。そこへアーチャーが現れた。

「ええ、中々難しいですが面白いです。元々の火属性と新しい光属性の登場で、1つの大きな塊のエネルギーがそれぞれ2つに分かれるのでは無くて、別のエネルギーが隣にひょっこりと現れる感じがしています。取り敢えずあと数週間で最低限の光魔法使いにはなれそうですね」と微笑んだ。

「そりゃ結構、結構」と笑いながらアーチャーは手を叩いて喜んだ。

「光魔法の訓練が終われば、いよいよ正式な辞令を出すからな。楽しみにしといてくれ」とエドワードを見つめニヤリと笑った。

「それよりエドワード君、ちょっと聞きたいんだけど君ってあの対抗戦の時に準優勝してたよね?あの時に優勝した子って今はどうしてるんだい?」

「・・・・それが、あの後すぐにお父様が亡くなられたそうで、彼女の家って彼女を筆頭に5人の兄妹がいるんです。その生活を支えなければって・・・」と目を逸らし言葉を濁した。

「ーーーーあれほどの力を持つ魔法使いを放って置くのも勿体無いと思わないかい?」と何か含んだ様子でアーチャーが話す。

「ええ、実際に僕もそう思いますし、今も思っています。しかし・・・・実はそれ以外にも気なる事があって」とここで先日のローリーの所で起こった話をした。アーチャーはその話を一通り聞き終えると
「ーーーーう~ん、上手く言えないが君とそのブルックリンと呼ばれる子には何か特別な絆があるようだ。もちろん恋愛とかそう言うだけでは無いよ。おそらくエドワード君が見た映像はそのまま現場を見てる。分かったよ。僕の方から何とか働きかけてみよう」と言いながらエドワードの前から姿を消した。




 その頃には、連日キンバリー魔道具店で大勢のお客さんが訪れ、ブルックリンの作った魔法陣を買い求める人々でごった返していた。作れども、作れども置いた側から売れていく。値段を上げてもお構いなしだ。笑いが止まらないキンバリー。この日も魔法陣の在庫が無くなってくると、ブルックリンの作業部屋へ行き、追加の羊皮紙をブルックリンの目の前に置いた。

「おいブルックリン!これを昼過ぎまでに全て作っておくんだ、わかったな。いつも言うが俺の指示にさえ従っていればいい。これを作っておいたら給料も上げてやるし、未払い分も払ってやるからな」と言いながらドサっと目の前の作業机に置いた。

 ブルックリンは羊皮紙を横目で見ながら「・・・・すいません。先に未払い分を払ってください」と力なく話した。

「ーーーーお願いですから先に払って下さいませんか」と懇願するようにキンバリーを見つめている。キンバリーはブルブルと震えると


「!!っなんだと!!もう一回言ってみろ!!」カッとしたキンバリーは唸りながらブルックリンの頭上に手を振り上げた。

 ブルックリンは思わず殴られないように机の上に顔を伏せ、頭を両手で守る姿勢を取ったが、その時この部屋のドアが開き「ーーーーいい歳したおっさんが言うことを聞かせる為に、若い女の子に手をあげるってみっともないね」とブルックリンが聞いた事がある懐かしい声がした。

 思わず顔を上げると何故かそこにはエドワードがいた。気のせいか最後に見た時より一回り体が大きくなり、顔つきも更に男らしくなっている。

「な、なんだお前は。この子は俺がここで雇っている人間だ。お前にとやかく言われる筋合いはない。さっさと出ていけ、人を呼んでもいいのか??」とキンバリーが叫んだ。

「ああ、すでに呼んであるよ。いっぱい呼んであるから好きなだけ叫んだらいい」と話すとエドワードの後ろからゾロゾロと警備隊が入って来た。そして最後に入って来たのは、手に水晶玉を持ったこの国最強の魔法使いアーチャーだった。

「おい、ブルックリン大丈夫か?しっかりしろよ。」とエドワードが警備隊に連行されていくキンバリーを見ながら、ブルックリンに話しかけた。だがブルックリンの目が虚だ。「ブルックリン・・・・」ともう一度エドワードが声を掛けると、ゆっくりとブルックリンはエドワードに視線を合わせエドワードの方へ気を失うように崩れ落ちた。

(ーーーーなんて事だ、こんなになるまで衰弱していたとは)

 その時、エドワードは初めてブルックリンに触れたが、抱き留めたその体の線の細さに衝撃が走っていた。
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